#03 Lieutenant(8/15)


がらんとした廊下に足音が響く。
中央司令部の白く一直線に続く廊下を男性軍人が一人歩いている。

黒髪に端正な顔立ちで品のある青年。
そして、
まるでオニキスのような強い目が印象的。
誰もが見とれるような男だ。

――ロイ・マスタング。階級は国軍中佐。
そして、
"国家錬金術師"

ふと足を止め窓の外を見た。
空は雲一つなく冴え渡っている。

「おはようございます。マスタング中佐」
「あぁ、おはよう。少尉」
ロイは振り向き言葉をかけた。

そこには、
太陽の光を浴び輝くような金色の髪。
かろうじて首筋が隠れるほどのショートカット。
鳶色の涼しげな瞳の女性軍人。
ロイの部下であるリザ・ホークアイ少尉が敬礼をしていた。

「視察はいかがでしたか?」
リザの言葉に曖昧な笑みを浮かべ窓の外を見た。
昨夜の光景が激しい光を放ちながら浮き上がってくる。
雨の音が耳鳴りのように頭の中で響く……


夜が泣いていた……
大粒の雨が激しい音を立てて地面を叩きつけ、霧のように飛沫をあげる。
レインコートを纏ったロイは丘に立っていた。
「リゼンブール村か……」

その刹那
眼前に広がる光景に言葉を失った。
家全体をまばゆい光が覆っている。
ロイは理解した。
この光は錬成時に生じる錬成反応の光。
だが、ここまでの強力な錬成反応を見たことがなかった。
一抹の不安が過る……
その予感は的中してしまった……

"人体錬成"

「マスタング中佐。どうかされたのですか?」
リザが心配そうに眉間に寄せていた。
「いや何でもない」
ロイは私情を断ち切るかのように歩みを進めた。
リザもその後に続いた。
「中々面白いものを見付けたよ。国家錬金術師なれるであろう少年をね」
「……そうですか」
少し悲しそうに目を細めた。
「私の昇進に利用させてもらうよ」
「中佐。不穏当な発言は慎んだ方がよろしいかと」
「ああ、気をつけるとしよう」
口唇を引き歪め意味ありげな笑みを浮かべた。

悠然と歩くロイの後ろ姿を見つめリザは不安になる。
時々彼の言動や行動が分からない。
付く相手を間違えたのかもと思う時もあった。

だが、
これは自分の意志
彼の背中を守ること
彼の目的を果たすまで引き金を引く
迷うことなく……

「……少尉?どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうか。あまり無理はするなよ」
「お気遣い有難うございます」







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