頭を撫でられる感覚がして、重たい目を開けた。
キャプテンの刺青の入った手が私の後頭部をずっと撫でてくれている。私の頭を包み込むように抱きしめながら、額に口づけされると私は少し顔を上げた。
「おはようございます」
「久しぶりによく眠れた」
「良かったです。今日から訓練よろしくお願いします」
「ああ。昨日は2回で意識落ちるほど体力落ちたのが分かったからな」
それ基準で考えるのはどうかと思うが、確かに以前は能力を使えばもっと回数は多かった。今日からレベル上げを頑張るしかない。
「朝食と着替えを持ってくる。お前はここに居ろ」
「はい。すいません…って、キャプテン待ってください!」
ケアと能力を発動し、肩と背中にあった私が昨晩つけた傷を消し去った。
「ふう。これでよし」
「…消しやがったな」
「ええ?!怒るとこですか?!」
「ちっ」
不機嫌そうに顔を顰めながら立ち去っていくキャプテンの姿は、上半身裸でパンツとズボンを穿いただけだ。
いつも肌蹴ているか、上半身は裸であることが多いのだが、あの肉体美はいつ見てもドキリとしてしまう。キャプテンかっこいい。
朝食と私の下着とつなぎを持ってきてくれて、すぐに下着とつなぎを着た。
つなぎを着るのは久しぶりで、袖を通すと嬉しさに笑みが零れた。
昨日と同じ様に特別メニューの食事を平らげると、キャプテンもペロリと平らげた。
刀を腰に括り付け、少し伸びてきた髪の毛を後ろで縛るとぐぐっと伸びをする。
朝食を取りに行った時にベポのところに行ったのか、先ほど船は浮上した。
鬼哭を肩にかけたキャプテンが私の顎を掬って上を見上げると、触れるだけのキスをされる。
「今日の目標は100人切りを目指すぞ」
「アイアイ!キャプテン!」
少しスパルタな気がしたが仕方ない。
昨日散々デレだったのだからしばらくはきっとツンの方だと思うし。
「トロトロしてたらケツ蹴り上げるからな」
「は、はい」
シャボン玉がフワフワと地面から浮き上がって上空へ上がっていく。
この様子をじっくり見るのは2回目だ。
「ハートの海賊!トラファルガー・ローだな!」
キャプテンの顔のおかげでこうして海賊狩りから喧嘩を吹っかけられるのはもう何回目だろうか。
私が斬り込んでキャプテンは木に寄りかかってたり、悠長に先に歩き出していたりと、全く戦闘に参加しない。
「20人目っ、はぁ、はぁ…」
「適当に斬りかかるなよ。体力を持たせてェなら動きは最小限に」
「はい」
ここに来てやっとキャプテンは助言をくれた。
もしかして20人毎に助言をくれる仕組みか?
私が刀を鞘に納める時間もなく、次の海賊狩りがやってくる。
「トラファルガー・ローだな!」
「うぐぐー…ゴキブリホイホイならず…海賊狩りホイホイだ…」
「あ?てめェ、今なんつった」
「ひい!や、やめ、いだあ!!!」
お尻を蹴り飛ばされて私の体は海賊狩りの目の前へ吹っ飛ばされた。
恋人に対してする仕打ちか。これ。
刀を構えて、疲れ始めている腕を無理やり上げて振り上げた。
100人まで持つか不安になってきた。
「90人目!」
「ぐああ!」
やっと90人だ。辛すぎる。
すでに昼は余裕で過ぎていて、お腹も空いてきた。
刀を鞘に一度納めると地面に座り込んで、呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。
「残り10人か」
「はぁ、はぁ…」
「“ROOM”…。残りは能力を使って倒せ」
鬼だ。鬼畜だ。鬼畜キャプテンだ。
「いだだだだ!」
「さっさと賞金稼ぎを探しに行くぞ」
私の頬を摘まんで横に引き伸ばされた後に首根っこを掴まれて立たされた。
「おれのROOM内で戦えよ」
「もっと広げてくれません?」
「…このぐらいでいいか」
「もっともっともおーっと…嘘です。冗談ですよ。やだなぁ、そんな怖い顔しないでくださいよ」
「2億の首!トラファルガー・ローだな!」
もう少し休憩をしたかった。
私は刀を構えて思い出した。キャプテンの技を。
「インジェクション―ショット!」「は?!」
「ぎゃああ!!」
見事に命中して私は飛び跳ねて喜んだ。
思った通りだ。他にも試してみよう。
残ったもう一人の海賊狩りに向けて手を伸ばす。
「メス!」
「?」
「ダメか…なら、スキャン!」
「?」
「シャンブルズ!」
「?」
「じゃあ…次は…いったあ!」「真面目にやれ馬鹿」
何も鬼哭で頭を叩かなくてもいいじゃないか。
頭を摩って先ほどから首を傾げ続けてくれた海賊狩りを再びキャプテンの技を借りて倒すと、地面に座り込んだ。
