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夕食の時に仲間の顔を見たら思いのほかスッキリしたような顔に少し呆れた。
一部のテーブルでは「おれは2発やっちまった!」「腰振りすぎだろお前」とか思春期の男かというほど下ネタが大盛り上がりだった。
目の前のシャチもケラケラ笑いながら自慢してきた。

「お前も島で男買えばいいのによ」
「結構です」
「もったいねー。しばらく陸は拝めないのかもしんねーのに」
「私はやることが山ほどあるのでそんな暇ありません」

冷めた目で見て、あえて敬語で距離を保つように答えた。
とった薬草を調べて、調剤を試して、船長室の読んでない医学書もあるし、体力つくりもしないと。

「せめてシャボンディー諸島に到着する前には基礎体力と筋力も」
「真面目だなー」
「みんなと違って新参者なんでね」

今までたくさんの冒険をしてきた仲間と違い、私は島でのうのうと生きてきた一般人だ。
海賊狩りをしていたおかげで全くの戦闘初心者ではなかったが、それでも経験はみんなより全然足りない。
経験不足は自分の努力で補わないと。

「でもよ、息抜きのためにも遊びは必要だろ」
「うーん、まあ」
「おれが相手してやろっか?」
「どうしようかねぇ」
「おれは意外とテクニシャンだぞ!いってぇ!!」

「馬鹿なこと言ってねェでさっさと食え」

ペンギンとベポと一緒に後から来たキャプテンがシャチの後頭部を殴って私の横に座った。
シャチの隣にペンギンさんとベポが座って、クジラさんが三人の前に食事が乗ったプレートを出した。
涙目のシャチを「ざまあ」と馬鹿にしたら私の後頭部にも衝撃がきた。

「何すんですかキャプテン!」
「テメェも乗る気になってんじゃねェよ」
「今のどこが乗る気だったんですか!」

この人、内緒とはいえ恋人に取る態度じゃないぞ。脳震盪起こしたらどうすんだ。
後頭部を擦りながらキャプテンを見ると思いっきり睨まれた。
怖い。怖すぎる。最初も思ったけど、この船はこの人の恐怖政治で成り立ってるよ。半分ぐらいはそうだ、絶対。

「いだだだだ!」
「テメェ今何考えた」

頬を抓られると慌ててキャプテンの手を握った。
痛すぎる、本気で痛すぎる。
涙目になってキャプテンを見ると、解放されてすぐに頬を自分で擦った。

「キャプテン強いなぁって思っただけです」
「そうか。で、本当は?今言えば嘘ついたことは不問にしてやるよ」
「この船はキャプテンの恐怖政治で成り立ってるなぁって…思ってないですよ。やだなーははは」

怖くて横が見れなくなり、目の前にあるプレートの食事を慌てて口に含んだ。
もぐもぐしながら前を見ればシャチが「ざまあ」と呟いていた。
後で覚えてろよ…。

「へェ…恐怖政治、な」
「ははは、冗談ですよ」
「くくく、おれにそんな口きいて覚えてろよ」

「はい、バラバラ確定ー」とゲラゲラ私を指さしながらシャチが言って、私はシャチを睨むことしかできなかった。







決められた時間のお風呂にも入り、医務室に戻った私は自分の持ってきた薬学の本を開きながら取ってきた薬草を調べた。
載っていない薬草は分けて、後でキャプテンの部屋に持っていこう。
正体のわかった薬草はビンに入れてラベルを付けていく。

作業に没頭し、調べ上げたら時刻は23時過ぎ。
入浴後からずっとやって3時間以上も休まずやっていたらしい。
体を伸ばして、手を洗うと一度医務室のソファに倒れ込んだ。

あー…集中しすぎた…
残りは明日にしよう。

昨日の疲れも残っていて、ソファに沈み込んだ体はそのまま意識までも沈ませていった。







ゆらゆら動く感覚に、自分の大好きな匂いがして、ゆっくりと目を開けた。

「ソファで寝るな」
「すいません」

医務室のベッドにおろされると、その上にキャプテンが乗り上がった。
額に、頬にキスをされ、最後に唇に。
ちゅっとリップ音が三回、ふふっと笑って余裕こいていたらキャプテンの舌で唇をこじ開けられて目を見開いた。

