人形の館、再何故か今度は戻れた。あの館に。何でだろうね。何で私また溺れてるかな!?さっきまで、病院の敷地内にいたのに。戻れないなー、と前足で池の水ぱしゃぱしゃ→突然水面が光る→びっくり→バランス崩す→滑る→池に落ちる→気がついたら館の池で溺れかけてる!そんな状況。私この池で溺れるの何度目!?でも、今は誰も私の尻尾を引っ張らない。落ち着けば戻れる!必死に犬掻きして岸辺に這い上がった。うぅ。もふもふに水がしみ込んで気持ち悪い。ぶるぶるぶる、と本能に従って体を震わせていたら、両耳が人の足音を拾った。 「え、さや!?」 谷山さん、だった。よかった、無事だったんだね。ざっと見た限り、小さい擦り傷とか見えたけど、大けがはしてなさそう。よかった、よかっ………あの、どさどさどさ、て書類とかバインダーとか地面に落ちてるけど大丈夫?渋谷さんに怒られない?もしもーし。って、首を傾げてたら、衝撃。 「心配したんだよ!…って、冷たっ」 そりゃ、冷たいよ。突進した勢いでそのまま抱き着いたら。私只今、ずぶ濡れわんこだし! 「今ナルはいないんだぁ。でも、みんな驚くだろうなぁ」 にこやかな谷山さんに連れられると、ちょうど玄関あたりに人が集まっていた。今戻りました、な感じの所長さん。どこかに出かけてたっぽい。 「ナル!」 谷山さんが集団に突進していき、結果私置いてけぼり…き、気にしてなんかいないし。そろそろ、と足音を忍ばせて一同に近づく。ここ地面だからね、フローリングほど爪の音がたたない。どうやら、渋谷さんは調べものに出かけていたみたいだ。ほうほう、大島ひろとな。その人が今回の元凶で、子どもたちは富子という少女を探し求めた結果らしい。渋谷さんの難しい言葉をわかりやすく私なりに求めるとこんな感じ。おそらく、この前谷山さんと一緒にいた夢で見た話だ。あの女の子が富子ちゃん、女の人が大島ひろさん、だと思う。今回は眠くならなかったよ、さすがにね! 「それであとの問題はあのわんこか…」 おお?名前を呼ばれた気がする。反応した私の両耳、ぴーん。何々、滝川さん何言うの。問題って、私何かやらかした? 「落ち着いたら典子さんに言って墓でも作ってやるか」 そ、そうでしたー!私礼美ちゃんたちの前で引きずり込まれたんだ。それで二日経ってるわけだし…。ちょっとしんみりとした空気漂う。で、出にくい。 「あ!」 「おっと、いきなりどした麻衣」 「そうそう、ぼーさん!大ニュース!さやが」 『わふっ(生きてるよ!)』 なんか呼ばれたっぽいので返事してみました。谷山さん以外、目が点。あれ、そういや見たことない方がいらっしゃる。着物を着た女の子。和ですね。そして美人さんです。かわいい。はじめまして、なんて思っていたら、硬直から融けたらしい。 「は?」 「え?」 「「「はぁぁぁぁあああ!?」」」 耳に、大ダメージ。 ◇ ◇ ◇ 「いやー、よかったわほんと。見つかんなかったとき、麻衣や礼美ちゃんがへこんでよぉ」 わしゃわしゃわしゃ、と頭を撫で繰り回された。滝川さん、若干痛いよ。そして目が笑ってないよ。わかります、そんな谷山さんや礼美ちゃんのフォローを滝川さんがしてくださったんですよね。わかった、わかったから痛いよもう勘弁! 「ほんとよぉ。二人は自分のせいだ、てずっと泣いてるし。生きてるならさっさと出て来なさいよ」 ちくちくちく、と松崎さんのお言葉を頂戴する。ごめんなさい、心配かけました。こうしてぴんしゃんしております。 「ほんまに、無事でよかったですよって」 何でだろ、神父さんの言葉と笑顔が一番胸にしみる…。癒されるんだけど、いたたまれない感じ。 そして、 「…」 「…」 渋谷さんとリンさんは無言無言。私も無言。えっと。 「もー、ナルもリンさんもさやが怖がってるよ」 谷山さんまじ勇者!ひたすら無言で見つめ合うよくわからん状態から脱出!そして、引き続き、谷山さんがいろいろ説明してくれた。 私がいない間に随分と状況が変わったらしい。礼美ちゃんと典子さんが館からいなくなっていた。ホテルに移動しているらしい。谷山さん詳しく説明してくれてるんだけど、私これどんな反応すればいい?うなずくわけにもいかないし。むむ、ちょっと距離置いて私を見ている渋谷さん、いったい何をお考えで…あ、近づいてきた。嫌な予感しかしない。 「麻衣」 呼ばれたのは、私じゃなかった。 「う…はい」 「報告の義務はあると思うが」 「で、ですね」 どうやら、渋谷さんの帰宅で私の存在が飛んだらしい。いやいや、そのまま忘れてくださってても良かったんですよ。こうして和風美少女に凝視される未来を思えば。 「それで、原さん、どうですか」 あ、これ神父さんのときと同じだ。和風少女、もとい原 真砂子さんは私をじ、と見たまま口を開いた。 「中に、溶け込んでいますわ。お互いを認識し、認め合っている。こんな憑き方は初めてです。不思議。憑依と似ています。でも、共存しています。あぁ、でも」 これは、雲行きが怪しくないですか。何だかいろいろばれているんですけど、オオカミ様大丈夫なの?…あ、びっくりしすぎて固まってる。もしもーし 「もう一方のお姿はまぶしくて、あたくしには見きれませんわ」 「まぶしい?」 「えぇ。それがこの方の本来のお姿なのかもしれません。とても、尊い方に思います」 原さん、とんでもなく優秀だ。優秀すぎて困る。私たちが怪しまれているのは分かっていたけど、犬のふりしてれば誤魔化されると思ってた、のに! 「尊い方?…蝶を追いかけて、麻衣にぶつかりかけて自分でこけた?」 滝川さん、追いかけてない、追いかけられてたの!そ、それ以外は、まさしく、何だけどね。 「尊い、ねぇ。この眠たそうな顔がねぇ」 松崎さん、オオカミ様元からそのお顔ですから!それ以上言わないで、オオカミ様本当にショックを受けてるから。がーん、て音聞こえてるから。 「時間がもったいない。本題に切り替えるぞ」 渋谷さんの一言で、一同の顔が引き締まった。 そんなこんなで、何やら作戦開始らしい。え、私もいなきゃダメ? (13/70) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |