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ホグワーツ城の外が騒がしい。驚きと悲しみが膨れ上がっているような。教職員も生徒も外部の人間もほとんどが城外にいるため、ここら辺は静かだ。だから、たとえ廊下の端でふらふらする私がいても、誰も怪しまない、ことを望む。

『…何を見た』

私の足元でとぐろを巻いたヴァルヴェルデ。その輪郭がぼやけている。というか、城も何もかもぼやけている。目を、使いすぎたみたい。

「一人、死んだ。男子生徒」
『そうか』

ヴァルヴェルデの声は揺らぎがない。そりゃそうだ。彼は今大人しくしている(てかさせてる)だけで、彼の本質は捕食する側だ。

「そろそろ城が物騒になるなぁ」

闇の帝王が復活した。鼠男の目から得た情報では、すでに決闘ができるほど身体能力が回復している。本当に、魔法とは末恐ろしい。死者は蘇らないという法則を、覆した。いや、違う。

「彼は、死に損なっただけか」

どちらにしても、魔法は怖い。城も今後の対応について話し合いが始まるはず。騒がしくなる前に戻ろうというときに。頼りない足取りが、止まった。止まらざるを得なかった。

『人か』
「ヴェルヴァルデ。すぐに隠れて」

何故気付けなかったのだろう。いくら本調子でないとは言え、気を抜きすぎた。人がもう戻ってきたのか。ヴェルヴァルデを急かす。見つかれば危険生物な彼は、すぐに捉えられ何をされるかわからない。蛇体をくねらせ、ヴェルヴァルデが壁にはいずりこんだ。おそらくパイプの中に潜り込んだのだろう。これで見つからない。本当ならば。

「そこにいるのは何だ」

魔法の目を持つ、彼でなければ。私は気付かれていない。彼が見つけたのは、姿が見えないはずのヴェルヴァルデだ。

「蛇か。こんな時に。しかし、妙なやつだな」

正体までは見通せないようだ。でも、それも凝視されればわからない。

「こんにちは、Mr、ムーディ」

声を出して存在を知らせる。廊下に立っていたのは魔法の目の持ち主と、疲弊しきった英雄。そういえば間近で英雄と相対するのは初めてか、なんて場違いなことを考える。英雄殿はもはや意識を保っているだけで精いっぱいの様子。私が声をあげても気付かないだろう。でも、目の前の教師は違う。パイプの向こうで一匹の蛇が驚愕と憤怒の情を(実は私に)抱いている気がするけど、気のせい気のせい。大事なことは、厄介な目が私を向いているということ。

「お前…お前がクルタロスか。いつからそこにいた」

一応名前と職業と特徴みたいなことは紹介されていたらしい。でも、気付かれなかったことが余計警戒心を抱かせている。それでいい。その間に蛇が遠くへ行ってくれれば十分だ。私にできることは笑うこと。たとえ闇の印を右手に宿した奴の前であっても。笑え。いつも通りに。

「さっきからず〜っとおりましたが?」
「影が薄いというのは本当のようだ。わしでも気付かれんとは」
「今はそんなことを言っている場合ではないでしょー?何やら外が騒がしいようで。Mr,ポッターも尋常でないよーす。どーしたんですか?」
「お前にいうことなど何もない」
「然様で。お邪魔してしまったみたいで。どうぞ、私は外に行きます」
「ふん」

行って、くれた。あの教師が焦っていたことに助けられた。足から力が抜け、座り込む。今になって冷汗が噴き出てきた。息も苦しい。まともに呼吸できてなかったのか。こんな状態でよくあの目を誤魔化せた。ひたすら深呼吸に徹する。それでも、震えが消えない。

どれだけ時間がたったのか。もう、二人の姿はない。静かだ。静かなところに、話し声が近づいてきた。マクゴナガル教授と、もう一人。そして、もう一つ。今年一年は以前にもまして引きこもっていた代償かな。久々に外出しただけなのに。

「校長は決してお許しになりませんよ、大臣!」
「身の安全を図って何が悪い!」

なんで吸魂鬼が、校舎内にいるの。

へたり込んだ私に、マクゴナガル教授も大臣も気付かない。でも、よりによって吸魂鬼だけが、気付いた。黒いマントの向こうと、目が合ってしまった。冷気が体を覆う。体の底から冷えていく。周りが暗くなる。



悲鳴と怒号が、耳の奥から聞こえた。


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