「んんっ…ふ…はっ、んん…」

キャプテンの舌が私の口内を舌で撫でまわし、私の舌に絡みついてきた。
すぐにキャプテンの肩を両手で押すが、細い腕のどこにそんな力があるのかびくともしなかった。
酸素が足りないせいで、視界も朦朧としてきた。

下着とシャツごと胸の上までグイッと上げられ、胸が直接外気に触れた感覚に覚醒した。
キャプテンの肩に置いていた両手で胸を隠し、「んー!」と涙目で声を上げた。
漸く唇が離れて、乱れた呼吸のままキャプテンを睨んだ。

「何をするつもりですか」
「お前のいう通り恐怖政治で治めてやろうと思ってな」
「い、いや、あれは冗談で」
「生憎、おれは冗談通じねェタイプだ」

嘘つけ!と、喉まででかかってる言葉を飲み込んだ。
キャプテンに口で敵うとは思っていない。
頭がよくて、回転も速い。何を言っても言い返されるに決まってる。

「くくく、どうする?」
「…」

ぐっと手に力を入れて“ケア”と呟き、思いっきり能力を発動を発動させた。
光に怯んだキャプテンの手が少し緩んでその一瞬の隙にキャプテンの体を押し倒した。
一気に能力を放出したため、思ったより体力の消耗が激しく、せっかく整った呼吸が乱れた。

「はぁ、はぁ」
「やるじゃねェか」
「はぁ…」
「体力ねェな」
「きの、う、はぁ…昨日から、体力、使い、過ぎ、なんですよ」

肩で呼吸をしてキャプテンの上から退いて、服を直しながらベッドサイドに腰掛けた。
ギシッとベッドの軋む音がして、キャプテンも私の横に腰掛けた。

「次の島は海軍の駐屯地がある島だ」
「…はぁー…そうなんですか…」
「ミョウジ少将」

キャプテンの口から出てきた名前を聞いて思わず息を呑んだ。まさか…

「その少将が治めているらしいな、そこの駐屯地を」
「お父さんです…そっか…よりによってお父さんの駐屯地か…」
「会いてェか」

その言葉に驚いて、すぐにふふふっと笑った。
やっぱりキャプテンは優しい。
潜水艦であるこの船ならば、教えないで潜水してればやり切れるだろうに、わざわざ教えるなんて。

「いえ、会ったらきっと捕まえようとしますから」
「おれも行きゃいいだろ」
「キャプテンこそ狙われますよ。ハートの船長ですし、私より賞金額は遥かに上ですよ?」

私のせいで捕まったらそれこそ私は一生責めるし、生きていく自信もない。
きっと後悔や自責の念に苦しめられて、本当の生き地獄を過ごすことになる。

くいっと顎を持ち上げられると、いつものように自信に満ちた笑みを浮かべたキャプテンと目が合った。

「おれが捕まると思うか?」
「…お父さん、強いですよ」
「上等じゃねェか。新世界、いや、シャボンディーに着く前に将官クラスと戦えるぐらいになってねェと」

かっこよすぎる、うちのキャプテン。
思わず恍惚とした顔で「はふ…」と息を吐いた。

「キャプテン、めっちゃかっこいいです…一生ついていきます!」
「シャチみたいなこと言うなよ」

私の頭を軽く叩いて、立ち上がったキャプテンを見上げた。

「お前の剣術は父親からか」
「はい。私が小さいときから海兵にするためにたくさん訓練を強いられました。剣術もその一つですし、あの刀をくれたのも父です」
「ってことは、ミョウジ少将ってのは剣術使いか」
「二刀流の剣術使いですよ。能力者の海賊もたくさん捕まえてたみたいで、ただ、少将以上には上がりたくないって昇格を辞退してました」
「ってことは実力は少将以上ってこともあり得るな」

私が15ぐらいから島に帰ってこなくなったりしたから本当の実力は知らないけど、たまに来てくれた海兵さんはすごい人だと教えてくれた。
今の実力は分からないけど、私も手合せしてみたい気持ちもある。
勝てなくても、成長を見せてみたい。
…捕まったら元も子もないけど。

私がそんなことを考えてるとキャプテンが私の額を大きな手で押して、枕に押し付けた。

「早く寝ろ」
「はい、おやすみなさい。キャプテン」
「…一緒に寝るか?」
「寝ません。おやすみなさい」
「即答かよ。くく」

額にキスをされて私はそのまま枕へ頭を預けて、すぐに眠りにつくことができた。





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