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女ヶ島、アマゾン・リリー。
王下七武海の海賊女帝、ボア・ハンコックの島。その名の通り、女性しかいない島に特例で停泊することとなった。
仕切りを作られ、その仕切りの奥は女性しか立ち入ることを許されなかった。
つまり、許可されたのは私とイッカクだけだ。
そして問題となったのがハンコックさんが私を呼び出しているにも関わらず、キャプテンが仕切りの向こうに行く許可を出さなかった。

どんな島かも分かってないのに、クルー1人で行かせるわけには行かない。と、キャプテンはハンコックさんを睨みながら言っていた。
しかしハンコックさんも負けていなかった。
それならば物資や食料をを与えないと。さすがに私は口出した。

「キャプテン、別に危害を加えそうな感じでもないですし…行きますよ私」
「…なら分かった。その代わり条件がある。小型電伝虫を通話中にしたまま行かせる。途切れた瞬間に乗り込みに行く」
「それでよい!では、ナマエ行くぞ!」

キャプテンが私の腕に電伝虫を巻くと、鼻を摘ままれた。

「ふぎゃ」
「てめェ、一応ここは敵地でもあるんだからな。その腑抜けた面でへらへらしてんなよ」
「はい」

ハンコックさんやその妹さんたち、他にも女の戦士たちの姿。
街へたどり着いても見えるのは女性。子どもも女の子ばかり。

「本当に女性ばかりですね」
「ナマエとか言ったな」
「あ、はい」

ハンコックさんは身長が高いため、私は少し見上げるのだがこの身長差にはすごく親近感が。そういえばキャプテンと並んでた時に2人はあまり変わらない身長だった。
だからか。キャプテンとの距離に似ているんだ。

「あの男と結婚しているのか?」
「けっっっ!!!!してません!!」
「してない?その割には距離が近くなかったか?だったらどういう関係なのか教えるがいい」
「…」

あまり堂々と恋人と発言をしたこともない為、いざこうして言わなきゃならない状態になるとどうしたらいいのか分からなくなる。
というか、先程から電伝虫は通話中だからキャプテンももちろん聞いているわけで…

『何黙ってんだよ』

低い声が私の腕に巻かれた電伝虫から発せられた。

「…俗に言う、恋人同士というやつです」
「おお!どうしたら恋人同士というものになれるのか教えるがいい!わらわもルフィと恋人同士になりたい!」
「ルフィ君と?!」

思わず目を見開いてハンコックさんのその美しい顔を見つめた。
いや、確かにルフィ君は魅力的かもしれないけど、よりによって恋やら愛やらと無縁な男か。果てしなく道のりは険しそうだ。

「そなたに聞きたいのはどうしたら恋人とやらに…いや、男女の中とはどういうものをいう」
「えーっと…」

いざ説明されろと言われるとどう説明すればいいのか分からなくなる。
私が言葉に詰まっていると、ハンコックさんは目を輝かせた。

「わらわはルフィのことを考えるともう食事も喉を通らず…」
「…ルフィ君、超絶幸せな男だね…」

世界一の絶世の美女にここまで想われて、その証拠に電伝虫からシャチたちの「麦わらいいなぁ…」とか羨ましがる声が絶え間なく聞こえてくる。
というか全員で聞いていたのか。キャプテンだけじゃなかったのか。
ご飯も食べられない程の恋煩い。私の場合は眠れなかったぐらいか…。

『キャプテン!麦わら起きました!!暴れてます!!』
『分かった、今行く。おい、ナマエ戻ってこい』

「はい!」
「なに?!ルフィが起きた?!わらわも準備をしてすぐに向かう!」

ハンコックさんとの恋バナは終了し、私は元来た道に戻って行った。





森から叫び声と次々と木がなぎ倒されているのが見える。そして、ハートのクルーが慌てて止めようと声かけているのが聞こえてきた。
私もそっちに向かおうとして、視界が変わった。

「わっ、キャプテン」
「お前は行くな。吹っ飛ばされるぞ」
「でもルフィ君の傷が開いたら危険ですよ!」

キャプテンの片腕が私の首元に巻かれているため、退かそうとその腕を掴んだが逆に力込められた。

「うぐ、苦しいです」
「アレを放っておいたらどうなるんじゃ」
「単純は話し…傷口がまた開いたら今度は死ぬかもな」

ジンベエさんも居たのか。
キャプテンの返答にため息をつき、ジンベエさんが私の方を見た。

「わしが行く」
「でもジンベエさんもけが人なんですよ」
「わしはもう大丈夫じゃ。手厚い看護を感謝する」

頭を下げられて、反射的に頭を下げるとジンベエさんはさっさと森の奥へ行ってしまった。

「お前は少し寝ろ」
「寝れませんよ、重症けが人が2人も森の中へ行ったというのに」
「ならせめてここで大人しく休んでろ。頂上戦争と麦わらのオペから動き通しで、いくら体を鍛えたといってもこんだけ寝ずに働いてたら倒れるぞ」
「そんなやわじゃありません」
「やわだから言ってんだよ。それともこのまま落としてやろうか?」

