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「すげー!ほんと草だらけ!」
「シャチ、あんまり素手で触っちゃだめだよ。毒草もあるかもしれないから」
「お、マジか」

嗅覚の鋭いベポは鼻を押さえていて、ナマエが「昨日みたいに外で待っていて」と伝えていた。
遺跡の中は確かにすごい量の薬草が所狭しというぐらいびっしりと咲き乱れていて、補充するのに最適だった。
ついてきたシャチに手袋を渡し、三人でバラけて採取することにした。

「いで!」
「あー、シャチ。それはとげが鋭いからここを持つの」
「オッケー」
「…」

「うわ!手袋濡れた!」
「ああ!それは実を持つと果汁が出ちゃうからここ掴むの!」
「…」

「ぎゃ!」
「それはそこ持つと蔦が絡んでくるの!生きてるんだから触っちゃダメ!」
「…」

「ひい!」
「シャチ!そっちは毒草だよ!もー、この薬草を傷口に擦り付けるから来て」
「お、痺れがとれた」
「…」

「ぎゃあ!」
「それはさっきも言った!とげがあるからここ持つんだってば!」
「…シャチ、お前もベポと外に居ろ」

手のかかるシャチが居ると採取に倍の時間がかかりそうだ。
「おっけ!!」と軽快に返事をするシャチの後頭部を殴って、再び採取に取り掛かった。
黙々と採取しているナマエの横顔を見て、昨日の出来事を思い出した。

ペンギンに手を出すな、仲間との線引きしろと言っておきながら自分がこの様じゃ、世話ねェな。
目覚めてから1週間、一緒に過ごしていてムクムクと広がった奇妙な気持ちにおれは戸惑った。
今まで女でこんなに一緒に本を読んだり、知識を共有することもなかったから新鮮なだけかと最初は思っていたが。

「私が相手しましょうか?」と、おどけて話すナマエに近寄ると自分でも驚くぐらい気持ちが高揚した。
顔を赤くしながら慌てるナマエの姿に、その唇に食い付いてしまいたいと。
ただ、その時は自制できた。
こいつは仲間だ。そもそも、そういうつもりで乗せたわけじゃねェ。と、思ってた。

あの日、こいつと二人で飲むまでは。



「最初から二人でやった方が良かったですね」
「全くだ。あいつが居ると倍の時間がかかる」

深い溜息をついたナマエにつられて、俺も深く溜息をついた。




昨日の酒場でおれは全く酔っちゃいなかったが、コイツは完全に酔っていたのが分かった。
なら、キスぐらいなら。と欲に忠実になったおれは酒で潤ってる唇に己の唇を寄せた。
そこで終わる予定だった。終わらなかったのはナマエがおれの首に両手を巻きつけ、力強く抱きしめたからだ。
まるで離さないとでもいうように力を込めるコイツに、おれの中の何かが弾け飛んだ。

もう我慢せずに酒場を後にすると足りないと言わんばかりにこいつの口内を犯した。
でも、求めれば求めるほどに止まらなくなり、キスの合間にかかるナマエの吐息に信じられねェぐらいに興奮した。

ベッドの上であいつの酔いがいきなり醒めやがって、拒否しだしたがもうおれは止まる気はなかった。
処女ではないがイったこともないとか訳わかんねェこと言い出したが、前の男が用は下手な奴だったわけだ。
それか、感度がわりぃのかと思ってたが、感度はいいし、イくことだって出来た。

挿れてみたら、自分自身で驚くぐらいの快感だった。
色んな女を抱いてきたが、奥まで挿れた瞬間に持ってかれそうになったのは初めてだった。
動けば動くほど、ガキみてェに夢中に腰を振ったし。あんな早い射精も、足りねェって思ったのも初めてで。
あんな強い快楽を得たら、もう他は抱けないな。抱くつもりもねェけど。
必死に快楽の波から逃げようともがいているあいつの姿は魅力的で、妖艶だった。
涙を流しなら善がってる姿をもっともっと見てェとか、貪欲に求めた。
体の相性なんざ考えたことはなかったが、ナマエとは完全に相性がいいといえる。
まさか意識を奪うまで抱くつもりもなかったが、不思議なほどナマエの寝顔を見てて穏やかな気持ちになっていた。
まあ、正直なとこまだヤり足りねェとは思ったが。

