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夕食も終わって、そのままシャチと雑談をしていたらキャプテンが私の額に触れた。

「39.8。もう横になるぞ」
「うー、確かに体が少し怠いです」
「39.8?!お前、熱に強すぎだろ」

キャプテンの言葉にシャチが驚いて、他の仲間も驚いている。確かに普通だったらグッタリしててもおかしくはない。

「私ってば強くなったのね」
「馬鹿。虫毒による発熱の特徴だ。高熱のくせに倦怠感がそこまで強くでねェ。こんなに熱があるとは思わず、動き続け体力は削られて、気がついた時には42度越して死ぬ」
「え…そ、そうなんですか」

どうりで熱が高い割に体が動けるわけだ。
でも、高熱なのには変わりはない。大人しくキャプテンの言う事を聞いておこう。

「キャプテン、シャワー浴びたら女部屋ですよ!ナマエ!ちゃんとキャプテン連れて来いよ!」
「アイアイ!」

シャチの言葉にしっかり頷いて、私はキャプテンに連れられて食堂を後にした。

船長室へ入ると、点滴を接続してもらって私はベッドに横になるとキャプテンはシャワーに行った。
私もシャワーを浴びたいと言ったが、却下された。
まだ発熱1日目だから仕方がない。

諦めて横になりながら、一人でワクワクした心のまま笑みが溢れる。

みんなで寝るなんて初めてだ。楽しみ過ぎる。
寂しさなんて絶対に感じないだろうし、みんなでどんな話しをするんだろう。
みんなもキャプテンと一緒に寝られる事を楽しみにしているし、私も楽しみだ。そういう場合でもキャプテンの隣は私になるんだろうか。たまにはイッカクの隣で寝たいな。
それにしても、先程の様子からキャプテンの隣で眠る争奪戦が始まりそうだ。誰が隣に来るんだろう。

「…楽しそうだな」
「そりゃあもう楽しみですよ」

キャプテンが浴室から出て、開口一番に私の顔を見て嫌そうな顔をした。
そんなに嫌なのだろうか。

「キャプテンって他人が居たら眠れない人ですか?」
「ああ」
「私居ても寝てるじゃないですか」
「お前は違うだろ」
「どう違うんです?」
「じゃあ、お前はシャチの横で寝るのとおれの横で寝るの同じっつーのか」
「それは…」

確かに違う。恋人の隣で寝る感覚と仲間と寝る感覚が同じなわけない。あー、そうか。

「アイツらが居ようとお前を抱きしめて寝るからな」
「ええ?!」
「当たり前だろ。てめェはおれの抱き枕なんだからな」

抱き枕扱いっ!酷いけど、少し嬉しい。まるで私が居ると安眠出来ると言われているようで。

点滴が全て落とし終わってから、針を抜いて止血するためにキャプテンがガーゼでその部分を押さえた。
止血のために能力を使おうとしてその手を掴まれる。

「今は能力使うな」
「あ、はい」

確かに高熱の時に無駄な体力消費はよろしくない。下手したらこんな小さな止血でも意識を失うかもしれない。

止血を確認した後はキャプテンが私の額に触れた。

「39.5だな」
「高いですね」
「症状は」
「関節痛と少し頭痛がある程度です」
「呼吸苦はねェな」
「はい」

私が頷くと、キャプテンが私の頬に手を添えて口付けを始めた。
啄むようなキスが、角度を変えて深いキスに変わっていく。舌を絡めとられて、キャプテンの髭が私の顔に当たるくらい激しく求められた。

暫く口内を荒らされて、キャプテンまでも呼吸が乱れている。

「はぁ、はぁ…キャプテン…」
「…まだいけるか」
「は、い…んんっ」

私が頷くとまた塞がれる。
キャプテンの服を握りしめて、混ざり合った唾液を飲み込みながらキャプテンの舌と絡まり合った。

最後に唇を舐められてゆっくりと離れていくキャプテン。
お互いに乱れた呼吸が厭らしく見える。キャプテンの私を求めるようなこんなキスは好きだ。キャプテンとする事は全部好きなんだけども。

「部屋行きましょうか」
「本気なのか?」
「え、逆にキャプテンは冗談のつもりだったんですか?」

顔を顰めて嫌そうにしているキャプテンににじり寄った。私はキャプテンを連れて行くという任務がある。全ては私にかかっている。きっと。

「たまにはいいじゃないですかぁー」
「…」
「ちゃんと抱き枕になりますから」
「…なら、行くか」

ベッドから起き上がると、キャプテンと部屋を出て行った。







「うわー!布団ぎっちり!!」

女部屋の床には布団が敷き詰められており、私のハンモックも撤去されていた。
不寝番と操舵室にいるベポとジャンバールさん以外はみんな揃ってるらしい。
シャチが嬉しそうに布団を叩いた。

「キャプテンたちこっちですよー!」
「今夜は寝転がりながら今までの航海の話でも語り合いましょー!」

壁側に私は誘導され、私の隣にキャプテンでその隣にシャチだ。ジャンケンで決めたらしい。
布団の上に座ってる人や寝転がりながら肘を立てて話している人とみんなそれぞれリラックスした格好で話していた。
私は横になりながら聞いていて、キャプテンが胡座をかいて座りながら話を聞いていた。

