とある高校、体育館

最初の警戒は何だったんだろう。気が付いたらお饅頭を完食して(つぶ餡でした。美味でした)撫でられて気が付いたらお腹見せて降参のポーズ。

おのれ、その手つき、素人ではないな!

そして、オオカミ様、女性がそんな恰好をしてはいけません、特に男性に。え、だめ?っていう顔をしないでください。お願いします。

「んー、どっから来たんだ?」
「会長?わ、何、その犬」

あ、なんだか生徒が増えました。女子生徒です。でも私が付いてきた人とは違う。

「饅頭上げたら懐かれた」
「犬に饅頭与えないで」
「でもさ、このタイミングで犬、て意味深だと思わない?」
「まさか…連れて行く気?どう見ても野良よ。おとなしいけど」

何やら不穏な空気を感じる。なにごと?

「いーからいーから。ほら、起爆剤って言葉、楽しいよね」
「ほんっとこれ以上煽るのやめてよ。先生にばれたら」

そうでした。ここは学校の敷地内。まずい。私たちは完全に、今、不審者…もとい不審犬…という名の野良犬です。警察か保健所に連絡されたら全力の追いかけっこが勃発します。

「饅頭あと半分あるんだけど、ついてくるかな?」
「なんか、ほいほいついていきそうな顔つきだけど」

そんな気が、私もしています。オオカミ様、すでに尻尾を振っていますし。そうですよね、食べ物が不要でも食べたいときはあるんです。

「やっぱりさ、このタイミングで犬って」
「会長、まさかそんな非現実的な想像してないよね」
「いやー、頭硬い連中もびっくりするかなぁって」
「本当に…ほどほどにしてよ」

何やら企んでいる様子。だけど、オオカミ様はもはやお饅頭しか見ていません。眼鏡の男子生徒が怪しく笑っていようとも、もう一人の女子生徒が私たちを見て、眼鏡も見て顔を引きつらせても。ええっと、いいのかな。もらうよ。私もお饅頭好きだからね。

ついていった先は、どうやら体育館らしい。太陽の傾きからして放課後の時間なんだけど。部活動?集会?にしてはなんだか物々しい。集まっている生徒たちの顔も緊張でこわばっている。そして、私たちの姿を見た途端に色めき立った。というか、若干恐慌状態に。

「会長、まさか!」
「そのまさかだよ」

企み顔の生徒たちが何を想像したのか、ざっと顔色を無くす。予想していたらしく、眼鏡の男子生徒がにんまりと笑った。ためた、一拍わざわざためて、余計に想像を掻き立てさせた、うえに。

「見た通り、まんま食いしん坊な犬だねぇ」
「あんたほんとたち悪いな!」

わざと怖がらせて、でも生徒が想像したこととは違う、と証明した?いったい、生徒は私たちからなにを想像したんだろう。
ふむ、状況がわからない。いつもこういうときって谷山さんが説明してくれたりしたんだけどなぁ。みんな元気かなぁ。
とか、ちょっと寂しくなっていると、いつの間にか緊張していた生徒たちの雰囲気が和らいだ。そしてこの眼鏡少年、やっぱり相当な策士だということがわかった。

そして、見てしまった。

体育館の一番前。舞台の上に置かれた机。オオカミ様の目には見えた。白黒の男子生徒の写真。お別れの、会?にしては、準備をつづける生徒たちの顔に悲しみは、あまり、感じられない。義務的、というより儀式的に感じる。
そして不思議なことに、やけに私たちを怖がっている生徒たち。そりゃあ、大型犬の部類に入るサイズで、野良で、首輪もリードもついていない私たちだけれど、おとなしいよー?噛みついたりしないよー?とお座り状態で首をかしげる。はて。わからん。もっとわからないのは、生徒のほとんどに、もやっとしたあの霞が引っ付いている事だ。

とりあえず、お饅頭もらったのではむはむ。うまうま。この餡子の感じがたまりませんね。眼鏡青年、実はいいところの坊ちゃんか。

あ、さっき眼鏡少年と話していた女の子が壇上に上がった。始まりのあいさつ、という感じでこの集会の目的を説明。みんな分かって集まってきているっていう感じだけど、初耳の私にとってはありがたい。

