食堂に案内されてそれぞれが席に座る中、私はブルックさんの隣、キャプテンの後ろのソファに腰掛けた。
サンジ君がいれたての紅茶をくれて、キャプテン用におにぎりを握ってくれている。
「ナマエちゃんはサンドイッチ食べれる?」
「あ、私は好き嫌いないです。パン大好きなのでサンドイッチ頂きます」
「おれもそんな君が大好きだぁ〜」
お皿を受け取ろうと手を差し出すと、その手を握られて手の甲にキスされる。
小さなリップ音を立てて離れるとその上にお皿を渡された。
「どーぞ」
「…ありがとうございます」
このキスは代金がわりだろうか。
本当に麦わら一味は距離感が分からない。
サンジ君みたいなタイプ居ない…というかこの一味にいるような人が一人も居ない。
やっぱりその船の船長によって船の雰囲気も違うんだなあ。
ルフィ君と自分の船しか知らないけど。
錦えもんさんの話しを聞きながら、私はサンドイッチを頬張った。
サンジ君の作るサンドイッチは本当に美味しくて、思わず頬が緩んでしまいそうになるほど。
ハートの船ではキャプテンがパン嫌いのため、コックが配慮してパンを買うことはなかったし、食事に出ることもなかったのだ。
島に着いたときにカフェで食べるくらいで、こうして作りたてのサンドイッチを食べたのは本当、何年ぶりだろうか。
パンクハザードでもパンは出さない様に言っていたため食べる機会もなかった。
「美味しい…」
「ヨホホホ。サンジさんの作る料理は格別ですよね」
「本当ですね」
「げぷー。失礼」
「…」
この人、姿と言葉遣いは紳士なのになぜこうもマナーが悪いのだろうか。
まあ、海賊だし煩く言いたくはないが。にしてもゲップでるなんて、どういう仕組みなのだろうか。胃はあるのだろうか…謎だ。
「ブルックさん。いつか解剖してみていいですか?」
「ええっ?!」
「…冗談です」
「ナマエさん、トラ男さんと似たようなこと言いますね!」
キャプテンならバラしてみてもいいか?って聞きそうだ。
だって医療者ならその体の仕組みを一度は見てみたいと思うはず。
チョッパー君は何で解剖しなかったのだろう。
ああ…トナカイだから?人間の体のことあまり興味ないのかな。
「なぜ追われていたかは話せん!!しかし、元々はゾウという場所を目指して海に出た」
「ゾウ…?」
キャプテンの声が聞こえてきて、私は中央のテーブルへ目をやった。
ここからだとキャプテンの背中しか見えないが、きっと頬を膨らませておにぎりを頬張っているに違いない。
「存じておるか?!」
「何から何まで奇遇だが…シーザーを引き渡し、スマイル工場を壊したら、次はゾウを目指すつもりだ。おれの仲間がそこに居る」
みんな元気かな。
ベポはお兄さんに会うことができたかな。
キャプテンの話しで私の頭の中でみんなの顔が思い描かれていく。
誰も怪我してないといいな。
何せ、看護師も船医も別行動中なのだから。
錦えもんさんがキャプテンの言葉に興奮したように立ち上がった。
「それはまことか?!…で、では、そこまで拙者たち同行するわけには…」
「いいぞ!ワノ国まで行こう!」
「おい!…いや…」
ルフィ君が即答していたがキャプテンが止めようとして、やはりやめた。
どうせそうなる流れだろう。
その後も錦えもんさんの話しを聞きながら私の頭の中ではドフラミンゴのことでいっぱいになっていた。
果たしてそう上手くいくのだろうか。
ドフラミンゴを倒して、ゾウに…そしてワノ国へ行けるのだろうか。
「ヨホホホ。ところでナマエさんはその恰好でドレスローザへ?」
「あ、いえ。ああ、そうだ服を変えないと」
「それなら錦えもんさんに頼むといいと思いますよ。彼の能力なら…ヨホホ」
なぜだか骨のくせに頬が赤く染まったように見えたのは気のせいだろうか。
しかし、服は必要だし。
ナミに借りようと思っていたのだが、錦えもんさんが出せるのならそうしてもらったほうがいい。
「ぶおーーー!男じゃねェか!カンジューロー!」
「よし!おれも助けるぞそいつ!」
「お前ら目的を見失うんじゃねェぞ!」
キャプテンの怒鳴り声で話しはひと段落ついたようだ。
食事も終わり、さっそく錦えもんさんに頼んで服をかえてもらうよう伝える。
キャプテンの方を見て確認すればキャプテンも頷いて、了承を得る。
「よし、ではこの葉っぱを頭の上に乗せい!」
「葉っぱを?」
「服は戦いやすい女性の服でよいな?」
