教授に抱き上げられ、優しく丁寧に運ばれ…るわけないですよねー。城内に人がいなかったからまだまし。でも、若干抵抗してみたら“なら、荷物扱いでよいと?”と絶対零度の眼差しで言われた。諦めます、はい。アクシオで担架を出現させてくれたからいいです。行先は私の自室…と言う名の用務員室。
「何っ」
担架が緊急停止した。教授が杖を構える。私が乗った担架を背中に庇うようにして。守られているみたいでうれしい、とか思っちゃう私駄目だ。割と危険な状況なのに。私のメンタル的に。おそらく、部屋の真ん中ではとぐろをまいたM.O.M.分類XXXXXの。
『言い訳を聞こうか』
ヴァルヴェルデ(バジリスク)のご登場。
「何故蛇がこんなところに」
彼は蛇を連想させる一派を思い出したのか、顔をしかめてる。でも、良かった、教授が魔法生物に詳しくなくて。緑色の体に黄色の瞳を持つ蛇…なんていくら小型の蛇でも専門家が見たら怪しまれる。
「教授、その蛇はペットのヴァルヴェルデ君であだだだだ」
腕、腕締まってるから!なんという速さで来たの。そして、教授!
「Stop!教授、杖構えて何するつもりでっ?」
「二年前の決闘を思い出しますな」
「燃やすおつもりですか。それ私も危ないよね?」
「…」
何故そこで黙る。もしもーし、応答願いまーす。まぁ、私が腕締められても会話続けてるからか、杖は下ろしてくれた。でも安全じゃないんだな、私の腕。今にも折れそう…てか折れる!
「ヴァル!真剣にStop!腕限界!」
『この、愚か者!』
激昂。その一言が蛇から発せられた。随分とお怒りらしい。安全を確認してから、わざわざこっちに戻ってきたの。そっちも対外危ないことしている。ひんやりとした鱗の感触がここにある、それで十分と思えた。
「無事?何もされていないね、ここに、いるね」
『小娘が、余計なことをしおって』
しょうがないじゃん。闇側にとって猛毒の王なんて、見つかれば利用されるだろうから。
「…Ms,クルタロスは蛇の言葉がわかるのか」
ぎくり。そして、ヴァルヴェルデが腕を離して満足そうに視線を逸らした。この蛇、わざと教授に姿を見せたか。私が教授にヴァルヴェルデの存在伝える気がないと知っていながら。
「この蛇だけですよー」
「…詳しくは聞かん」
おっと、もっと根掘り葉掘り聞かれると思ってた。
「吾輩も行かねばならん」
「えっと、お気をつけて?」
ため息。そして、頭をぐしゃぐしゃにされた。ちょっと、忘れかけてたけど私まだ担架に横になったまんまなのですが―。
「ますます悲惨だな」
「やったのは教授ですよう」
でもちょっと笑ってくれた。それでまぁいっか、て思ってしまう私はただの馬鹿だー。
「しもべ妖精にチョコレートを頼んでおこう」
「我儘一つよい?」
「何だ?」
「教授の紅茶求めてまーす」
「…馬鹿者」
そう言って杖ひとふりで出してくれるからありがたいなぁ。
でも、こういう空間はしばらくさようなら、しないとね、教授。気付いているかな、教授の顔は今、戦う顔だ。戦場に行く顔だ。私は止めないし止められない。だって、教授が生きてくれている理由だから。止めることも、否定することもできるわけがない。
「教授、引き留めてすみませんでした」
紅茶の香りが胸にしみる。未だ腕に絡みついた蛇体をやんわりと抱きしめた。
「これだけ言わせてくださいよー」
ヴァルヴェルデは睨みつけてきたけど何も言わなかった。
「いってらっしゃい、セブ」