今学校の中で、不思議なことがおこっている。もしかしたら、坂内君が自殺したことが関係あるかもしれない。この機会に、坂内君の慰霊祭をしよう、と。

ふーん、そう、不思議なこと…デスヨネ、ナニカアリマスヨネ。
不思議を飛び越えて、怖いことが。だから、生徒たちの表情も暗い?すがるような気持ちで、この場所に立っていると見た。そんなときに。オオカミ様の両耳が、ピン、とたった。ばたばたと荒い足音が近づいてくる。伏せていたオオカミ様が立ち上がった。

「あちゃー、もう気づかれちゃったかな」

なぜか隣にいた眼鏡少年が、困ったふうに言った。けど、余裕そう。

「何をやっている、お前たち!」

きーーーーーーーーん、と怒鳴り声が耳に響いた。衝撃で固まる私たち。

「こんな無駄なことに時間を使うな!」

無駄な事、とな?学校の、亡くなった生徒を慰むための儀式を、無駄なこと、とな。
と、目が合った。駆け込んできたのはジャージを着た男性教師。見るからにオラオラ系。でもなぜか、私たちを見てびっくりした半分、ちょっとおびえた。

「なんだこの汚い犬は!」

ほほう、なんだか2回も3回も地雷を踏みぬいている気がするぞこの教師。

「おい、早く追い出せ!犬と戯れる時間なんざない。勉強しろ」

百歩、千歩、一万歩譲って、生徒を守るためなら致し方ない。こちとら動物病院にも行ったことない住所不定無職、ついでに飼い主不明の野良犬ですとも。なのに、その扱いは、なに?私たちじゃない、生徒に対する扱い。

さて、オオカミ様、どうする?って、あ、聞く前に、主導権がいつの間にか私に変わっている。いいの?いいの?やっちゃうよ私?

さぁさぁ、突進!そしてお腹に頭突き。私たちの頭は固いよ!

「いっ…」

もちろん手加減はした。が、やっぱりちょっと痛かったらしい。そしてびっくりしたらしい。腰が抜けたらしい。ずるずるとうつ伏せで逃げようとするところに横からどでーん、と乗っかる。つぶれたよ。動けないよね。がつん、って痛そうな音もした。もし動こうとするなら、猫パンチならぬ犬パンチがさく裂しますよ。猫と違って爪を納められないのでちょっと痛いかもね。さてさて、慰霊祭の邪魔はしませんよ。どうぞどうぞ続けてください、の意味を込めてぱたぱたと尻尾を振った。

ん?あれ?やけに静かだ、ぞ?てしてし、と教師の頭を叩いてみる。反応が、ない。
ぽかーんとした生徒たちの中で、いち早く我を取り戻したのはやはりというかなんというか、やっぱりあなたか眼鏡少年!

「あちゃー、見事に飛んじゃってますね」

ぇええ!?ご、ごめんなさいー!!
慌てて教師の上から飛びのいて、おろおろ。本当だ、気を失ってる。さっきの痛そうな音って、顎が床に激突した音だったんですね。なんてこった。
そこまでするつもりはなかったんですっ。

「どうやら先生も見学して下さるらしい。荒木、続けよう」
「え・・・・あ、はぁ」

そこで返事しちゃう女子生徒さん、あなた実は相当な苦労人であると見た!主にこの、私たちをたくらんだ顔つきで見ている眼鏡少年によって!
あ、そんなこと思っていませんよ、素敵な眼鏡だと思っていますよ。だから私たちのことをじーっと見ないで企まないで本当にお願いします。

そして、この状況で誰も助けに来ない時点でこの教師がどんだけ人望ないかわかるもんだ。





ハプニングはありつつも、慰霊祭はとりあえず、予定通りの工程を終えた。あの女の子、荒木さんが解散を宣言して、そろそろと生徒たちが帰り支度をする。ところで、いまだに男性教師が起きないんだけれどいいのかな?本当に?
オオカミ様はどうする?どうしたい?と聞いてみたんだけど、急に体の主導権が私になってから、オオカミ様が動く気配がない。ここに来ること自体が目的だったのかなあ。

「いやー、いいもの見せてもらったよ、ありがとう。あ、誰か、保健の先生呼んできてくれない?」

やってきた眼鏡少年。見た目はザ・優等生という感じなのに。知ってるよ私、男性教師が気絶したことが分かった時、驚いたと同時にものすごくいい笑顔だったこと。

「ところで、誰か首輪か縄か、網でもいいから持ってないかな?」

やっぱり敵ですかあなたはーっ
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