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牢屋に入るとすぐにキャプテンに頭を下げた。

「ごめんなさい!私…」
「いいから泣くな馬鹿。お前の攻撃なんざお遊びみたいなもんだけどな…てめェ、その面だけはやめろ」

キャプテンが袖で涙を拭い取り、私の首の後ろにあった帽子を掴むと深々とかぶせられる。
泣き顔がダメだったらしい。
というか、私の攻撃を遊びとはなんだ。
確かにキャプテンと本気で組み手をしても勝てた試しがないが。

「麦わら屋、大丈夫か」
「お前らこそ大丈夫か?」
「私たちは大丈夫。ルフィ君は怪我ない?」

あれば能力を使おうかと思っていたがルフィ君は首を横に振り、しししっと笑った。

「トラ男にやられなくて良かったな」
「やられた方が良かったよ…」
「ナマエ。船長が仲間を殴るのって、結構つらいぞ。おれもチョッパーに手を出せなかったし」
「…そっか…」

ルフィ君がキャプテンが目を合わせて、笑うとキャプテンはため息をついた。
考えてみれば確かにそうか…。
まさかルフィ君に諭されるとは思わなかったが、さすがは船長だ。
船長に見えないぐらい自由奔放ではあるが、こういうところは本当に船長であることが伝わってくる。
あ、いや、船長だから自由奔放なのか?
キャプテンも結構自由だしなぁ…。

シーザーも近くで鎖に繋がれており、キャプテンとルフィ君がドフラミンゴとの関係性を問いかけているが、どうやらあの男はドフラミンゴとは無関係らしい。
どうも好きになれない能力だ。
人をペットにするなど最悪だ。

あ、でも、キャプテンのお座りとお手は少し可愛かった。
ハートの船に戻ったら絶対にみんなに教えてあげよう。
きっとみんなが揃いも揃って、鼻血を噴出すのだろう。
ハートの仲間はキャプテン大好きなのだから。

「なに、ニヤニヤしてんだよ。お前のその顔はよからぬことを考えてる時だ」
「なっ!キャプテン酷いですね!」
「ったく…うっとおしい首輪だな…。お前をペットにされんのは気分が悪ィ」

私の首元にある緑の首輪を掴みながらキャプテンが苛々と吐き捨てるように言った。
それは私も激しく頷ける。
私自身、ペットなどごめんだ。人間なのだから。さすがキャプテン…、優しいな…。

「てめェをペット扱いしていいのはおれだけでいい」

…優しさではない。この目は私を苛めるときの目と一緒だ。恐ろしい。

「シーザーふせ!!おい!聞こえねェのか!ふせ!!」

スピーカーから聞こえてきた声に私は溜息をついた。
アイツの能力が分からない限り、この状況はどうにもならない。
このままでは再び私はキャプテンと戦わせられることになるかもしれない。
それだけは二度とごめんだ。

ふせをし始めたシーザーを眺めて、キャプテンの方を見たらハッとした声になった。

「分かった…」
「え?」
「………」

シーザーから私の方に目線をやると、キャプテンは再び何かを考えるようにして口を閉ざした。
何か作戦を思いついたのだろうか。
シーザーがヒントなのかとシーザーを見つめ、私も考えるが何も分からない。

それでも見つめているとキャプテンが私の肩に片腕を乗せて、抱き寄せてきた。
ルフィ君もシーザーも居るのになぜこんな密着するのだと、恥ずかしくなり離れようとしたが耳元で「おれに抱きつけ」と命令されて素直にキャプテンの背中に両腕を回した。

幸いなことにルフィ君とシーザーは会話に夢中で私たちの方を見ていない。
キャプテンは私の耳元に唇を寄せると、囁くように言ってきた。

「アイツの能力は聞こえなきゃ効果はない」

その言葉にはっとした。
確かに、先ほどシーザーへ命令した時に一度目は効果がなかった。
その一度目の時、シーザーはルフィ君とキャプテンの会話に夢中でブリードの声が耳に入っていなかったのだ。

「読唇術出来るか?」

私は小さく頷いた。
完璧ではないが、出来ないことはない。
昔、キャプテンが必要になるかもしれないと私に教え込んだことがあったし、まさか必要になるときが来るとは思わなかったが。

キャプテンは私の後頭部に手を回し、結んであった髪の毛を解いて私の耳に触れた。

「耳栓すりゃ大丈夫だ。だが、シーザーを取り戻すタイミングまでは…従順な振りをしろ」
「アイアイ」

こうして私の耳から音は消えて、髪の毛で耳を隠される。
私から離れたキャプテンはルフィ君の元へ行き、シーザーとの会話に戻っていったが…読唇術では複数人の会話を掴むことはできない。
だが、肝心なのはブリードの口元だけだ。

私は緊張しながらも、バレないよう平静を装うために深呼吸をして、顔を上げた。




私たちが連れてこられたのは大きなホールのようなところだった。
なにやらショーを始めるとブリードが言っているっぽいが、それはきっと私たちがキャストなのだろう。
身振り手振りが激しく、なかなか読唇術も難しい。

「クソ人間はクソ人間らしく、殴り合え!」

ハッキリと分かったのは二文字。
クソ人間と殴り合え、だ。
チョッパー君は相変わらず可愛らしい服を着せられて手綱を引かれているし、シーザーも可愛い服は着せられていないが、犬のように鎖に繋がれている。

