わかってるよ。
 

私立尾花学園、伝統のある由緒正しい学校である。
幼稚舎から大学まで備わっており、偏差値も高い。おまけに男子校で、中学からは全寮制である。

人気も高く偏差値も高いこの学園だが、物凄く辺鄙な場所にある。
山の上にある学園から街に行くには車で30分はかかる。
さらに近くに娯楽施設などは皆無。


そんなこの学園には必然的にお金持ちのボンボンばかり集まり、幼き頃から閉鎖的空間にいたこともあり
ホモやバイの巣窟である。




尾花学園には少し他の学校とは違った特殊な制度がある。
それはランキング制度である。

抱きたい抱かれたいランキングなどというなんとも不思議なランキングがある。

そして高校からはそのランキング上位者が生徒会役員や風紀委員といった学園の運営に携わるような役職へつく。


そのため必然的に顔面偏差値の高い人間が集まり、生徒会役員や風紀委員には親衛隊なるものが存在する。


歴代の親衛隊には過激派なものもあったが、今現在は穏健派ばかりだ。

親衛隊の役割は、親衛隊員の統率や生徒会や風紀委員会の補助など様々である。



そして俺、城内正実はこの学園で名誉なのか不名誉なのかわからないが
抱かれたいランキング一位を獲得し、生徒会長という座についている。




**



「お前はこんな単純なこともできないとはな!風紀委員は無能の集まりなんじゃないか!」


バサリと机の上に書類を置き目の前に座る男を嘲笑う。


嫌味を言ったところて表情一つ変えないこの男は風紀委員長の武内誉という。
抱かれたいランキングは俺に次いで二位だ。


抱かれたいランキング一位が生徒会長、二位が風紀委員長になる決まりで生徒会と風紀委員会は対立することは必須であった。

ーー……ちなみにそれは今年も例外ではない。



「ちょっと、いくら会長とはいえ言い過ぎではないですか!委員長に失礼です!」
「やめろ宮内、構わん。俺が無能なのは事実だ」
「しかし委員長……!」



噛み付いてきたのは宮内空、抱きたいランキングの上位者で風紀委員である。

宮内は悔しいのかこちらをキッと睨みつけてきた。



「他に何か御用がおありですか、会長様」

少しキツめの口調でそう問いかけてくる。



「んー、特にもうないかなぁ。あとは風紀がしっかりしてくれさえすれば問題ないし。不安だからちょっと仕事見ていこうかなぁ〜」
「もう帰ってください!」


ふざけてそう言えば、宮内は涙目でそう言った。

(嫌われたものだなぁ)

そう思いながらも、いつまでも風紀委員の部屋である応接室にいるわけにもいかないので大人しく宮内の言葉に従うことにする。



「じゃあな、武内。精々しっかり仕事してくれよ」
「ああ、善処する」


最後に嫌味を言ってやったが、真面目な武内には通じず思わず笑ってしまった。


そうして俺は自分の仕事をしようと、生徒会室へと向かった。




**



「………………また、やったまった」


生徒会室へと戻った俺は自分の席に座り頭を抱える。



「また、やったんですか?」


そう問いかけてくるのは俺の親衛隊長である河野瑞希、こいつもまた抱きたいランキング上位者である。

瑞希は本来であれば生徒会または風紀委員に入っているはずのランクだが、俺の親衛隊長であるから除外され生徒会の補佐をしている。



「あぁ、またやっちまった」
「いい加減素直になったらどうですか、というか公表したらいいじゃないですか」


素直になる、公表する、というのがなんのことかというと
俺と武内が付き合っているということだ。

そして瑞希は俺と武内が付き合っていると言うことを知っている。


生徒会と風紀が対立しているということと俺が武内相手に素直になれないということもあり、毎度応接室に行くたびに嫌味ばかり言ってしまう。

それが原因で俺と武内は尋常じゃないくらい仲が悪いと思われている。



「もうどうして素直になれないのにわざわざ応接室まで行ってしまうんですか。行かなければ何もせず済むじゃないですか」


はぁ、と溜息を吐き呆れた様子で瑞希はそう言うが。

俺だって実のところ応接室へは行きたくない、他の風紀委員には嫌われているしわざわざ睨まれるくらいならば行きたくない。

ただどうして俺が応接室までわざわざ行くかといえばーー……



「会いたい、からなんだよ」
「誰に、ですか?」
「わざわざ言わせんなよ、武内に決まってんだろ」
「わざわざ会いに行って嫌味言って帰ってくるんじゃ世話がないですね」
「う……」


