無事にドレスローザへ上陸した私たちはそれぞれのグループに分かれて別行動することになった。
私はキャプテンのように帽子を被って、その上からパーカーのフードをかぶってサングラスをする。
そしてサングラス越しに黒い髭をつけたキャプテンを見上げた。
こんなふざけた格好をしていてもカッコいいなんて。
「…見惚れてんなよ」
ジッと見ていれば肩を抱き寄せられてそう呟かれる。
こうして茶化す余裕があるだけまだ安心だ。
なんたって町中の様子を見ながらピリピリしだしたのだから少し不安だった。
だが、キャプテンがピリピリするのも頷ける。
国王がやめると言い出したのに、なぜこんなにも町中は落ち着いているのか。
グリーンビットへ伸びる橋を横目に、情報収集のために橋の近くにあるカフェに腰を落ち着けることにした。
「あ、私紅茶で」
「おおい!お前呑気な奴だな!」
「ウソップ君。そんなにビクビクしなくてもさすがにいきなり切り刻まれたりしないよ」
「言い方怖ェな!ナマエ!お前んとこの船長そっくりだな!」
シーザーを挟んでウソップ君のツッコみにキャプテンが鼻で笑う。
飲み物を持ってきてくれた店員さんにロビンさんがそのままグリーンビットへの行き方を尋ねるのを横目に、紅茶を啜りながら耳を傾けた。
「グリーンビットねェ…あんまり勧められねェなァ…。研究員か探検家かい?アンタたち」
「ええ。ちょっとした研究に…」
ロビンさんはニコリと笑ってそう返すと、カフェの店員は首を横に振る。
「命かけて行くほどの用事がねェんならやめた方がいい…」
「あの橋はずいぶん頑丈そうだけど?」
私たちの視線は高くそびえる鉄橋へ。
なぜあんなに頑丈な橋が作られているのに誰も渡ろうとしないのか。
そして、入り口にバリケードが張られているのはなぜなのか。
「あァ確かに鉄橋だよ。だがホラ、今じゃ入口は見ての通り誰も使ってねェ」
「なぜ?」
私が小首を傾げて問いかけるとカフェ店員が腕を組んで顎に手を当てて答えた。
「グリーンビットの周りには闘魚の群れが棲みついててねェ…そいつらが現れるまでは人の往来もあった様だが、200年も昔の話しらしい」
「シュロロロ…主人、トウギョとは?」
いきなり隣からシーザーが口を出してきた。
さすがのシーザーも運ばれるまでの身の安全が気になるらしい。
「ツノがある凶暴な魚だ。船なんかで近づいたらまァまず転覆だな!その為に橋も鉄に強化されたが…無駄だよ」
闘魚の真似だろうか。
店員さんが人差し指を頭の横につけて振り回しているのが少し可愛い。
キュンっとしたら隣からキャプテンの長い足が椅子を蹴飛ばしてきた。
「無駄って…おい!鉄の橋でもその魚に倒されるってのか?!」
「さァ。橋がどうなってるかは…行った奴しか知らねェし、帰ってきた奴も知らねェし…」
「は?!!」
カフェ店員さんはその一言を残して店内へ戻っていくと、ウソップ君は慌ててテーブルに顔を寄せて声を顰めた。
「おい!トラ男!今すぐ引き渡し場所を変えろ!」
「そうだぞ!引き渡される身にもなれ!バカめ!」
「変えねェ。ここまできてガタガタ騒ぐな。そんなことよりおれが心配してんのはこの国の状況だ。王が突然辞めたのに…何だこの平穏な町は…」
そこまで言うとキャプテンは溜息をついて腕を組んだ。
「早くも完全に想定外だ」
「大丈夫かよ!!おい!ナマエ!お前のとこの船長だろ!説得して…」
「私だって想定外だよ」
「おおい!…ったく…ん?何してんだ?ロビ…」
人差し指を唇の前に持っていって、帽子を深くかぶるとキャプテンがその視線の先に目をやる。
「CP−0…!何しにここへ…?!」
「え?!CP?!」
ウソップ君がキャプテンの呟きに反応して慌てだした。
世界政府の諜報機関…サイファーポールがなぜここに…?
