このクソビッチが俺の恋人です。
俺の腕を枕にすやすやと幸せそうに眠るこいつ、鴨井遥との出会いを思い出してみる。
今ではこいつの恋人、というポジションに落ち着いてしまったがこいつとの出会いは歴代の恋人の中で一番最悪であったと言えよう。
遥との出会いは大学一年のじわりじわりと夏が近づくのを感じるそんな日だった。
ある日の昼下がり、俺は午前中でその日の講義が全て終わり午後は家でのんびり過ごそうなどと考えていた。
ふいに肩を叩かれ誰かと振り返ると、そこには鴨井遥がいた。
遥は学科を飛び越え大学全体でビッチであると噂されていた。
他人の噂など興味がなく、そういった情報に疎い俺でも知っているくらい遥は有名であった。
「俺?」
「そう!あ、僕鴨井遥っていうの!」
「知ってます、けど」
突然話しかけられたこともあり、同学年であるにも関わらず敬語で返すと遥は笑いながら更に話しかけてきた。
「タメなんだから敬語っておかしくない?」
「そう…だな」
うまい返しも見つからないし、こいつは何故俺に話しかけてきたのだろうということをぼんやり考えていた。
「君さ、木内くんだよね!下の名前なんていうの?」
「夕陽、だけど」
「木内夕陽かぁ!夕陽くんね、僕の学科でもかっこいいねって噂になってるよ!」
「そうなんだ、つか鴨井は学科どこ?」
「僕?僕は経済だよ!夕陽くんは国文だよね?」
鴨井は話し上手なのか、会話が弾み、鴨井はいつの間にか俺のことを下の名前で呼び、俺もいつの間にか鴨井との会話を楽しんでいた。
「で、鴨井はなんで俺に突然話しかけてきたわけ?」
ふと疑問に思ったことをぶつけてみた。
「やだなぁ、鴨井なんて他人行儀遥って呼んでよ!」
「じゃあ、遥。お前は俺に何か用事があって話しかけてきたんじゃないのか?」
はぐらかす鴨井、もとい遥にもう一度問いかけた。
「んとね、僕と付き合って欲しいなって」
「は?」
「だからぁ、僕と付き合ってって言ったの!」
「どこに」
一瞬、遥の言っていることが理解出来ず惚けてしまった。
「もう!そういう古臭いギャグとかいらないんだけど!」
「じゃあ、どういう意味だよ」
「そのまんまの意味!恋人になってってこと!」
遥は俺の目を見て、はっきりそう告げた。
「俺、男だぞ?」
「知ってる、知ってて夕陽くんがいいから告白してるの。ていうか僕のこと知ってたなら僕がゲイってのも知ってるでしょ?」
やはり俺は噂などには疎いのだろう、遥がビッチという噂は耳にしていたものの
遥がゲイだということは知らなかった。
「もしかして、知らなかった?」
「あ、あぁ……」
「まぁどっちにしろ告白してたから関係ないけど」
「どうして、俺なんだ……?」
正直そこが一番疑問だった。男同士ということはさておいても、俺は遥との接点が一切ない。
同じ大学だが学科が違うため講義も被っていない(と思う)し、すれ違っていても友達ではないから挨拶もしない。
こんな俺に遥はどこをどう惚れたというのだろうか。
「え、顔が好きだから!」
さらりと笑顔でそう言ってのけた遥はいっそ清々しかった。
今まで顔がいいから言い寄られることはあったが、ここまでストレートに顔が好きだと言われたことはなかった。
「ふは、遥ってすげーストレートなんだな」
「え、何々それ褒められてる?」
突然、笑いだしそう言った俺をきょとんとした顔で見てくる遥はそれは可愛らしく見えた。
「いいよ、付き合おうか」
「いいの!やったぁ!」
かくして、俺と遥のお付き合いは始まったのである。
あれよあれよと言う間に、俺と遥が付き合いだしたという噂は広まり(どうやら遥が友達に言い回ったらしい)、俺と遥のお付き合いは大学公認、とまではいかないが大学内ではある程度有名になってしまった。
元々ビッチであると有名な遥と、顔はそこそこ整っていると有名であった自分が付き合いだしていたのだ。
有名になるのも無理はない、なんつって。
そんな遥と俺は清いお付き合い、をしているわけもなく。
付き合いだして一週間と経たぬうちに行為に及んだ。
男同士ということに関係なく、そのとき純粋に遥を可愛い、愛おしいと不覚にも思ってしまった。
それ以来、俺は遥と真摯に向き合い付き合い、現在に至るといったところである。
こいつとの出会いは歴代の恋人の中で最悪、だと思っていたが。
思い返してみるとさほど最悪ではないなと感じてしまうあたり俺はこいつに大分絆されているのだろう。誠に悔しいことに。
END
随分長いこと放置してたものを完成させました。書き始めたときの私がどんな終わりにしようとしてたのかさっぱりわかりません。
木内夕陽(19)
国文学科。イケメンであると大学内でそこそこ噂に。あまり騒がしいのは好きじゃない。
鴨井遥(19)
経済学科。クソビッチと有名。顔も可愛いのでそれでも有名。どちらかといえば騒がしい方が好き。
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