みぃくん。
 




廊下を歩いていると、ガターーンと何かが倒れる音がしたので振り返って見てみるとそこにいたのは幼なじみで学校一強いと噂される不良の高坂優だった。

高坂であることがわかれば関わらない方が賢明だと判断し、その場を立ち去ろうとした。


「おい、花形」


その態度が気に入らなかったのか物凄い形相で俺を睨みつけてくる。
眉間にしわを寄せ目を釣り上げてそれはまさに不良といった表情だ。



「何か用?」
「……っ!」


その態度が気に入らなかったのか眉間のしわをさらに深くしズンズンとこちらへ近付いてきた。

ガッとすごい力で胸ぐらを掴まれそのまま壁に押し付けられる。
少し息が詰まったが、そんなものは関係ないと言わんばかりに高坂は続けた。


「んだよその態度は」
「そう言われてもっ……これが普通なんで」
「クソむかつく!」


高坂は俺を床へ引き倒し、そう吐き捨て去っていった。

彼は何がしたかったのだろうと思いつつ
胸ぐらを掴まれていた反動で座り込んだまま咳き込んでいると
様子を見ていた数名の生徒から大丈夫かと声をかけられ手を差し伸べられた。

みな口々に酷い不良だのなんて奴だだの本人が去ったあとでコソコソと言い合っていた。

そんな様子を見ながら彼らはなにもわかっていない、高坂優という男をわかっていない。
そう思いながら差し伸べられた手を取ったーー……。





放課後、普段ならば委員会やらなにやらで遅くなることが多いが今日はなにもなく早めに帰宅し、家でゆったりしていた。

特にすることもなく、自室のベッドに座り雑誌を読んでいた。
ふと顔を上げ時計を見ると時刻は五時半過ぎを指していた。


そろそろかな、と思いつつ再び視線を雑誌に落とした。
それから間もなくドタドタとドアの外から騒がしい足音が聞こえた。
次の瞬間にはバタンと壊れるのではないかというほど音を立て部屋の扉が開いた。



「入ってくるなら静かに、あと入るときはノックを忘れないよういったはずだが」
「あ、ごめん……」

「で、何か用か高坂」


ドアを開け入ってきたのは高坂で、学校にいたときはまるで別人のような表情をしていた。

眉間のしわは相変わらずだが、つり上がっていた眉は下がり不安気な表情をしていた。

高坂、ともう一度今度はイラついていますという風に少し強めに名前を呼んだ。


すると眉根をさらに下げ目を少し見開き潤ませながらこちらへと駆け寄り俺の足へ縋り付いてきた。


「なんで、なんでそんな呼び方するの?俺たち恋人同士だよね?みぃくんなんで、今日学校でのこと怒ってるの?だったら謝るから、ねぇ、みぃくん」


学校での高坂はなんなのだろうかというくらいのかわりようである。
みぃくんとは俺のことで、二人きりのとき彼は俺のことをそう呼ぶ。
甘えてるサインみたいなものだ。


「怒ってないよ、怒ってたのは優の方だろ?学校での態度とか」


そう言うと優の目に今にも溢れそうなくらい溜まっていた雫がポロリと落ちた。


「お、怒ってない、怒ってなんかない、ただ……」
「ただ?」

口ごもる優になるべく優しい声音で話しかけ優しい手つきで頭を撫でながら言いやすいよう促してやればそろそろと口を開いた。


「寂しかったの……」
「何が寂しかったの?」
「…………学校でみぃくんに会えて、嬉しかったのにみぃくんがあんな他人みたいな態度とるから……だから、だからおれ……」

なんて可愛いことを言うのだろうか俺の恋人は。
堪えきれずにぎゅうと恋人を抱きしめてやると突然の行為に優は慌て出した。


「み、みぃくんどうしたの?ねぇ、おれのこと捨てない?おれね、みぃくんに捨てられたら、生きていけないの」

と早口でボロボロ涙を溢しながら言う優は可愛くて仕方なかった。

ここで許してやってもいいが、俺はもう少し可愛い優を見たいと思ってしまったので少しいじめることにした。



「そんな俺のこと好きなの?」
「す、好き、好き好き大好き」
「どれくらい?」
「世界で一番!」

そう答える優はもう許してもらえたと思っているのか、笑顔で答えた。


「俺のこと突き飛ばしたのに?」


そういうと優はビクンッと肩を揺らし目を見開いて青褪めた。


「優は好きな人の胸倉掴んで突き飛ばしたりするんだ」
「あ……」
「それなら普段喧嘩してる相手も好きなんじゃないの?」
「ちがう!!」

「何が違うの?俺には違いわからないし、そういうことする相手が好きって言うなら誰でもいいんじゃ……」


そういってさらに俺じゃなくてもいいのではと続けようとしたが、続けられなかった。

いつもなら俺に縋ってボロボロと泣きながら可愛いことを言ってきてくれるのだが
優はハラハラと静かに涙を流し、そっと俺の体から手を離した。


「優……?」

手を伸ばすとパシリと手を叩かれた。
普段なら絶対にされないようなその行為に、俺が動揺し言葉が続けられなくなった。


「……んで、そういうこというの……」
「え?」
「なんでそういうこというの!!」


そういいながら優は俺を押し倒し跨ってきた。
さらに目から大粒の涙をボロボロとさっきよりも大量にこぼしていた。

悲しそうに泣く優を見ていると心が痛くなり、素直にごめんと一言謝った。


「ごめんじゃない!おれが、おれがどれだけみぃくんのこと好きか知ってるでしょう!なのになんで、なんでそういうこというのぉ……」
「ごめん……」


俺はそう言うことしかできなくて、どうにか泣き止ませよう、慰めようと思い
起き上がり抱きしめてやろうとしたが、優がドンッと凄い勢いで俺の胸に抱きついてきた。

俺の胸の上でヒクヒクと泣く優の頭を撫でてやる。



「ごめんね、優」
「…………」
「泣かせるつもりじゃなかったんだ、ただ優が可愛くて、少し意地悪したくなっただけなんだ」
「……許さない」
「じゃあ、どうしたら許してくれる?」


優は唇を尖らせいかにも拗ねてますといった表情を浮かべながらそう言った。



「すきっていって、ちゅーしてくれなきゃゆるしてあげない……」
「そんなの、いつだってしてあげるのに」


なんて可愛いおねだりだろうかと思い笑みを堪えきれずにいると
普段みぃくんからしてくれないくせに、なんて不貞腐れていた。


「ゆう、大好きだよーー……」

そういってそっと優の唇にキスをした。



END

なんか昔考えたメモが出てきたので形にしてみました


高坂優
見た目の中身も不良だが、みぃくんの前ではただの甘えん坊。みぃくんのこと以外考えてない。

花形満
見た目も中身も優等生。優によく意地悪をするけど愛故。優の泣き顔が好きで泣かせたがるけど本気で泣かせたいわけじゃない。



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