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『なに?キミ風邪?』











大きな部屋に小さく響いたクシャミに対し、グレイは眉をひそめた。












「……いえ。申し訳ありません」









今日も王宮の執務室で、名前は彼女の主であるグレイの女王秘書としての雑務に追われていた。





フィップスが女王陛下に呼ばれたため二人きりで書類整理をしていた矢先、彼女のふいにでたクシャミでそれまでの沈黙は破られた。









相変わらず彼の口調はぶっきらぼうだが、以前と違って 言い方に棘がなく、そればかりか少々優しくなった気さえした。









『……ふーん?ま、ボクにうつさなければ、なんでもいいんだけどね』











あの事件以来、グレイは名前を粗野に扱うことはなくなった。




プライドの高い彼は、決して謝ったりしないが多少なりとも負い目を感じているようだ。










(しかし、大事に扱われては困る……)




彼に対して情が沸くわけではないが、優しく接されては復讐のやり甲斐がない。


チャールズ・グレイに対する憎しみを募らせた方が気が紛れるし、復讐のモチベーションにも繋がる。







名前は鼻をおさえたハンカチを仕舞うと、書類整理を再開した。









それにしても、流石は王宮の資料室。




書類の数が尋常ではなく、グレイと名前はファイリングに手こずっていた。










(えーっと、A605の資料は……あそこか)










名前は目当ての資料を取ろうと、脚立に乗って棚の冊子に手を伸ばしたその時______…





ガタッ!

















(あ……っ!)

















高い位置にある物を無理に取ろうとしたためバランスを崩し、気づいた時には脚立から足を踏み外していた。





(しまった……!)




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