「はい。下はズボンでお願いします」
「では、どろん!」
食堂でみんなの居る前で行った着替え。
つなぎの恰好から変わった服はものすっごい短いショートパンツになぜか上はビキニ。
ほとんど下着としか思えない服装に私は慌てて胸を隠してしゃがみ込んだ。
私の恰好を見たサンジ君は盛大に鼻血をふいて、他のみんなもキャプテンも飲んでいたコーヒーを噴出した。
「ぎゃあ!!な、なにこの恰好!」
「おお!ナマエは意外と胸が…ぐはっ!」
キャプテンが錦えもんさんの首を切り落とし、上からキャプテンの服をかぶせられた。
「おい!ふざけんじゃねェ!エロ侍!!」
「な、なぜロー殿がそんな…」
「二人は恋人同士だからよ。落とされたのが首だけで良かったわね」
上半身裸のキャプテンが錦えもんさんの胸倉を掴んでものすごいドスの利いた声で「さっさと元に戻せ。バラバラにするぞ」と睨みつける。
久しぶりにあんな怖いキャプテンを見た。
「ぬ、脱がすでござる!」
「………」
「キャプテン待って待って!鬼哭しまってください!」
鬼哭を構えだしたキャプテンの体を押さえて私は叫ぶようにして止めた。
危うく食堂にバラバラの侍が飛び散るところだ。
次はちゃんとキャプテンと同じ長ズボンに、上は普通にフードつきのパーカーにしてもらった。
でも、頭はキャプテンが掴んだままだ。
「ロー殿の恋人でござったか」
「雰囲気で察せ」
「いやいや、仲良しの船長とクルーかと…ルフィどのたちも男女仲が良かったゆえ、ロー殿とナマエ殿もそうかと」
エロ侍の言葉に私も大きく頷いた。
確かにルフィ君たちとナミやロビンさんとの距離感はとても近い。
私たちがそういう仲なのかは言われなきゃ分からないかもしれない。
キスシーンをみられたわけでもないし。
「まあまあ、キャプテン。見られちゃまずいものでもないですし」
「…お前な…黒足屋の反応見ろ」
「サンジ君はいつものことですから」
舌打ちをしてキャプテンは私の頬を片手で掴むと無理やり上を向かせられる。
「な、なんですか」
「…何でもねェよ」
じっと見つめられていたかと思えば、パッと離されてキャプテンは食堂を出ていった。
「ふふふー、トラ男って意外と嫉妬深いわねー」
「なんでトラ男あんな怒ってたんだ?ナミみてェな恰好嫌いなのか?」
「男はみんなあんな恰好が好きよ。でも、恋人には自分の前だけにしてほしいものよ」
「ふーん」
鼻をほじりながら対して興味のなさそうなルフィ君。
うーん、ブレないなルフィ君。
服も変えたし、甲板に先に出ているキャプテンを追いかけると船の先端の手すりに両手を置いて海を眺めている姿を発見した。
キャプテンもすでに着替えていて、いつものズボンにコラソンと書かれたロングパーカー。下に何も着ていないから刺青丸見えだが、隠す気はなさそう。
コラソンの文字をじっと見つめて、その大きな背中を抱きしめた。
会ったことはないけれど、キャプテンに愛を教えてくれたのはこの人なのだ。
幼少期のキャプテンに愛を与えてくれてありがとう。
「抱きしめられるのもいいな」
「そうですか?」
「でも、正面からのがもっといい」
振り返って両手を広げてくれたその腕の中へ。
海風がふいて、後ろでひとつに縛っている私の髪の毛がパラパラと流れる。
そんな髪を指で遊ぶようにキャプテンが頭を撫でて、そのまま滑るように私の頬を撫でた。
「本当は誰にも見せたくねェ」
「?ん?さっきの服の?」
「それももちろんあるが…たまにお前を閉じ込めておれだけのものにしてやりてェ衝動に駆られる」
「ふふふ」
「でも、お前は閉じ込めたとしても…逃げ出すんだろうけどな」
「よくお分かりで」
頬を撫でていた手が更に滑って私の顎を掬い上げると、キャプテンは唇に触れるだけのキスをする。
「だから、飽きねェんだよ」
「逃げても、キャプテンの元にやってきますからね。嫌でも」
「そりゃ安心だ」
「うおおお!!着いたぞ!ドレスローザ!」
大きな声でルフィ君が叫ぶとウソップ君がルフィ君の後頭部を叩いた。
「馬鹿!大声出すなよ!ドフラミンゴに聞こえちまう!」
「聞こえるか」
顔が青ざめながらウソップ君が指摘するとゾロ君が冷静に突っ込みを入れる。
麦わら一味のコントのようだ。
「今助けるぞ、カン十郎ーー!」
最後に錦えもんさんの叫び声を聞きながら、私たちはとうとう敵地であるドレスローザへ到着することができた。