話しはとても面白くってまだまだ聞きたかったのに、温かい布団と船の揺れが眠気を誘って、高熱だという事も重なりすぐに意識を手放した。



どのくらい寝たのか分からないけど、関節痛と頭痛で目が覚めた。
聞こえてきた大きなイビキで、みんなで寝ているのを思い出して思わず笑みが溢れる。みんな一緒に居るというのが安心感を生んで、悪夢を見ないで済んだのだろうか。

本当に私を抱き枕かのように抱きしめながら寝ているキャプテン。キャプテンの腕枕に、反対の手は私の頭を包み込むように抱きしめられている。

ズキズキ痛む頭に眠れそうもない。
キャプテンの寝顔を見ようと少し体を離そうと、ゆっくりと頭を動かすとキャプテンの腕に力が入った。

「頭痛ェか」
「はい…熱、上がってます?」
「ああ。水分飲めるか?」

腕が離れて、私は上体を起き上がらせると頭痛は酷くなり顔を顰めた。

「…大丈夫か」
「っ…熱って、意外と、しんどいですね…」
「当たり前だ。今水持ってくる」
「あ、キャプテン、おれ持ってくる」

キャプテンの隣からシャチの声が聞こえてきて、薄暗い部屋の灯りでシャチの顔が薄っすらと見える。
立ち上がって、頭をボリボリとかきながら私の方を心配そうに見てきた。

「シャチ…ごめん、起こしちゃった?」
「気にすんなよ。水取って来ますよ」
「ああ。頼む」

シャチの隣に寝ていたカイ君も起き上がった。

「冷たいタオル持ってきますか?氷枕も。頭冷やします?」
「ナマエ、寒気は?」
「ない、です」
「カイ、2つとも持ってこい」
「アイアイ!」
「カイ君ありがとう」

どうしよう。至れり尽くせりで看護される側に回ると戸惑いしかない。何だか悪い気もする。

「はぁ…」
「何のため息だよ」
「不甲斐ないなぁって思いまして」
「弱気だな」
「体が弱ると心も弱りますからね」

私が膝を抱えて顔を隠すと頭の上にキャプテンの肘が置かれた。人が弱ってる時に肘おきにするとはなんつー医者だ。

「弱っていいんじゃねェか」
「へ?」
「頼ればいい。おれと仲間に」

ああ、本当にこの人が船長で良かった。そして、私の乗った海賊船がここで良かった。ハートの仲間がこの人を慕う気持ちも分かる。今更だけど、それを実感した。

シャチが持ってきてくれた水を飲んで、カイ君が用意した氷枕に頭を置いて、キャプテンがギュッと絞った冷たいタオルを額に乗せてくれた。

たまには弱るのもいいかもしれない。
その後も他の仲間も何人か「大丈夫か?」「眠れるか?」とか声をかけてくれて、心配させて申し訳なさ半分と、こんだけ心配してくれていると嬉しさ半分。





3日後にキャプテンの言う通り、熱は下がって体が軽くなった。しかもタイミングよく小さな島を発見して、上陸することになった。カームベルトの上だし、地図にも乗っていない。

先発隊数名とキャプテンで島を探索してみたがどうやら無人島のようだ。危険もなく、果物があちらこちらに実っている。

「とりあえずこの島を探索しながら滞在する。今日はそれぞれ好きに過ごせ。上陸もしていい」

宝探しに出かけていく仲間を見送りながら、私は薬草探しに出かけるためにリュックと刀を装着して上陸した。

「ナマエ、おれも行く。少し話がある」

ペンギンさんに何か言ってからキャプテンが船を降りてきて、私の前に立った。

「…少し長い話しになる。リュックは置いて、武器だけでいい」
「?薬草採取もついでにしたいのですが」
「明日でいい。行くぞ」

私からリュックを奪うと船に放り投げられ、キャプテンは私の背中を押して森の中へ入っていく。

「ちょ、あの、キャプテン?」
「話しなら腰を落ち着けられるところまで待て」
「…」

何だろうか。
いつになく真剣なキャプテンの声に口を閉じたが、一体何の話なのだろう。

だいぶ進んでいくと、小さな島なだけに反対側の浜辺に辿り着いたらしい。
砂浜に座ったキャプテンの隣に腰を下ろして、一緒に目の前の大きな海原を眺めた。
カモメの鳴き声と、波の音しか聞こえてこないこの空間は、まるで私たち2人だけの世界にいるようだ。

「…以前、話そうとしたおれの既往歴のこと…お前に言っておこうと思う」
「…はい…」
「シャボンディ諸島でとある情報を掴んだ。だから今後、おれがある目的の為に動く事になるが…お前にはおれの過去のことを知っておいて欲しい。全てを話すから」

キャプテンは海の方を見ながら言い切ると、私は大きく頷いた。
そして、キャプテンの過去の話しを聞く為に集中して聞く事にした。





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