7




船から連絡があったのは1週間後。
その間はひたすら海賊狩りを狩っていた。夜は夜で毎日抱かれ、この1週間は体を駆使しまくった。そのおかげかすっかりと筋力と体力がついた気がする。

ちなみに覇気に関してはそこまで私の身体能力を上げることは出来なかった。
今後も戦闘を繰り返していく中で習得していくと、キャプテンには言われたけど本当に習得できるのかも不安だ。
難しいし、そんな簡単に身につくものでもない。戦闘経験も増やしていかなければ。

能力は自力でできる攻撃は血管を破裂させる技で。キャプテンのROOM内だとインジェクションショットだけが使えた。なんて不便な能力だ。シャンブルズ使えるようになれば便利だし、メスとかも…メスを持てるのは医者だけってことか。チッ。

2人で久しぶりの船に戻り、食堂では戦争の中継が流れていて全員が集合して見ていた。
シャボンディ諸島で上映されている映像電伝虫の映像をクルーの数人がこちらに送っている状態だ。

昨日の夜にこの戦争についてキャプテンから教えてもらい、ルフィ君のことを思うと胸が苦しくなった。
兄弟がどんなに大切なものかは私だってわかる。妹を助けるために私だってどんなところでも行きたいし、何が何でも助けたいと思う。

「麦わら…スゲェな…」
「七武海も勢揃い…この戦争やべェな…」

クルー達の唖然とする声が聞こえてくる。
キャプテンは壁にもたれ掛りながら眺めてるけど、ずっと何かを考えているようだ。
私も映像に集中するけど、血だらけの戦場を見ていると顔を背けたくなる。
きっとあの海軍の中に父親も居て、下手したら妹も海兵となっていたら居るかもしれない。
鼓動を速めながら食い入る様に映像を眺める。









海軍の策略なのか、白ひげ海賊団の仲間割れなのか…真意は分からないけど映像は突然途切れた。
途切れた映像をざわざわと仲間たちが意見を言い合っている。
そんな中、ずっと黙っていたキャプテンが静かに口を開いた。

「シャチ、島に居る仲間を呼び寄せろ。ベポ、全員揃ったら船を出せ」
「アイアイ!」
「ナマエ、お前はおれと一緒にオペ室の準備だ」
「え、あ、はい!」

突然の指名に驚きながらも、食堂を後にするキャプテンの後ろを追いかけた。
何も言わずにオペ室に入り、器具の準備をし出したキャプテンに私は問いかけた。

「あの、キャプテン。誰をオペするんですか」
「麦わら屋」
「ルフィ君を?!」
「お前は、手の空いているクルー全員の血液を採ってこい。輸血が大量に必要になるかもしれねェ」

あの現場に行くのだろうか。
ルフィ君を助けてくれるのは嬉しいけど、何を考えているのだろうか。ルフィ君とは敵同士で…私の命を助けてはくれたけど、そんな単純な理由でキャプテンがわざわざ危険な戦争現場に行くとは思えない。

まだ聞きたいことは山ほどあったが、キャプテンの有無を言わさずの言い方に、すぐに空の輸血バックと採血針を準備し、オペ室を後にした。
食堂で集まっていたクルー数名に声をかけ、ルフィ君の血液型が分からないからとりあえず全種類の血液を協力してもらった。
多少医療行為のできるシャチとイルカにも協力してもらって、ひたすら血液をかき集める。

食堂にキャプテンが入ってくると、集まってきた血液バッグを見て頷いた。

「そんくらいでとりあえずはいい。全員聞け!これから頂上戦争のど真ん中に浮上する!戦闘する気はねェが、一応覚悟はしておけ!目的は麦わら屋の回収だ!!」

おー!っと気合の入った仲間の声を聞きながら私は手招きされて、血液バッグを抱えながらキャプテンの元へ駆け寄った。

「お前はおれの傍に居ろ。あと、絶対に守ってもらいてェ約束がある。いや、約束というより命令だな」
「はい」
「麦わら屋に治癒能力は一切使うな」
「…どうしてですか」
「恐らくかなりの重症になっている。それこそ内臓もあちこちやられているだろう。そこでお前の能力を使えばお前は間違いなく死ぬ」

死ぬ…。確かに、ルフィ君の強靭な体であるから保っていられるかもしれないが、そのダメージを自分の体に全て移してしまえば…確実に死が待っているだろう。
私はルフィ君より体が強いという自信は皆無だ。

「少しでもダメだ。麦わら屋の今日受けた傷はあいつのもんだ。勝手に消すなよ」
「…はい。分かりました」
「オペする時はおれの能力を駆使してやることになる。お前は必ずおれのROOM内に居るように動け」
「分かりました」

戦闘じゃなく手術にもかなりの体力を消耗することは分かっている。それも、キャプテンのオペはキャプテンの能力を駆使して行うもので、体力の消耗も激しい。
それが重症であるならば尚更、相当な体力を消耗する。体力の消耗による疲労はオペのスピードも思考能力も衰えさせてしまい、スムーズなオペが行えなくなってしまうだろう。
私がキャプテンのROOM内に居れば、体力の消耗は激減し、それを防ぐことはできる。

