「ご存じ?グレイ伯爵が女の近侍をお連れになってましたの!」
「女の近侍!?またどうして女なんか……それでその女、どこの家柄なのかしら?」
「さぁ?所詮どこかの没落貴族あたりでしょうよ」
女王陛下の執事チャールズ・グレイ伯爵が若い女を傍に従えてるというのは、宮廷中でも乍ち貴婦人たちの噂の種となった。
名前は貴婦人たちの嫉妬と好奇の入り交じったピリピリした視線をその小さな背中で感じ取っていた。
(哀れね……)
蝶よ花よと育てられた温室育ちの貴婦人たちはチャールズ・グレイの裏の顔を知らない。
彼の容姿と家柄に惑わされて、彼の汚れた部分が見えない貴婦人たちが名前はとても哀れに思えた。
『この林檎パイすごくおいしー!あっ、こっちのデザートもサイコー!!』
近侍の名前が周囲の視線にさらされてる中、当の主はお構いなしにその細い身体に大量のお菓子を投入していた。
『ケーキも甘いし……流石、宮廷の料理だね。何ホールでもイケちゃいそうだよ』
机のうえに積み重ねられた皿を宮廷のメイド達がせかせかと片付ける。
尋常じゃない彼の食欲に名前は絶句した。
「ちゃ……チャールズ様!食べ過ぎです。バランスの取れてない食事はお身体に障ります」
そんなこと露程にも思ってないが、一応 近侍として心配する素振りを見せる。
『うるさいなー。近侍のクセにボクに指図するワケ?』
大抵の使用人なら貴族である彼の一言に怯んで、何も口挟まなくなるだろう。
けれど名前は臆することなく、チャールズ・グレイから目の前のデザートを取り上げる。
「主人の健康管理も近侍である私の務めです」
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