渋谷サイキックリサーチ

緑陵高校での調査が終わった後、あれよあれよと事務所につれていかれた。ここに来るのははじめてだ。机とパソコンと、来客用のソファが設置されたシンプルな感じ。そのまま私たちは事務所で数日を過ごした。誰かとの共同生活、という状況にはなれない。ただ、食事は喜ぶけど排泄はしないことに渋谷さんは並々ならぬ研究魂を刺激したようで、なにをしても視線を感じる。

ただ調査をしようとすると私たちが全力で逃げ出すのでしないだけ。 散歩は谷山さんが付き添ってくれる。

排泄しないこと、どうやったら隠せるかな。ペット用のトイレシート準備されているし毎日散歩には連れて行ってくれるけど。

「さや、もしかして」

ぎくり

「恥ずかしいの?」

そう言うことにしてほしい。私たちがストレスでトイレをしないと言う話題に。聞いてないふりをするけど自分のトイレ事情が議題になるのはなんとも恥ずかしい。

「可能性として、環境の変化に適応できずにいる、または病気。この場合動物病院につれていく」

そうなったら逃げようと、そろりと立ち上がる。

「もう1つは、排泄を必要としない存在。大型犬にさやという憑依霊がついている可能性。ただ、食欲は普段通りあるようだ。生きているけど憑依霊の影響で排泄がない、そもそも、この大型犬の体自体本来は存在しない場合も考えらる。ただし、サーモグラフィーにもカメラにも反応は見られるしここまで異端なのは考えにくい。さやの足跡も確認した。
いずれにせよ考えられるのは我々の言動をさやが理解していることだ」

ぎっくし。

「本人が隠そうとしているのは分かっているが今後共同生活を送るにあたり、誤魔化しきれないと思われますがいかがか」
「ナル、すっごく楽しそう」

えぇえぇ、すんごく楽しそうにじわじわと追いつめてくる。

「ジョンや原さん、リンの意見を統合すると悪霊や異形が顕現している可能性は否定できるし調査中の行動を見ても我々に敵意があるようには見えない。しかし、我々に協力するつもりもない。その正体を明かす気もない」

背中がぞくぞくする。

「理由は不明だが、調査に介入する気はあるようだ。今後も君がこの場から逃走したとして調査現場で合流する可能性はある。さて、今後お互いのために妥協点を見出そう。
君に求めるのは意思表示だ。ただの犬のふりはやめ、ある程度の希望や意見を教えて欲しい。日常生活上はもちろん、調査でのこともだ。とくに危険察知能力は高いと判断する。全てとは言わないがある程度の交流は持てると考える。
代わりに、身体的な影響のない実験、および君の意思に反した研究報告にはしないと約束しよう。必要で君が理解できるなら改めて書類も作成しよう。
僕としては君の希望にできるだけ沿ったつもりだが。」
「ナルが、譲歩した」

谷山さんが驚いている中で、私はついついリンさんを見上げる。私の視線に気づいたリンさんが口を開いた。

「中には表に出る研究を嫌がる対象者もいます。そのような方には同様の同意を得、実施しています。信用していいのでは」

リンさんが、言うなら。

「甚だ理解し難いのは、別段僕は君に危害を加えていないはずなのだが、僕よりリンの言葉を信用している点だな」

ぎっくし

「さやって怖がるとリンさんにひっつくよね」

それは、あの、今までのとっさの行動が原因といいますか。

「おそらく、さやの異常性を早期から私が気づいていたからでしょう。」
「・・・そういうことにしよう。さて、危険なら赤い紐、ついてきてほしい、気になることがあるなら黄色い紐、安全と判断したなら青と」

前から考えていたらしく、目の前に三つのリボンが示された。これならワンちゃんのおもちゃとして私がカミカミしてもおかしくないよね?了解の意味を込めてうなずく。

「ほう、やはり色の判別ができるのか。視覚は通常の犬とは異なるのか」
「ナル!」


そんなことがあった数日後、一人の女性が事務所にやってきてからのんびりとした雰囲気が変わった。森 まどかという女性は私たちが事務所にいることには驚きこそすれ、存在にはふしぎがっていなかった。野犬を保護した、とか説明を受けたらしい。間違ってはいない。渋谷さんたちは一応は約束を守ってくれているらしい。



そして現在、ずっと赤いリボンをくわえています。建物に入る前から足がすくみあがってしまった。目の前にあるのは巨大で古い洋館。

「さやうごかない」
「そして全力で震えながら赤いリボンは離さないのはさすが」

四つ足を踏ん張って、赤いリボンにぐいぐいぐいと牙を食い込ませて一同を見上げる。行くの?これでも行くの?と怪しまれようが待ったなしで目線で訴えた。でも、所長様は所長様で。

「・・・警戒しよう」

でも入るんですね!?
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