#03 Lieutenant(9/15)


オフィスの到着し席についた早々に溜め息をつくロイ。
目の前の書類の山にうんざりした。
たった一日司令部に居なかっただけでここまで溜まるものかと目の前の書類に打ちのめされる。
レベルの低い嫌がらせだが地味にダメージを受ける。
そんなロイにお構いなしにリザは追加の書類を渡していく。


「中佐。一件ご報告が」
「何だ?上層部の連中からの心温まる小言か?」
ロイは退屈そうにペンを指先にもてあそぶ。
「違います。事件……という訳ではありませんが昨夜奇妙な事が……」
「何だ?話せ」
リザの曖昧な言い方に探るように目を光らせた。
「昨夜中央図書館第一分館にて強烈な光に覆われました」
「何?」
先程までの顔から一変、
恐ろしく真剣な顔つきになり話の続き促す視線を向けた。

「目撃したのは中央図書館の職員二名、憲兵一名。そして、当日第一分館を使用していた軍人一名。その時間は閉館時間でしたので他の目撃者や一般人は居ませんでした」
両手を組みそこに顎を乗せ黙って聞いているロイ。
「職員からの通報を受け私とハボック少尉と共に現場に向かい中央図書館の館長と職員の立ち会いのもと、現場検証を行いました。しかし、盗難・破損などの被害がありませんでした。中央図書館側より大事にしたくないという事で被害届け等は出さないという方向になりました」
「目撃者の証言は?」
「はい。目撃者全員ほぼ同じような証言で……。"突如、黄金の光が建物全体を覆いその後赤い光に変わり暫くしておさまった"と……目撃者全員に接点はなく故意的に証言を合わせているようには感じませんでした……私見ですが……」
「第一分館を使用していた軍人は?」
「調査部に所属しているヴァトー・ファルマン准尉です」
ヴァトー・ファルマン、と思い出すように口の中で反芻させた。

細目で少し頬のこけた男を思い出した。
"歩くデータバンク"
とヒューズは言っていた。
恐ろしいまでの記憶力によって調査の痕跡を残さず情報を引き出せる……
と、評価していた。

「ヒューズの部下か……」
「ええ。当時彼は建物内に居らず外から目撃したそうです。職員がそれを目撃していました」
「そうか……」
リザから与えられた情報が波紋のように脳内に広がり昨夜ロイが目の当たりにした光景と重なってしまう。
「そして、我々しかまだ知らない情報ですが……」
「ん?まどろっこしいのはもう良い。話せ」
先程からいつものリザらしからぬ態度にロイは気が立ち静かに一喝した。

リザは手持ちの書類に目を落とし私情を押し潰し、それを手渡した。
「当時第一分館は調査部が使用していました。が、受付ではファルマン准尉の名ではなく……」
ロイの手の中にあるのは第一分館の使用者名簿。
パラパラと捲っていた手が止まった。
「マース・ヒューズ少佐の名が」
「奴の名が……」
彼の瞳の中に驚きと不安が見えた。

少し間をおいた。
今までの情報がロイの頭に落ち着くのを待ち、それから再び話を続けた。
「しかし、我々が現場に到着した時には少佐はいませんでした。ファルマン准尉は一人で仕事をしていたと……少佐は本日出勤されていません」

床を蹴るようにして椅子から立ち上がり
「この事は誰も?」
「ええ、被害届けが出ていませんので」
「ファルマン准尉は?」
「本日出勤されています」
「わかった……」

話を聞き終え扉に向かおうとするロイに対し、
どちらへ?と答えが分かっている質問をした。

「私用を思い出してね。直ぐに戻るさ」
リザは大きな溜め息を落とし、
「午後にはお戻りください。本日中に提出しないといけない書類がありますので」
ロイのデスクを指した。
書類の山とリザを見て冷や汗を浮かべ
「ああ、善処しよう」
顔に愛想笑いを張り付け部屋から出ていった。

部屋に一人取り残されたリザの顔には何とも言い表せないほどの悲しげな苦笑が浮かんだ。



部屋から出たロイはいつもより大きな歩幅で、
高鳴る心臓の響きに追われるかのように足早に歩く。

昨夜のリゼンブールの光景とリザの言葉が頭の中でバラバラになっているパズル断片のように構成されていく。


"人体錬成"


下唇を噛み一心に足を動かした。







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