#01 At the beginning(5/15)
ヒューズは眼前に広がる光景に息をのみ唖然とした。
突然少女が喚き叫んだのだ。
頭を抱え、
髪を振り乱し、
何かを断ち切るように
肩を
背中を
お腹。
足を
打ち叩き続けた。
「嫌!!離して!離してぇ!!……ア、アァァ!!!触らないで!離れてよ!!」
頭を抱え、膝をついた。
ガタガタ震え涙を落とす少女。
胸が抉られるような叫びにヒューズの心に重くのしかかった。
「おい!落ち着け!大丈夫だ!!」
少女に届くように呼び掛け、手を差し伸べた。
しかし、
それは逆効果であった……。
ヒューズの伸ばされた手をみるなり手を振り払った。
少女は唸るような嗚咽の声を漏らし身悶えた。
まるで悪夢に魘されている子供のように……
頭で考えるよりも体が動いていた。
少女を抱きしめたのであった。
ビクッと体を震わせヒューズの腕から逃れようとする。
大丈夫、大丈夫とまるで子供も寝かしつけるように優しく囁き、
ポンポン、と一定のリズムで背中をうった。
強張っていた体が少しずつ弱まっていった。
少女はか細い声で
「……おとうさん」
と呟き意識を手放した。
ホッと安堵のため息をつき額の汗を拭った。
腕の中で眠る少女を見た。
涙で頬を濡らし疲れたような血の気のない顔。
「こんな子供が……あんな風になっちまうなんてどんな経験したんだ?」
今思い出しても先程の少女の狂気には背筋に戦慄が走る。
とんでもないものに関わっちまったなぁ、とやるかたない思いで一杯になった。
突然扉が乱暴に開けられた。
条件反射のように腰の暗器に手を添え扉の方を睨んだ。
「少佐!」
部屋に入ってきた人物の顔見た途端に体がどっしりと疲労感と安堵感に浸された。
「あぁ!何だファルマン准尉かよ驚かせんじゃねぇよ!」
ヒューズと同じ調査部に所属している部下ヴァトー・ファルマン准尉が立っていた。
「少佐!先程の強烈な光は?……って!何しているのですか?」
「何って?!俺が知りてぇよ!」
「新婚なのに何されているのですか!」
「はぁ?!お前さん何をどうしたらそんな勘違いをするんだよ!俺の女神グレイシアを裏切ると思ってんだよ!だいたいなぁ……」
「はい!はい!分かってますよ。少佐」
ヒューズの言葉に被せながら話しを打ち切り咳払いをし、
「あの〜それでその少女は?」
ヒューズは頭を掻きながら
「あぁ、……俺もわかんねぇよ」
ため息をついた。
「ファルマン准尉。車を回してくれ。迅速に内密にな」
「はっ……?何を仰っているのですか!……上に報告は?」
ヒューズの思いがけない命令で眉をしかめ険しい表情をし声を荒げた。
「この件は俺が預かる。責任も俺がとる。」
ヒューズ少佐、と形容出来ない神妙な顔つきで呟き、敬礼し部屋から立ち去った。
ヒューズはまたひとつため息をついた。
我ながら軽率な行動に自己嫌悪した。
だが、このまま軍に預けるよりはマシだろうと見なした。
上着を脱ぎ少女にかけ横抱きにし立ち上がった。
「アイツに頼るか……いや……」
信頼できる同期であり親友を思い浮かべた。
だが、上層部の人間にはあまり良く思われていない。
この件に関わると更に風当たりが強くなるだろう……
一般軍人であるヒューズには専門外だが、
これは"錬金術"が関わっていると直感した。
自身に解決出来るとは到底思えないが……
「まぁ、なんとか……してみるかな」
乾いた笑みを浮かべた。
「さてと、眠り姫。参りますか」
届かないであろう人物に安心させるように冗談を言いながら部屋をあとにした。
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