「約束します。絶対にキャプテンの指示以外で能力は発動させません」
「…約束出来ねェならオペ室に入るなと言いてェとこだが、今回のオペはお前も助手として入ってもらいたい…その言葉、信じるからな」

甲板に向かうキャプテンの後ろを追いかけると、ジャンバールさんとベポも後ろからやってきた。
船が揺れて、浮上した瞬間にキャプテンがドアを開け放った。

「麦わら屋をこっちへ乗せろ!」

キャプテンが叫ぶと、私はルフィ君の姿を探して上空にピエロのような海賊に抱えられているのが見えた。
実際に戦場を目にすると、すごい有様で息がつまりそうになった。
おびただしい血の匂いに、火薬の匂い、呻き声に叫び声。これが戦争なのかと。

「こんな所で死なれてもつまらねェ!そいつをここから逃がす!一旦おれに預けろ!おれは医者だ!!」

キャプテンの声に、呆然とショックを受けていた私の意識が戻された。そう、今はショックを受けている場合ではない。目の前の目的、ルフィ君の回収に集中しなくては。

突然のハートの海賊団の登場に海軍が騒ぎ始めた。
キャプテンのことも知られてるし、シャボンディ諸島でルフィ君と共闘したと思われているキャプテンは、海軍にとっては敵でしかない。

あのピエロはなぜさっさと渡さないのか。
私はハラハラしながら黙って船の周りに気を張り詰めた。海軍が船に攻撃を仕掛けたり、乗り込まれたら強制的にこの戦争に参加してしまう。
それでは目的が変わってきてしまう。

再びピエロを見上げたが、またもたついている。
あの距離ではキャプテンのROOMも届かない。

「急げ!二人ともこっちへ乗せろ!」
「キャプテン!沖から海軍の船!!」

シャチの慌てた声が聞こえてきた。
こちらの船に向けて砲弾が飛んできて、大きく船が揺れて振り落とされないように手摺りを力強く握りしめた。
これで船がやられたら元も子もない。

私は再びピエロに視線を戻すと、どこからか飛んできた光のレーザーが、ピエロの顔面横スレスレを通り過ぎた。

「黄猿だ!」

キャプテンの焦った声に私はピエロに向かって大声を出した。

「死にたくなければさっさと2人を寄越しなさい!」
「よし!任せたぞ!馬の骨どもとクソアマ!」


誰がクソアマだ!!
ピエロが2人を投げ飛ばして、ベポの指示を受けたジャンバールさんがキャッチし「海へ潜るぞ!」とキャプテンの命令が下った。
急いでジャンバールさんとベポが、中に2人を連れて行こうとして駆け出したが、強い光を感じて足を止めてしまう。
頭上から光が見えて私も見上げると、海軍大将がこちらに攻撃をしようと構えている姿が見える。

「死の外科医、ロ〜…!」
「くそっ」

「そこまでだあああああ!!」

大きな声が戦場に響き渡り、全員が動きを止めた。
震えながら、涙を流しながら、懸命に声を張り上げる海兵の言葉は全員の手を止めさせた。
私も息を飲みながら、その姿を見たが、本当にただの海兵。そして、上司である大将に向かって両手を広げている。なんて勇気のある海兵。

大将がその勇気ある海兵に、燃え盛る腕を振り上げた瞬間にぶつかり合う衝撃。

「赤髪のシャンクス…」

息を飲んだ。
黄猿の攻撃も赤髪のクルーが止めている。

「出航!ナマエ、ボサッとしてねェで来い!」
「は、はい!」

ドアの方へ向かってキャプテンに腕を引っ張られるが、ふと後ろを振り向くとピエロがこっちに何かを投げてきた。

「キャプテン!四皇珍しいけど早く扉閉めて!」
「待て、何か飛んでくる」

私の視線に気が付いたキャプテンが飛んできた麦わら帽子を掴むと、私の腕を引いて扉を閉めた。
急いでオペ室に向かうキャプテンの後をついて、帽子をペンギンに預けたキャプテンが手袋をはめた。

「ナマエ。麦わら屋を助けるぞ」
「はい!!」
「ペンギンすぐに2人の血液型を調べろ。シャチは輸血の準備」
「キャプテン麻酔は?」

ペンギンさんの問い掛けに対して、私もキャプテンも見た。麻酔の準備も一応してあるからいつでもできる。

「こんな状態じゃ、麻酔なんて必要ねェ。無いとは思うが、もし途中で目覚めたらコイツの能力で麻酔をかける。それとナマエ、約束は覚えているな」
「大丈夫です」
「ならオペ始めるぞ。まずは心臓をくり抜いておく“メス”」

話しには聞いていたが実際に見ると、こっちの心臓が飛び出そうだ。

「この心臓はお前が持っていろ。止まったら電気ショックを直接心臓に与えるから教えろよ」
「はい」

その鼓動は弱まってはいるがしっかりとリズムを刻んでいる。すごい。こんなに体はボロボロなのに。

「オペにも集中しろよ」
「もちろんです」

本物のメスをキャプテンに渡し、オペが開始された。






-57-


prev
next


- ナノ -