あの手を離した時がチャンスか。

それよりもどうしようか。
このままではキャプテンとルフィ君と殴り合いだ。
キャプテンとルフィ君の2人だけはいいかもしれないが、私がその2人と殴り合いとか即死間違いなし。
海賊船の船長だぞ?しかも2人とも億越えの賞金首よ?
あ、キャプテンは今は賞金首ではないけれども。

そんなことを考えながらブリードの口元をじっと観察して、なんとか言葉を読み取る。

「麦わら、トラファルガー、ミョウジ!殴り合え!クソ人間同士、能力なしで殴り合え!!」

キャプテンやルフィ君同様。
私も首輪を掴みながら苦しげな声を上げて、チラリとルフィ君を見ては血の気が引いた。
素早く私に拳を振り上げたのが見えて慌てて避けようとしたが、肩を殴られて私の体は簡単に吹っ飛んだ。
吹っ飛びながら歪む視界の中でキャプテンがルフィ君を蹴り飛ばして、こちらに向かってくるのが見えた。

ああ…キャプテンにまでぶん殴られたら死ぬ…。

壁に勢いよくぶつかり、衝撃で壁が崩れて土埃が舞い上がり、私の姿を見えなくしたところですぐに能力を使って診察をする。

あ、肩外れてる…肺は大丈夫だ…

誰かの気配にすぐ能力を解いて顔を上げた。
ガバッと押さえつけられて、その衝撃で瓦礫が大きく物音を立てて更に土埃を舞い上げる。
耳から耳栓を抜き取られて、顔を上げればキャプテンで、ホッと息をついた。

「肺は」
「大丈夫です」
「ここで気を失ってるフリしてろ」

そう言うと私のすぐ横の瓦礫を蹴り飛ばし、土埃の中から消えていった。

「ぺとととと!クソ人間の女は弱ェな!トラファルガーに追い討ちかけられて死んだか、ぺとととと!」

勝手に勘違いしてくれたらしい。
ブリードの興味はもうルフィ君とキャプテンの殴り合い。
確かにすごい戦いだが、私としては見たくない戦いだ。
ギリっと奥歯を噛み締めて、2人から視線を外してブリードを見る。
シーザーは掴まれたままだが…どうするか…。

私が何かいい方法はないかと考えている間にキャプテンとルフィ君の殴り合いは激しくなり、ブリードの足場を崩した。
いや、あれはキャプテンがルフィ君を誘導してわざと崩させたのだ。

そのおかげでブリードの手からシーザーが離れ、シーザーがこっそり逃げ出した。
これだ。今がチャンス。

私もシーザーを追って、気配を消しながら静かに階段を降りていった。





「さて、この潜水艦で…」
「逃げるなら一緒に逃げる?」
「んなー!ナマエ!お前が何でここに?!」

ルフィ君達の小型潜水艦に乗ろうとしているシーザーの鎖を掴んで、私は笑みを浮かべた。

「あんたは私と一緒にここでキャプテン達を待つの」
「ふざけんじゃねェ!!よし、取引をしよう。トラファルガーの命を助けてもらえるようにおれからジョーカーに言ってやる!だから見逃せ!」
「はいはい。静かにしてないとまたペット扱いされるよ」

私がそれで「じゃあ逃げて」と言うとでも言うのか。
この悪魔のような科学者とは半年近くも一緒に居たが、1ミリも情が移らなかったのは、極悪非道な男だからだろう。
キャプテンもそう言われることがあるけれど、本当の極悪非道というのはこういう男の事をいうのだと思う。
いや、そもそもキャプテンは極悪非道ではない。

「大体、てめェらは誰に喧嘩売ってんのか分かってんのかよ!海軍中将が父親だからってジョーカーには」
「ははは。海賊が海軍の父親を頼りにすると思う?それに先に喧嘩売ってきたのは向こう」
「はあ?」

キャプテンの幼少期に恩人を殺し、キャプテンを苦しめ続け、パンクハザードではキャプテンを殺せと命令した。
私は生かして連れて来い?喧嘩売ってるとしか思えない。

「ぶちのめさないと許せない。ドフラミンゴ」
「お前、ローと居すぎて感化されてんだろ…」
「それこそ光栄なことだわ」

それより脱臼した右肩が痛い。
私の能力は傷を塞いだりとかは出来るのに、脱臼を治すことは出来ないのだから不便だ。
整復してもらうにはキャプテンかチョッパー君に頼まなければ。

不意に背後から気配がして、すぐに振り返ったらキャプテンとルフィ君の姿が突然現れた。
どうやらキャプテンがあの場から抜け出すことに成功したらしい。

「あれ?!ナマエ?!なんでここに?!」
「ルフィ君、キャプテン!無事で良かった。シーザーは私が捕まえてます」
「ああ。良くやった。あと少し待てるか?」
「もちろんです」
「なら麦わら屋、さっさと礼をしに行くぞ」
「おう!行くぞトラ男!!」

右肩はバレないように痛みを笑顔で誤魔化して、私とシーザーはキャプテンたちを送り出した。
ズキリと肩が痛み、顔を顰めて息を吐きだす。

「お前怪我してんのか?」
「してない」
「…自分の能力で治せばいいだろ」
「…何でも直してたらキャプテンとイチャイチャ出来ないでしょ」
「なんつー女だ!」

冗談だが。
能力で治せないものだと知れば、私を人質にとろうとするかもしれない。
あくまでも冷静に、余裕を持っていなければ。







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