5.天然パーマと君

葉桜に変わり始め、授業が本格的に始まる。特待生である間宮は、奨学金の継続のために高成績をキープする必要があり、授業はもちろん宿題までしっかり取り組んでいた。

「あ、まずい」

部活帰りの電車の中、あまり整理されていないスクールバッグの中からフリスクを探していると、明日1限に提出しなければならない課題を学校に置いてきた事に気が付いた。めんどくさいと思いながら、取りに行く他に選択肢はないので適当な駅で反対側の電車に飛び乗った。



学校に戻った時には外は真っ暗で、グラウンドのほうでナイター用の電灯か光っていた。

警備員に事情を説明して校舎に入ると、テンポの良いストローク音が響いてきた。このアタック音はテニス部か。大会の時期は遠いはずなのによくやるなぁとテニス部の鬼畜さには頭が下がる。


夜の校舎は怖いので、なるべく速やかにここを出たい。靴下のまま駆け上がり、理科室から出てきた先生や踊り場の全身鏡に盛大に驚きながら、3-Bに無事到着しお目当てのものを回収した。

足早に教室を立ち去り昇降口を出ると、知っている声が自分の名前を呼ぶのが聞こえた。

「ん、ひかりじゃん」

よっと片手を上げるのは丸井で、隣にはジャッカル。

「こんな遅くまでやってるのね、ジャッカルもおつかれ」
「今週末強いとこと練習試合だからな」
「名前覚えててくれたのか」
「これから俺らメシだけど、ひかりもくるか?」
「あり、行く!」

シャワーあびてくっから待ってろと満面の笑みを残し去っていくふたり。親にメールを打ってから、しばらく彼らを待つ。始業式に行った立海生御用達のファミレス。後輩を呼んだとかで、4人がけのボックス席に座った。

ごはんは大盛りでと当たり前のように注文する丸井とジャッカルはやはりスポーツマンだ。料理にがっつきはじめはると、話題は自然とテニス部の事になる。

「赤也の奴、最近すごい伸びてるんだよなぁ」
「あのパーマかけてる子?」
「あれ地毛なんだよな」
「梅雨とか大変そう、ジャッカルには梅雨も何もないだろうけど」

丸井が吹き出し、飛んだ米粒をジャッカルが汚ねぇよと拭う。ウインクで謝る丸井に謝罪の意はない。そのタイミングで、入口で大きいテニスバッグを背負った切原が3人を見つけ駆け寄る。

「遅れたッスー!」

空いていた間宮の隣に腰を下ろし、2年エースの切原赤也っスと笑った。鼻頭に絆創膏をしていて、間宮には作ったようにやんちゃな子に見えた。

「ブン太から話は聞いてるよー」
「俺も知ってるッスよー、仁王先輩が仲い間宮、ひかり先輩っスよね!」
「どんな覚え方してるの」
「仕方ないだろぃ、毎朝のように一緒に登校してちゃ」

よく見てるっすとニヤニヤ言われ、間宮は軽く天パあたまを叩いた。オーバーリアクションで痛がる切原はとても愛らしく、先輩2人も親のような目を向けた。


たわいもない会話をしながら完食し、明日も学校なのでさっさと解散する。駅まで一緒に歩き、帰宅方向が私だけ違うのでひとりで電車に乗った。

帰宅ラッシュの電車に揺られながら、課題に目を通す。一晩でなんとかなるか、なんて思いながら暗算をして暇をつぶしていると、ポケットの中で振動があった。

件名:
本文:赤也にアドレス教えてもおっけ?

OKと最小限の返事を打って、ケータイをポケットに戻そうとしたそのとき。ターミナル駅の降車する人の大波に背中を押されて手元が狂ってしまい、使って3年目のケータイは列車とホームの隙間を狙ったように落下していった。

駅員さんに頼んでそれを取ってもらうと、画面はバキバキに割れていて電源すらも入らなかった。これで親からのカミナリは確定である。家までの足取りは鋼のように重く感じられた。



back


top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -