「今回は大手柄でしたね、グレイ」
『恐れ入ります。女王陛下』
アシュレイ侯爵はその後、貴族院議員を解任され、ヴィクトリア女王の計らいにより今後一切、社交界の出入りを禁止された。
女王陛下に褒美を賜ったにも関わらず、グレイの気分はどこか浮かばれなかった。
***
「しかし、意外だな」
『なにが?』
Wチャールズの片割れ、フィップスが何とも腑に落ちないといった表情で得意の刺繍を縫っていた。
「お前があの近侍の少女を助けるなんて思わなかった。
普段のお前なら、面白がってそのままアシュレイ侯爵に差し出していただろう?」
『別に……。ちょっと気分が乗らなかったから、そうしなかっただけ』
そう、そのつもりだった。
フィップスの言うとおり、最初は彼女を助ける気なんてなかった。
それなのにアシュレイ侯爵の部屋に向かう名前の背中を見た途端、身体が勝手にフィップスとジョンの元へ向かい、2人に助けを乞うていた。
『侍女たちの噂は耳にしていたが、お前まさか本当に彼女を……』
「うるさいな!!!フィップスまであの変態ジジィみたいなこと言うのやめてくれる!?」
フィップスの言葉にカッとなって、思わず声を荒げた。
自分でもビックリした。
(こんなに大きな声で怒鳴るつもりじゃなかったのに……)
「……すまない。お前のプライベートなことまで口出しするつもりはない。ただ、女遊びは程ほどにしておけよ」
我らは“女王陛下の”執事なのだから……
と、相方が声を荒げても表情ひとつ変えず続けた。
『まさか、』
フィップスの言葉にグレイは口角を釣り上げて鼻で笑う。
『ボクが使用人ごときに本気になるワケないじゃん』
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