その通りである、確かにその通りではあるが。
俺だって素直になれるならとっくになっているさ。

好きであんな嫌味ばっか言ってるわけじゃねえっつの。



「はぁ、そろそろ帰りましょう会長。他の役員は全員帰ってしまいましたし、会長も風紀に書類を出せば仕事終わりだったでしょう?」
「ん、あぁ、俺は少し書類整理して帰るから。先に戻ってくれて構わない」


「そうですか、ではお先に失礼しますね」
「あぁ、また明日」



ふぅ、と瑞希のいなくなった生徒会室で一人溜息を吐き今日の出来事について振り返ってみる。

俺は恋人として最低だな、と凹む。


こんなことをしていて本当に恋人と言えるのだろうか、あいつは俺と別れたいと思ってはいないだろうか。

俺はあいつに恋人らしいことをしてやれていない、そう思うと急に不安になった。


不安で再び頭を抱えていると、コンコンと生徒会室のドアをノックする音がした。


「どうした瑞希忘れ物でもしたーー……」


こんな時間に生徒会室を訪ねる者などいない、とすれば先ほどまでいた瑞希であろうと顔をあげればそこにいたのはなんと、


「すまん、俺だ」


武内だったーー……。




「はっ、なんだよお前かよ。わざわざ何しに来たんだ?書類にわからないことでもあったか、ならばこの俺様が教えてやらないこともない」



恋人らしいことの一つくらい言ってやろうと思っていたのに、口を開いて出たのはまた嫌味だった。


しまったまたやってしまったと、自己嫌悪していると武内は何も言わずにこちらへとやってきた。



「む、無言では何の目的かわからん、一体何しにーー……!」


と次の瞬間、俺は武内に抱きしめられていた。

突然のことにオタオタと慌てていると、武内がようやく口を開いた。



「わかってるから」
「え……?」


「正実が素直になれないことも、色々と言って凹んでることも。それも全部ひっくるめて可愛いって、好きだって思ってるよ、俺は」
「あ、えと、」


抱き締めてそんな甘い台詞を吐かれるなんて思っていなかったので、俺は照れて返事もできないしましてや嫌味など出てくるわけがない。



「た、たけうーー……」
「誉と呼べと言ったはずだ」
「ほ、誉……」
「なんだ?」


誉、とそう呼べばにこりと微笑みかけてくる。
そんなことされれは俺はますます赤くなることしか出来なかった。



「……誉、俺も、俺も誉がすき、大好き。普段言えないし、余分なことばかり言っちゃうけど、誉がちゃんとすきだよ」
「知ってる」
「誉は、こんな俺でもすきでいてくれる?」
「……当然!」



そう言うと、誉は俺にそっとキスをしたーー……。



END



城内正実(17)
生徒会長。文武両道で非の打ち所がないけど実は少し音痴で字も汚い。武内にのみツン発動。


武内誉(17)
風紀委員長。体力馬鹿。頭はそこそこ良い、城内曰く脳みそ筋肉。基本無口、城内のことを溺愛している。


河野瑞希(17)
城内の親衛隊隊長兼補佐。なんでもそつなくこなすが、運動音痴。会長と委員長の関係を知ってる唯一の人物。


宮内空(16)
風紀委員。武内に憧れていて、城内が苦手。可愛い系。



生徒会長受けが書きたかっただけのあれです。
そのうち素直になれるといいね、でも多分大学生くらいにならないと素直になれない気がする。
生徒会長と風紀委員長という間柄の間はずっとこんな感じな気がするね。



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