花火大会にて悩む志波くん。
たまには純な志波くんもありかなと。
夏の恒例行事の一つ花火大会。
海野と過ごすのは今年でもう三度目。
たまたま鉢合わせた一年目、
海野から声を掛けてくれた二年目、
そしてオレが誘った今、三年目。
誘い誘われ見にきているが別に付き合っている訳じゃない。
…そうだとオレはありがたいんだがな。
(1/4)
カランコロンッ
行き交う人々がいかにもなお祭りの音を響かせる。
隣を歩くいつも小さな子供みたいに無邪気なこいつも今日はヒラヒラと揺れる浴衣に身を包まれて別人のよう。
「リンゴ飴の次はわたあめ食べようね!」
中身はそのままだから笑えてくる。
そして、安心できる。
「あ、あっちにも何か…わっ、すいません!」
「大丈夫か?」
「ふぅ、やっぱり人多いね」
「…はぐれるなよ」
「うん、分かってるよ」
そう返事をするもあっちへうろうろ、そっちへうろうろ。
見ていて飽きないがやはり危なっかしい。
仕方ない、ここは…
「おい、はぐれないように何処でもいいから掴んでろ」
「何処でもって?」
直に手をとれたら一番いいが
「……浴衣の裾…とか」
さすがに、な。
「了解っ、では失礼して」
ちょん、と端を摘まれた。
只それだけの行為だが二人の間に距離がなくなった事に胸の辺りがほんのり熱くなる。
自分から提案しておいてこの様、こんなんでこれから先大丈夫なのか…
………これから、はあるんだろうか…
(2/4)
今年は高校最後の花火大会。
来年には別々の道を歩きだし、今日みたいな花火に限らずきっと今までのように頻繁に連絡して一緒には居られない。
そもそもこいつに他にそういう相手が出来たら…
いや、今考える事じゃねぇだろ。
今隣に居るのはオレで……ん?
先程まで横に引っ張られていた裾が下を向いている。
「たこ焼きもいいなあ…」
隣に居たはずの人物を探すと、少し後ろで手は裾を掴む形のままぼーっと屋台を見つめていた。
あれほどはぐれるんじゃねぇと…
やはり断れることは承知の上で手を掴むよう促してみるべきか?
「おい、海野?」
オレの声にハッとして急いで手を伸ばす。
「ちゃ、ちゃんと持ってるよ!」
伸ばしたその先にあるものは
(3/4)
「……手…」
「離してないからね!たこ焼きちょっと見てただけで…」
初めからずっと握ってましたと言わんばかりの目で訴える。
でもそれはオレの願望通りだったならば通じる言い訳で、本来には無かった手に感じる温もり。
「いや…手を……」
「うぅ…っ!は、はぐれてはいないよ!」
最終の目的は果たされていると判断し、一瞬離しちまった事は認めたらしい。
しかしオレにとって重要なのはそこじゃなく、直接手を…
「もう離れないから大丈夫」
オレに確認させるように繋いだ手を掲げて笑ってみせる。
真っ直ぐに向けられる笑顔を見てると一人で悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「くくっ…分かった」
そうだな、先の事は分からねぇがこれが今の事実。
何の躊躇いもなく手を繋いでこうしてオレと歩いて去年も一昨年も一緒に見た花火を見に来てくれる。
それだけの事で満たされてしまうオレの心。
確かに付き合っちゃいねぇが、嫌われてないと思っていいよな?
「よし、行くか」
先の心配なんか吹き飛ばす今現在感じられるその喜びを胸に、繋がれた手をそっと握り返し歩き出した。
しかしやはり気になる訳で、希望を捨てず問いかけてみる。
「……来年は…離すなよ」
「もちろん!」
何の疑問も持たずに答えてくれたその手を、また少し強く、優しく握った。
- END -
(4/4)
<09/06/30>