首に回ったキャプテンの腕に力が入り、私の首が絞まった。いや、マジで落とされる。

「分かりましたっ、ぐう…きゃぷ、てん」

首に巻かれていた腕から解放され、ゴホゴホと咳き込みながら少しキャプテンから体を離した。
恐ろしい人だ。本当に落とす気だったらしい。

私は大人しく自分の膝を抱えて丸くなっていると、ふと背中が暖かくなって包み込まれる感覚になった。
顔を上げてみれば私のいた場所に小石が落ちていて、自分は座っているキャプテンの足の間に移動していた。

「…ナマエ」
「何ですか」
「冗談抜きに、本当に少し休め」
「…」

キャプテンの右手が私の頭を撫でて、左腕が腹部に回されると安心感からか急激に眠気が襲ってきた。
ああ、確かに自分は疲れていたのかもしれない。

そういえばご飯も食べてないし、水分とってないな。
顔色悪くなってたのかな。

色々と考えていたが遠のく意識の中、戦争の恐怖を思い出して周りに誰もいない事を確認すると体を反転させてキャプテンと向き合った。

「…ちょっと抱きついてもいいですか」
「ああ。来いよ」

そのまま抱きついて背中に両手を回すと、キャプテンの手が私の背中を一定のリズムでさすって。
すぐに意識を手放した。









「あ、キャプテン。やっとナマエ寝ました?」
「ああ」
「シャチとイルカから聞きましたけど、キャプテン寝たあとすぐに麦わら達の体拭いたりとか世話してたみたいですね」

おれの腕の中で熟睡しているナマエを覗き込んで、ペンギンが言うと、ぞろぞろとクルーたちもやってきた。

「あー、やっと寝たんすね」
「いつ休んでくれるかと思ってたけど、まさか海賊女帝に麦わらとの恋バナのために連れてかれるとは思わなかったしなあ」
「飲まず食わずの寝ずだったもんな」
「まあ、ナマエにしたら始めての大掛かりな戦闘…というか戦場だったしな…ショックもあっただろうな」
「にしても、キャプテンに甘えるようにして眠ってるのも珍しいな」
「羨ましいな…」

おれに抱きついたまま眠っているナマエの姿を眺めながら、次々とクルー達が感想を述べていったが。

恐らく戦場もそうだが、麦わらのオペやジンベエのオペもなかなかハードだったし、その全てが精神的に興奮状態にさせて、眠気もなかったんだろう。
…飲まず食わずか…。
しばらく休ませたら飲み物だけでも口にさせないとまずいな。

おれがナマエを抱え直したところで、望遠鏡を片手に海を見ていたペンギンが興奮したように大声をあげた。

「見ろ!大型の海王類だ!」
「何やってんだ?!喧嘩か?!!」

シャチも続いて興奮したように声を上げた。
確かに沖の方で叫ぶような鳴き声と、高く水しぶきが上がったのが見てた。

その後に大きな海王類がぷかぷかと浮いているのを見て、他のクルー達も騒ぎ出した。

「死んだぞ!何かにやられたんだ!」
「はあ?あんなデケェのが?!」
「相手の生物は見えなかったな」
「恐ろしい海だ…」

ここは大型の海王類が数多く住みついているカームベルトだしな。
そんなことを思いながら海を眺めていれば人影が海から上がってくるのが見えた。

「おお、君たちか。シャボンディ諸島で会ったな」

岩崖を登りながら海水まみれの冥王レイリー。
泳いできたと言っている冥王にペンギンが驚きの声を上げている。…本当に化け物だな。

「ルフィ君がこの島に居ると推測したんだが」
「ここに居る」
「ん?…ははは。いやー、女か…ふむふむ。ルフィ君といい、君といい、女の力というのは素晴らしいものだな」

何だか腹の立つ言い方だが、何を言い返すにもおれの腕に抱いているのも女。
言い返すにも言葉が見つからない。

「…」
「ん?いや、気を悪くしないでくれ。とても大切なことだ」
「いや…ベポ、そろそろ島を出るぞ」
「アイアイ!」

おれがそう言いながらナマエをベポに託すと、麦わら帽子を冥王に手渡した。

「麦わらはジンベエと森にいる。2週間は安静にした方がいい」
「おや。もう行くのかい?」
「一応、麦わらとは敵同士なんでね」

クルー達が船に乗り込んだのを確認すると、ベポから再びナマエを受け取った。

「潜水しろ」
「アイアイ!キャプテン!!みんな出航するよー!!」

揺れる船の中、クルー達が女人国を出たことに対してぐちぐちと話していた。

「もったいねぇなあ」
「ナマエだけ入ったんだよなあ。いいなあ」

そんな言葉を無視しながら、シャボンディ諸島方面に戻るよう伝え、船長室へナマエを連れてきた。
ベッドに寝かせて、その頬に触れながら先ほどの出来事を思い返して口角を上げた。

「冥王が何をするか…“D”はまた必ず嵐を呼ぶ…」

1人で呟いた言葉は誰にも聞かれず、おれは静かに笑った。





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