「おれの技をパクりやがったな」
「はぁ、はぁ、ふー…私気が付いたんですよ。私の悪魔の実とキャプテンの悪魔の実って医療行為に近しい技だなって。だから同じ様に出来るかなって…一つだけでしたけど」
黙り込んだキャプテンを見上げてみると、何かを考えるように顎に手をかけて立っていた。
「医療行為…」
「キャプテン?」
「くくく、いや、だとしたら他にもおれは出来そうだな」
「ずるいですよ!私にも下さい!」
「てめェは能力以前に基礎体力をもっとつけろ」
ごもっともなことを言われて口を噤んだ。
「トラファルガー・ロー!2億はおれ達のもんだ!」
「ホイホイ…」
「また蹴り飛ばされてェのか」
「ひい!行きます行きます!」
100人目を無事に倒し終わると、キャプテンはフードをかぶった。
すでに時刻は18時を回っているし、ちょうど暗くなりつつある。良かった、朝までかからなくて。
キャプテンが町の方へ歩き出し、私も慌ててその後ろを追いかけた。
「はぁ、はぁ…お腹、空いた…」
「ホテルで食う」
「えー…外食しましょうよー」
「…何が食いてェんだ」
「うーん…あ!食べ歩きしましょう!」
少し嫌そうな顔はされたが、私の頭に肘を置いて隣を歩き始めた。
これはきっと付き合ってくれる感じだ。
「あ!わたあめ!」
「…」
「うまー!あ!お肉!」
「…」
「おいしー!あ!キャプテン、今度はあれあれ!」
「よく食うな」
私の言ったものを淡々とお金を出して購入してくれているキャプテンに甘えて食べまくった。私の食べる姿を見て楽しそうに笑うキャプテンにつられて、私も笑う。
お肉の刺さった串を私の手ごとぐいっと引っ張ったキャプテンが一口食べて、もぐもぐと食べて「確かに美味いな」と。かっこよすぎる、キャプテン。
「んー。お腹いっぱい」
「ならホテル行くか」
「行きましょう」
ホテルはほとんどの利用客が海賊だというホテルを利用することにしたが、内装は綺麗だし、ベッドも大きい。シャワー室も完備されている。しかも、能力者用に浴槽が浅く作られていて海賊ならではの部屋だ。
「浴槽につかれる!」
「一緒に入るか」
「いいですね!入りましょう!」
「…恥じるとこじゃねェのか」
「もちろんタオルで隠しますもん。それに、浴槽内ではキャプテンも力が抜けるから、貞操の危機もありませんし!」
船から連絡があるまではこのホテルを利用すると言われ、私はすぐに汚れと血で汚れたつなぎを脱いだ。
私のリュックにはキャプテンの服と私のつなぎの予備が入っている。
バスローブはホテルのを使って、洗濯して乾しておけば明日にはまた着れる。
「さあ、キャプテンさっさと脱いで下さい。あ、パンツもですよ」
「?もうヤんのか?」
「何を真顔で冗談言っちゃってるんですか。洗濯するからですよ」
もうって…こんなクタクタなのに、昨日もしたのにヤる気なのかこの人。
私は浴槽にお湯を溜めると、洗濯桶に脱いだ服と下着を全て入れて水を張った。
浅い浴槽はすぐにお湯が溜まり、バスタオルを体に巻くとゆっくりと浴槽に入った。
本当にお臍の下あたりまでのお湯でも、下半身をつけているからか脱力感に襲われて淵のところに掴まりながら温まる。
キャプテンは洗濯桶に服もパンツも放り投げると、隠すこともなく堂々と入ってきた。
「ちょっ!キャプテン、少しは恥じらいを持ってください!」
「今更だろ。何度も見てるし、何度も咥えてんじゃねェか」
「な、なんつー破廉恥なことを…」
「あー…足元だけでも力抜けんな…こっち来いよ」
重くなった体を動かして、キャプテンの足の間に移動すると背中をキャプテンの胸板にくっつけて体を預けた。
「今襲われたら2人して首とられますね」
「2億5000万か」
「ルフィ君ってあんな優しいのに3億なんだもんなぁ…悔しいもんですか?」
「全然」
「ええー、そういうもんですか」
「別に額はどうでもいい。それよりも、てめェの口からおれのよく知らねェ男の話しが出てくるのがイラつく」
おお!キャプテンが嫉妬してる。
私は嬉しくなってふふっと笑うと、浴槽の淵に両手を置いていたキャプテンの片手が私のお腹に回された。
後ろの首筋に吸い付かれて、肩に顎を乗せられた。
あー…この姿勢めちゃくちゃ幸せだなぁ。
「妬いてばかりいるのでたまには妬かせたいんです」
「…これは自論だが…。男は妬くと自分の女だと実感したくて、他の男には出来ねェことを恋人の女に求める」
「?例えばなんです?」
「セックス。今夜はおれが満足するまで抱いてやる」
「ひい!すいませんでした!今夜は勘弁してください!」