暗闇に、ギラギラと眩しいネオンが私を照らす。
 前も来た時とは違う、冷たい静寂が身体中を襲った。

「あー、馬鹿だなぁ」

 一人ぽつりとつぶやいて、私はベンチでヒールの靴を履いた足をぶらぶらと動かした。

 ――灰狼町は危ないって有名だけど、安全な場所もある。

 私は『BlooM』という小奇麗な喫茶店の前にあるベンチでぼーっと星を見ていた。

「――あんた、また来たの?」

 店の裏口から、ため息を吐きながら店の店主である、姉後肌の女性が出てきた。
 ふいっとそっちを向いて私は立ち上がる。

「もう、帰りますよ。大分ゆっくりできたし」
「……はぁ、別にまだいてくれていいけどね。中に入る? 閉店前だけど、コーヒーくらいなら出すよ」
「いいですよ。少ないとは言え、佐藤さんの仕事増やすのは心が痛むんで」
「あんたねぇ……、顔は可愛いのに、性格は本当素直じゃないわね」

 眉をぴくぴくとしながらこちらを睨んでくる彼女に、私はぷいと顔を背けた。

 ――最近、いろいろなことがあった気がする。

 脳裏に浮かぶ、二人の同級生の顔を思い浮かべて頬杖をついた。
 夜になると、こう心がざわつくのはなぜだろうか。
 あの時別れてから、リクには会えてない。というか、会おうという気が起きなくなっていた。
 その代わり、友達と呼べる女子が一人増えて……。

「はぁ、展開急すぎよね……」

 私は首を傾げながら、寄った眉間をつついた。

「――佳南ちゃん、帰るなら送ろうか」
「え……佐藤さんがですか?」

 断ろうと振り向くと、佐藤さんは携帯のチャット画面を私に見せつけた。
 その画面に表示されていた人物の名前を見て、私は目を見開いた。





「――なんであんたが来てんのよ」
「いやぁ、それはこっちのセリフじゃない? いきなり佐藤さんからメールが来たからびっくりしたよ」

 にへらにへらと、ここ数日顔も見てない男をぶすっとした目で睨む。
 二回目に乗った彼の来馬。車特有の匂いに鼻を刺激されながら、私はシートベルトに顔をうずめた。
 はあ、と何回目かのため息を吐くと凛はちらっと私を見た。

「なんか嫌なことでもあったの?」
「……別に、嫌なことは……ないよ。あのさ、」
「どうしたの?」
「……やっぱなんでもない」

 私の返事にふっと笑った彼は、いつもより、なんだか、弱々しくなっている気がした。

「凛……こそ、なんかあったの? 最近ずっと休んでるじゃない」
「あー……、ちょっと風邪引いてたんだよ。明日は行くよ」
「ふーん。まあどうでもいいけど」

 窓ガラスに頬をつけ、窓から外を見ていると、凛が微かに呟いた。

「なんか、俺たち似てる気がするな?」
「え? 私とあんたが?」
「いや、なんとなくだけど」


 ――なんで、この時、この人はこう思ったのだろうか。


 少し先の未来で、この言葉がどれだけ私にとって幸福なものだったかを知るのだが、

「そう? そんな似てないでしょ。てか、あんたみたいなたらしと一緒にしないで」
「酷いなー、佳南ちゃん」
「事実でしょ。なんか眠くなってきた」
「寝なよ。着いたら起こしてあげる」

 今の私はまだ、そんなことは到底わからないまま。

 長い夜は過ぎていく。





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