あの日々を取り戻すためなら、なんだってするわ。
コツコツコツコツ‥
閑散とした屋敷内に高いヒールの音だけが響いていた。
足音の主はわざとヒールの音を大きく鳴らし、苛立ちを表わしていた。
“お久しぶりです。オールコック男爵夫人”
(何よ!あの態度!!)
グレイの元愛人 エルザ・ターナーはすこぶる機嫌が悪かった。
グレイは自分とは本当に何事もなかったかのように、あっけらかんとした態度で接してきた。
別れ際に、こちらには二度と話し掛けてくるなと言ったクセに自分からは話しかけてくるなんて勝手な男だ。
そんな男に熱をあげている自分も、本当にどうしようもない女だけど……。
それにしても、まさかこんなところでグレイの妻に会ってしまうなんて思いもしなかった。
陶器のように若く、白い肌に……
世界の穢れを知らないあどけない瞳。
そして、昨夜の情事を思わせる、ドレスの隙間から見えた赤い鬱血の痕……。
何よりも、彼女がグレイに大切にされているのが一目でわかった。
(悔しい……!私はこんなにもグレイのことが好きなのに、ただ許婚というだけで、あんな女に奪われるなんて…!!)
ぶち壊してやりたい。
あの幸せを。
ガタガタンッ!
「!?」
突然の物音にエルザは肩を震わせた。
(何の、音……?)
音のした部屋を忍び足で、こっそり覗き込む。
そこにいたのは、2人の男の影……。
「なっ……何なんだ、お前はッ
サラの友人の夫が、私に何の用なんだ?!」
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