「も、もしかしてCP−9と関係が?!」
「その最上級の機関よ…彼らが動く時にいい事なんて起こらない」
「……確かに…」
私たちはその姿が見えなくなるまで大人しく座って眺め、姿が見えなくなってから立ち上がった。
「とにかく時間もねェ。行くぞ」
「アイアイ!」
鉄橋を歩きながらウソップ君が私の腰にしがみ付いてその後ろにシーザーがしがみついて歩いている。
「ウソップ君。私にしがみついてもそんな強くないんだけど」
「いや。お前にしがみついていればいざとなった時にトラ男が助けてくれるってシーザーが」
「ならキャプテンにしがみつけばいいのに」
「バカいえ!七武海だぞ!」
「その七武海のクルーなんだけど…」
どうでもいいが腰にしがみつかれると歩きにくい。
キャプテンもチラチラと私の方を怖い目で見ている。
これは離れろってことじゃないだろうか。
「ふふふ。ウソップ。このままだと闘魚の前にその七武海に殺されちゃうわよ?」
「ひい!」
やっと離れてくれたと思えば、橋が大きく揺れて海面から大きな魚が現れ橋に衝突した。
「うわああああ!でたああ!鉄橋頼りねェーー!!」
耳がキーンと耳鳴りがするほど、ウソップ君の叫び声が響き渡り私たちは走り出した。
その魚を見上げて私は口を大きく開けた。
魚というか海王類だろう。そのぐらい大きい。
「闘魚っていうからてっきり魚かと…」
「魚じゃねェか」
「さ、魚ですかね…」
「もう魚じゃねェだろ!アリャ!」
「海獣とかわらねェ!獣だ!!」
それぞれの感想を呟いた後に私は刀を抜こうとしたらその腕をキャプテンが掴んで止めた。
「大丈夫だ。コイツらが何とかする」
私の腕を掴んだままキャプテンが指差すのはウソップ君とロビンさんだ。
「お前がやれよ七武海!」
「…いや。今おれとコイツは戦えねェ」
ウソップ君の鋭いツッコみにキャプテンは冷静にそう言った。
私たちの能力は体力を削るし、ドフラミンゴと対峙した時のためにとっておきたいキャプテンの気持ちも分かる。
けれど、私としては少し申し訳ない。
「来たぞ」
キャプテンは気にせずそう呟くと、ウソップ君とロビンさんが構えた。
「“必殺緑星”!」
狙撃手であるウソップ君の命中率はものすごくいい。
あんなパチンコのような攻撃でいつも不思議な現象を起こすのだから。
しかも、これで悪魔の実の能力者でないのだから本当にすごいと思う。
私たちが対峙していた闘魚の反対側の海面からも現れてさすがの私も構えそうになったが、再びキャプテンの腕によって阻止された。
「逆からも!」
「2匹同時に来た!潰される!!」
「“
今度はロビンさんの能力だ。
両サイドで麦わら一味の二人が対峙すると同時に闘魚を始末する。
「“ドクロ爆発草”!」
「“スパンク”!」
海面に戻っていった闘魚を見送り、私は思わず拍手をした。
隣でキャプテンも満足そうに口角を上げる。
「上出来じゃねェか」
「バカいえ!どんだけいると思ってんだ!群れだぞ!」
「走り抜けよう!戦ってもキリがねェ!」
次から次へと現れる闘魚の群れに私たちは揃って駆け出す。
走っていても、ここは橋の上だし逃げられるのも限界がある。
ウソップ君とロビンさんが走りながらも対応してくれているが、これでは危ない。
今度こそ私も参戦しようとしたら、またキャプテンの手によって邪魔された。
「キャプテン!」
「お前はいいっつってんだろ!鼻屋!シーザーの錠と解け!コイツにも戦わせる!」
「何を?!」
「そしたらコイツ空飛んで逃げるぞ!」
「下手な真似は出来ねェさ…」
キャプテンが心臓を差し出して見せると、大人しくなる。
嫌な奴だが、ここで戦ってくれるなら本当に役に立ってくれそうだ。
何しろ実力はあるのだから。
「ぎゃああ!おれの心臓!」
ウソップ君がシーザーの手錠を鍵を取り出して、手錠を外すとキャプテンの方を見て喚きだした。
「てめェ碌な死に方しねェぞ!この天才科学者をコキ使うとは!」
「アンタのが碌な死に方しないわよ!」
「文句に反論してんなよ」
シーザーの攻撃で闘魚が海面に戻っていくと、ウソップ君が興奮した様子で口をあんぐりと開けた。
「おお!強力!さすが3億の犯罪者!」
「極悪非道のね」
「いいから走れ!駆け抜けるぞ!」
「だから何でお前たちは戦わないんだよ!」
走りながらもウソップ君がキャプテンと私に文句を言ってきた。
私だってさすがに少しは戦わないとと思っているのだが。
キャプテンは走りながら淡々と答えた。
「おれ達の能力は使うほどに体力を消耗する。帰り道こそ本領を出さなきゃならねェ!分かるか?!」
「っ!」
「少しでも力を温存しておくんだ!相手はドフラミンゴだぞ!!」
そうだ。キャプテンの言う通り、私たちの能力はボスのためにとっておく必要がある。
相手は巨大な力を持っている男なのだから。
私は言葉を詰まらせてキャプテンの背中を見つめた。
この日のために昔から準備をしてきたキャプテンをサポートするためにも、私も力を温存しておく必要がある。
いざその時が来た時に体力がなくなって足手まといになってしまったら、この離れて修行してきた時間ですら無駄になってしまうのだから。
「おい!やべェ!橋が壊れてる!向こう岸は霧でよく見えねェ!」
顔を上げれば橋が崩れているのが見え、私たちは仕方なく足を止めるしかなくなった。
正面の海面から闘魚が現れて、さすがのキャプテンも能力を展開しようと構えたのだが闘魚は私たちに襲いかかってくる前にアミに掛かりだした。
しかもよく見ればモリも刺さっている。
「ん??」
「何だァ?」
私とウソップ君で首を傾げ、シーザーは私たちの背後から来る闘魚の群れ相手に攻撃を繰り出している。
目の前のアミのかかった闘魚を4人で眺めていると、向こう岸の方から声が聞こえてきた。
どうやら闘魚をシチューにして食べるらしい…美味しくなさそうだが…。
正面に現れた闘魚を見送り、背後でシーザーを働かせ続けながら私たちは島へ辿り着くための方法を再度考えた。
さて、どうするか…。