体の相性云々の前に、あのキスをした時点でおれの女にする覚悟をした。
運命なんて陳腐なもんを信じてるわけじゃないが、おれが生きるためにコラさんが食わしてくれたオペオペの実。
そのオペオペ実のために存在するようなケアケアの実を食べたナマエ。
惹き合うのは必然なような感じがした。






しゃがみ込んでいたナマエが立ち上がり、おれの方を見てリュックに袋詰めした薬草を入れた。

「終わりか」
「はい」

おれが採取した分も渡し、明かりを持つと外へ向かって並んで歩き出した。

「あ、キャプテン。そこに流れてる水は海水なんで入っちゃだめですよ」
「頼まれても入らねェよ」
「あはは、ですよね。いきなり水遊びなんてしませんよね」

笑顔を見せながら覗き込んでくるナマエの顔が可愛いとからしくねェことを思った。
自分が思ってたよりもコイツに夢中になってるらしい。

「おつかれ、キャプテン」
「山賊はこねェのか」
「さすがにキャプテンが居たら出てこれないと思うよ」

ベポが鬼哭を担ぎながら言うとおれは「つまらねェ」と呟いた。
気分のいい今なら気持ちよくバラバラにして遊んでやろうと思ったが。










船に戻るとペンギンとベポと今後の航路の予定を話しあった。

「ログはたまったからいつでも出れるよ」
「明日の朝一で出航する。次の島は」
「ここの島で情報を聞きましたけど、次の島はちょっと不安定な海域を通るみたいで長い航海になりそうですね」
「物資は?」
「かなり積んだよ!食糧もお酒もね!」

薬草を大量に採取できたし、医療品の補充も出来た。
この三日間でクルー達も色々な意味でストレス発散も出来ただろう。

「次の島は海軍の駐屯地もあるみたいですし、物資の調達も限られますね」
「ええー!」
「海軍、か…」
「噂ではミョウジ少将が居るとか…もしかしたらナマエの家族かもしれません」
「…」

確かにあいつの島の位置を考えたらあいつの父親の可能性が高い。
…あいつの父親、将官クラスだったのか。

「本人に伝えますか?」
「…そうだな」
「キャプテンから伝えます?」
「ああ」

ぶつかる可能性は大いにあるし、あいつの手配書でハートのクルーというのも向こうはすでに知っているはずだ。
航路も読まれている可能性もある。
連れて行かせる気はさらさらねェし、あいつを降ろす気もない。

ふと、ペンギンにじっと見られていることに気が付き、眉間に皺を寄せた。

「何だよ」
「まさか降ろそうなんて…」「考えてねェよ」

まあ、以前のおれなら少し考えたかもな。
絶対にめんどうなことは目に見えてるし、将官クラスとぶつかるとなると身構える必要もある。
それなりに海軍の数も多いだろう。

だが、いずれシャボンディー諸島に到達するんだったら、それまでに将官クラスとぶつかっててもいいかもな。

「キャプテンは絶対に降ろさないよ。だって二人はこ…」
「…」
「ん?…こ?」
「…」
「…」
「…」

ベポがハッとした顔をして口を押えながら俺を見た。
沈黙が流れるとおれは自然と溜息が出る。
まあ、そもそもおれは隠す気もねェし、ペンギンは口が堅いのも知ってる。

「…あいつをおれの女にした」

そう言うとペンギンが口をあんぐりと開けて固まった。
そんな反応も想定内だ。
何しろ牽制した本人が手を出したのだからな。

「欲しいと思ったら止まらなくなった」
「ってことはキャプテン無理やり…」
「馬鹿言ってんじゃねェ。向こうも合意の上だ」
「ならいいじゃないですかー!いやー!キャプテンに春が!!」
「そうなんだよー!ナマエも恥ずかしそうに、でもキャプテンの目を見るナマエは幸せそうだよ!」
「…」

嬉しそうに笑うペンギンにベポが同じように笑いかけた。
テンションの上がった二人に口角を上げて、一応ナマエの言っていたことも伝える。

「あいつは隠したがってる。だからこの話しはお前ら二人しか知らねェ」
「へ?何でですか」
「知るか。あいつの望みだ」
「恥ずかしがっちゃって可愛いですね!いやー、いつかはそうなるとは思いましたが」
「?」
「だって医者と看護師なんて大抵がくっつくじゃないですか。いやーベタな展開ですね」

あいつもそんなことを言っていたな。
惚けた表情で「いいなぁ」と呟いているペンギンを無視し、立ち上がると自室に戻る事にした。






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