湯浅高校、校庭

さや(私たち)から目を離すな、という渋谷さんの命令を受けた谷山さんから、申し訳なさそーに「い、一緒に、いこっか」とのお誘いを受けました。すでに尻尾と両耳がダウン。情けないことに『くーん…』なんて鼻声も出た。怖いのは怖い、の、よ?でも、渋谷さんの視線温度が劇的に下がる一方だったので、二人(実際は中のお方含めて三人)一緒に会議室を出た。

「どこ行こうか」

あ ん ぜ ん だ い い ち!
という全身全霊で希望をのっけてじー、と谷山さんを見てみる。伝われこの思い!

「…なんか、ごめん」

伝わったけど謝らせてしまった。こちらこそすみませんでした。

谷山さんは体育館で松崎さん達と会話したあと、あちこちぐるぐるして、たどり着いたのは校庭。下校時間を過ぎたせいか、誰もいない。夕焼けで全体的に景色が赤い。昼でも夜でもない時間って、不吉って感じ。私たち以外誰もいないし…あ、というか、そもそも実際に心霊現象起きてるし!余計に不気味に思えてくる。何となく嫌な時間帯だなー、とつらつら考えていた、とき。

「さや、聞こえる?」

突然谷山さんがそんなことを言いました。見上げれば、きょろきょろとあたりを見渡す谷山さん。何が?私には何も聞こえない。

「さやには聞こえないのかな?女の子の声がね。どこー?どこにいるのー?あ、ランドセルだ」

ぱっと表情が明るくなって、ずんずん進んでいく。
ぇえ?私には見えないのに。これはあれか、足の長さの違いかな。なんかショックだぞ。そりゃ、今の私視線低いから…ってショックを受けていたら谷山さんが金網を乗り越えていた。前から思ってたけどパワフルだね!私には真似できな…ん?オオカミ様?

「さやはそこで待っててねー!」

待って、谷山さん。
オオカミ様が唸っている。
とても怖い顔で。
背中の毛を逆立たせて。

「どこー?どこにいるのー?」

私の意志が、沈み込む。気が付けば、私、じゃなくて、オオカミ様が四つ足で地面を蹴って全力で走っていた。谷山さんはこちらに背中を向けているから気付かない。おかげでオオカミ様が金網を乗り越えたところを見ていない。しかも、一回のジャンプでは届かないから、網をもう一度蹴って2段ジャンプしてる。これ渋谷さんに見られたらダメなやつでは。そしてわー、たかいたかー…高すぎるよー!?体が浮き上がる妙な感じの直後、急降下。着地、着地求めますオオカミ様!あ、大丈夫だ、まだ、オオカミ様が主導している。

安定して地面に降り立った後、改めて駆け出すオオカミ様。ここまで来てようやく私にも聞こえた。女の子が泣いている声。しくしくと心細そうに助けを求めるように聞こえる…違う、谷山さんにそう聞こえるようにした声!

目の前では谷山さんがマンホールらしき穴に向かっていた。走っていれば走っているほど、背筋がぞわぞわする感触。現状もだけど、あの場所はさらに危ない。

「え?さや?」

マンホールと谷山さんの間に巨大白わんこが滑り込んで、喉の奥から唸り声をあげた。谷山さんに向かって。

「さや…女の子が、マンホールに落ちてるかもしれないんだよ…」
『グルゥゥウ(来ちゃダメ、私でもわかる、危ない!)』

牙をむき出しにして唸る大きな犬…私たちがとっても怖い顔をしているのはわかるけど、谷山さんは歩みを止めただけで逃げない。ただ、不思議そうな顔をする。その信頼は嬉しいけど違うところで実感したかった。

「麻衣、どうした?」
「あ、ナル。女の子がマンホールの中にいるみたいなんだけど、さやが、こんな感じで」

渋谷さんが金網の外にいた。対峙している私たちに対して、鋭い視線を投げかけてくる。

「女の子?…麻衣、その場所を動くな。さやもだ」

渋谷さんが、ただならぬ事態であることはわかってくれたらしい。金網を乗り越えてこちら側に来てくれる。でも、狙われているのは渋谷さんも一緒!それ以上こちらに来たら危ない!と意識がそちらに集中してしまった。

『きゃんっ』

後ろ足に何かが触れた。ひんやりしていて、触れただけでぞわぞわする嫌な感じ。しかも、かなり強引な力で引っ張られた。後ろに。

「え?」

谷山さんの驚愕した声、が一瞬で遠く離れていった。暗闇で、ひたすら落ちて、落ちて。次に衝撃。

「さやー!?」

落ち、た。四つ足と肉球がじんじんしてる。とっさにオオカミ様が着地してくれたらしい。現在地、真っ暗な穴の中。結論、危険度アップ。私が入っちゃだめじゃんー!!!狙いは谷山さんと渋谷さんじゃなかったの?通せんぼしたから邪魔なものから落とそう作戦?そんなのあり?!

「さや、大丈夫!?」

上の方から谷山さんの声がした。上を見ると谷山さんがのぞき込んでくれた。

『わふ』

とりあえず大丈夫だと伝えてるために一鳴き。

「そこで待っててね、今行くから」

ぇえ?谷山さんストップ、ここ危ない!と、警告するのはすでに遅かった。私たちの頭上で、何かに引っ張られてマンホールの中に引きずり込まれた谷山さん、を渋谷さんが支えた。

ぎ、ぎりぎりセーフ?じゃなかった!

足場にしようとした梯子が抜けて二人とも落ちてきた。

なんですとー!?

あの高さから落ちれば絶対ケガする。

出番です、オオカミ様!!


◇ ◇ ◇



お、おもい。
全身が圧迫されている状況。説明すると、私たちにかかる二人分の重み。動けない、痛い、重い。へ、へるぷみー

「麻衣、気が付いたならどけ。僕が動けない。そしてさやが潰れている」
「ぇえええ!さや、ごめんっ」

何となく状況は察した。たぶん、下から順に私たち、渋谷さん、谷山さんのサンドイッチができ上がっていた模様。オオカミ様が二人の下に体を滑り込ませたんだけど、さすがに二人分の体重に耐え切れず潰れてしまいました。オオカミ様、でもありがとう。お互い怪我がなくてよかった。ん?でも、二人が落下してきたわりには、私たちも無傷っておかしくない?結構な力かかってるはずなんだけど。オオカミ様?…じゃないのですね。そんな全力で首降ったら痛くなっちゃいますよーって。

そんな、振り返りを心の中でしていたわけだけど、私たちの体は依然として床にべちゃっとなっている状態。動きたくないー、このまま寝たいー、でもここに居るのは“イル”から怖いー。何言ってるかわからないー。寝たいー。でも…の無限ループ思考。

「さやが潰れたままだ」
「なるほど、これが餅という食べ物の形状か」
「う、否定できない」

きーこーえーてーるーよー。
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