湯浅高校、部室

教室から出て、嫌な予感を覚えつつ渋谷さんたちについていく。なんだか、ね?どこに連れていかれるの、私たち?逃げたい、なー。
たどり着いたのは校庭の隅にあるプレハブ小屋。一瞬目を離しただけで部品が散らかされるんだそうな。超能力否定派、陸上部の部室とな。お、おおう…鼻が…て、普通のわんちゃんの体ならなるんだろうけど。オオカミ様、嗅覚は鋭くないらしい、青春のにおいで悶絶することは回避…できたけど、もっと危なそうなものが回避できていませんオオカミ様!
部室に入った瞬間、私固まる。だって、背筋がぞわぞわって。これだめなやつ、会議室とホテルで会ってしまったのと同じ類!つまり、超、絶、危険!近づいちゃだめぜったい!!

「なんか、さやが全力で怖がってる」
「どうやら当たりらしい」

後ろでこそこそ言い合うの禁止!

「おいおい、こんなに怖がってる犬をダウジング扱いかナルちゃんよ」
「早急に解決するには効率さが求められる」
「あー…さや、あきらめろ、な?」

諦められません滝川さん!即時撤退を求めます!
オオカミ様が私の中で部室の隅を凝視しているんだけど、見ないよ、見ないったら見ないよ。

「…麻衣、さやの目線と反対の…そう、そこの隅を掘ってくれ」

なんでそうなるかな!

「あった!」

なんであるかな!
谷山さんの声にとっさに振り向いてしまい、全力で後悔した。なんで木の人形から暗いどろどろとしたものが流れているのかな。

おーのーれー、必殺、墨まみれぇぇぇえええ!!!


(大丈夫谷山さんの手とか服とかは汚さないから動かないで私そんなに器用じゃない!)


◇ ◇ ◇


あれ以上部室にいたらさらに墓穴を掘りそうだったので、私は渋谷さんたちとは別行動した。校舎内を歩くと怖がられるので、校庭をふらふらと。人目を避けつつ、再び会議室へ。

「あ、さやだ」

会議室には谷山さんと、あれ?美少女さんが。ん?美少女さんに名前を呼ばれたけど、私はあなたを知らない、ぞ?首をかしげていたら、谷山さんには伝わったらしい。

「笠井さんが来たとき、さや寝てたからね」

なるほどー。ではでは、改めて初めまして。挨拶代わりに尻尾ふりふり。美少女さんはそっと撫でてくれました。慣れてない手つきだけど、不器用ながら優しさが伝わってくる。いい人なのかな〜。

「なんか癒されるね」
「でしょー。さやの顔を見てると何か何とかなりそうになるんだよね。実際、さやはすごいんだぞ〜」
「そうなの?」

それはぜひ私も聞きたいが聞きたくもないぞ!?

「危ない時最初に気が付くのって、さやなの。犬って敏感なのかな?真砂子は何かが一緒にいる、て言ってたからただの犬じゃない気がするの。不思議なことがあるたびに、うちの所長は一番にさやを見てるし」

おおっと、すでに詰んでいる。

「ふうん。実はすごいんだ」

オオカミ様がね!

そのあと、笠井さんは会議室を出ていきました。笠井さんが通って行った扉を見ながら、谷山さんは何か考え込んでいる様子。笠井さんとの会話で何か引っかかったみたい。沢口さん(笠井さんの友人らしい)、とか、ナル、とか人の名前を口にしながら考えこんでいる。私は、何かを察した谷山さんを邪魔しないように、ただ伏せの状態で大人しくしている。と言いますか、それしかできないんだけどね!

そうこうしているうちに、渋谷さんが帰ってきた。さっそく谷山さんが渋谷さんに報告している。どうやら、呪詛をかけていると疑われている沢口さん(笠井さんの友人らしい)は、現在先生や笠井さんと連絡をとっていないとのこと。つまり、渋谷さんの存在を知らない。だから、呪詛をかけたのは沢口さんではない、ということらしい。谷山さんの言葉に、渋谷さんは心底驚いた様子。

「麻衣、今回はどうしたんだ?えらく役に立ってくれるじゃないか」

そ、それはあまりにもあんまりな言い方だと思われます、渋谷さん。案の定、谷山さんはむす、と頬を膨らませた。渋谷さんは続ける。

「その通りだ。沢口さんは犯人ではない」

続く渋谷さんと谷山さんの会話を追っていくうちに、犯人は渋谷さんが陰陽師と思ったから(実際はリンさんが陰陽師らしい。初耳!)、自分の呪詛が邪魔されると思って渋谷さんを襲ったのではないか、と。そして、渋谷さんを陰陽師と思っているのは、現状笠井さんだけなのだとか。聞いているだけでは笠井さんがますます怪しいんだけど。

「でも、笠井さんは、犯人じゃないよ…」

谷山さんはそれでも、思いは変わらないらしい。渋谷さんがじっと、谷山さんを見つめるけど、それでも意思を変えない谷山さん(私なら尻尾巻いて逃げるよ)

「…ひとつ、気になることがある」

唐突に、渋谷さんが私を見た。え?何々、この会話の流れでどうして私を見るの?

「さやが笠井さんにいっさい、警戒心を示さないことだ」
「あ…ほんとだ。さっきも撫でられてたし」

谷山さんも私を見た。ふ、二人一緒に見られると、居心地悪いんだけど…逃げていい?いそいそと機械の後ろに隠れる。モニターがもうちょっと大きければ尻尾まで隠れるんだけどな!

「ナル、さやが怖がっている」
「僕はさやに危害を加えたことはないはずだが…」

ひそひそと会話なさっているけど、聞こえるからね、オオカミ様の耳はささいな音も拾っちゃうからね。

「あまり追いつめても、知れるものも知れないか」
「そっとしてあげようと。ほらー、さや、尻尾丸めちゃってるし」
「…仕方がない。僕は調べ物をしてくる。麻衣はみんなを手伝って、遇人を探せ」
「ラジャー」

お、渋谷さんが立ち上がる音。退室するらしい。ふー。怖かった。あの視線本当に怖かった。自然と丸まっていた尻尾を緩めた瞬間、

「さやから目を離すな。異変があれば報告しろ」
「ら、らじゃー」

最後の聞きたくなかったよ!特にその薄笑いは絶対に何か企んでいますね、渋谷さん!
(20/70)
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