今にして思えば……

あの時ほんとうに私の頭にヤドリギの葉なんてついていたのだろうか?



だけど、私がその答えを知ることは恐らく一生ないだろう。





***







「あの、グレイ伯爵家の近侍ですが、こちらに主人が搬送されたと伺ったのですが……っ!」




走ったせいで髪が乱れ、汗も滴って、お世辞にも名門伯爵家の従者に相応しくない出立ちだったかもしれない。

それでも形振り構わず、肩で息をしながら王立病院の受付の女性に問い合わせると彼女は少しだけ困ったような顔をした。



「……申し訳ありませんが、患者様に関することはお教えでき兼ねます。何か証明できるものはお持ちでしょうか?」





至極真っ当な答えが事務的に返ってきた。

慌てて来たのだから証明書なんてそんな物は持ち合わせていない。
歯痒い思いに奥歯を噛むと……




「名前?」





名前を呼ばれ振り向くと、そこには白衣を着たマダム・レッドが立っていた。


彼女は驚いたように赤い瞳を見開いていたが、やがて一瞬で何もかも理解したようだった。






「貴女の雇用主って……グレイ伯爵だったの」




その言葉は、まるで貴女の想い人はグレイだったのかと問われているような気がした。

名前はそれには応えず、請うような眼差しでマダムレッドを見つめた。




「マダムレッド、当家の主人は……無事なんでしょうか?」





マダムは小さく息を吐いて受付の女性に目配せすると、名前の手を優しく取った。
彼女の温かい手に触れられるまで、自分の手がとても冷えていたことに気付かなかった。






「病室に案内するわ。ついてらっしゃい」





***







病室の廊下には、ひどく憔悴したクレメンティア嬢が座っていた。

爆風に巻き込まれたからか、所々ドレスが汚れており普段の美しさが見る影もなかった。




クレメンティア嬢はこちらの姿を確認すると、勢いよく名前の胸に飛び込み、堰を切ったように泣き出した。






「名前!どうしよう……私のせいで、グレイ伯爵が……っ!」

「お、落ち着いてください」



言いながら自分も大して冷静ではなかったが、なんとか公爵令嬢を宥めようと彼女の震える背中を優しくさする。





「彼は無事よ。あの爆発の中、右腕の打撲程度で済んだのは奇跡だわ」


マダムレッドが冷静さを欠いた2人を諭すように声をかけた。



「でも酷い激痛でしょうし、医者として最低でも2週間は安静にしていてほしいところね」




マダムは説明し終えると、クレメンティア嬢をそっと名前から引き離して背中を押した。





「病室はそっちよ。様子を見て来てあげて?名前」







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