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頭がガンガンする。
キャプテンと飲みに行って…あれ……
ゆっくり目を開けてガバッと布団を捲ると、裸の自分と隣りに裸のキャプテン。
キャプテンの裸にすぐに布団を戻して、私は血の気が引いた。

やってしまった。一夜の過ちだ。いや、過ちどころの騒ぎじゃない。
何が気持ちに蓋をするだ。
まさかの通じ合う前に、てか通じ合う以前に!体を重ねてどうすんだ!

…初めてあんなにこの行為に快感を感じた。
最後の方は何が何だか分からなくて…てか、キャプテン意外に体力あるな…。
そうじゃなくて、あんな連続して出来るなんて…精力剤でも飲んでたのか。
だからそうじゃなくて!どうすんのこれ!私クルーだよ?!
え、それともやっぱり本当は娼婦のつもりで乗せた?!実は?!え?じゃあなんで一昨日はからかわれた?!

体を起こしたまま混乱していると、隣でボーっとしたキャプテンが起き上がった。

「起きんのはえーな」
「あ、キャプテンおはようございます…ってそうじゃないですよ!」
「…」
「や、いや、違いますね。うん。なかったことにするんですよね。うんうん、そうですよね」
「なに一人芝居してんだ」

キャプテンに腕を引かれてそのままベッドに倒れると、私はキャプテンの刺青だらけの胸の上に体をのせた。

「あっすいません!」

退こうとするとキャプテンが腰を掴んでくる。
…裸のまま密着すると触れ合う部分が多すぎて、一気に顔を赤くした。

「すげェ顔真っ赤」
「キャプテン!そんなことよりですね!」
「なかったことにしねェよ」
「…?」

いや、全然理解できない。

「体の相性までイイとは思わなかったが」
「…?あ、えっと…体を提供すればいいんですか?」

やっぱり娼婦扱いになるのか。キャプテン用の娼婦かな。
そんなこと考えていたらいつも通りの頭に衝撃をうけて「いだあ!」と掠れた声で唸った。

「お前は確かにおれのクルーだし、おれはお前の船長だ」
「は、はい」
「…」
「…」

黙り込んだキャプテンに不安になってきた。
だが、この際もうこの気持ちを伝えてしまおう。
体だけの関係はもう無理だ。貪欲になってしまった私はキャプテンの心まで欲しくなってしまったんだから。

「キャプテン、私、キャプテンの事が好きなんです。だから」
「おれもだ」
「体だけなん…え?」
「…」

聞き間違えだったのか。私の妄想だったのか。
確認のために同じセリフを繰り返してみる。

「あの、私、キャプテンの事が好きなんです」
「知ってる。おれも…」
「…」
「…」

あれ?わざわざ同じセリフで繰り返したのにいつまでもキャプテンから言葉は発せられない。
じっと見つめたまま固まると、キャプテンが私のお尻を少し上にずらしてキスをされた。

「おれもお前が好きだ」
「キャプテン…」
「別に体の相性がいいか悪いかなんて関係ねェよ。そもそも昨日の酒場でお前が煽ってきたから抱くことにしただけで、抱くつもりはなかった」
「…」

信じられない。
昨日三回もした人のセリフか。抱くつもりなくて三回もしたのかこの人は。初めて行為で気絶したぞ。

そう思っていると頬を思いっきり引っ張られた。

「いでででで!」
「嘘じゃねェよ」
「何も言ってないじゃないですか!」
「だから顔に出てんだよ、お前は」

信じられない。だってそんな素振りなかったし、むしろからかったぐらいいだし。

「ナマエにその気がねェなら伝えるつもりもなかったが…、お前がキスを拒否しなかった時点でお前の気持ちが分かった」

どうしよう。幸せすぎる。鼻血でそう。

「…キャプテン…好きです…」

抱きしめて、抱きしめられて。
海に出て二週間で私は最愛の人を見つけてしまいました。









二人で船に戻る道。
少し前に歩いているキャプテンの背中を眺めながら私は、ハッと顔を上げた。

「キャプテン!でも、この関係はちょっと内密にしておきません?」
「あ?何でだよ」

歩みを止めて後ろを振り返ってくるキャプテンの顔は相変わらず凶悪だ。

「だって私は一応、新参者ですよ?!そんな奴がいきなりキャプテンとどうのこうのなんて」
「別に何もいわれねェよ」
「私が嫌なんです!医師と看護師がデキちゃうなんてべたな展開ですが」
「ベタか?」
「そこは置いといてですね!」
「置いとくのかよ」
「そうじゃなくてですね!約束できないならやっぱりなかったことにしておきましょう!」
「しねェっつってんだろ」
「気を使われますし。女として意識されないようにしろって言ったのはキャプテンですよ!それがいきなりキャプテンのお、お、女になるなんて」
「…あー…ペンギンにもおれが忠告したな。手を出すなって」
「そ、それなのに…まあいいんです。…それは。…それも置いておきましょう」
「くくく、また置いとくのかよ」
「とにかく!内緒ですよ!」
「おれに命令すんじゃねェ」
「そうなります?!なんでそうなります?!」
「くく、…分かってる」

口とお腹を抑えながら爆笑するのを堪えるように笑うキャプテンは、笑いが落ち着いてくると私の腰を撫でた。

「痛くねェのか」
「いや、その、そりゃ痛いですよ。だってあんなに連続…初めてですよ…しかも意識失うなんて…」
「おれだってあんなヤったのは初めてだ」

昨日の行為を思い出して顔を赤くしながら、キャプテンを睨んだ。

「しかも、全部中で…船に戻ったら飲まなきゃいけなくなったじゃないですか」
「おれも調合の仕方覚えたから今度からおれが調合してやるよ」

驚いて口をあんぐり開けてしまった。
あのめんどくさがりで、調剤が嫌いだからほとんどクルーに任せていると言っていたキャプテンが。

「これでいくらでも中に出せるな」

耳元で囁かれてすぐに距離を取った。

「ふ、船では絶対にしませんよ!」
「…」
「分かってるって言ってくださいよー!!」







船に戻って自分で作った避妊薬を口に入れて、水で流し込んだ。
信じられないが本当にキャプテンのこ、こ、こ、恋人になってしまったのだ。
いまだに信じられない。
体をつなげたのはこの腰の鈍い痛みが嫌でも実感させられた。いや、嫌ではないけど。

昨日、ベポと一緒に採取した薬草をビンにしまいながら時間を見るとまだ薬草を取りに行ける。
すぐに新しいつなぎに袖を通し、食堂に向かった。

「ベポ!あ!シャチも!」
「お、ナマエおはよう」

このメンバーならキャプテンも許可だしてくれそうだ。

「2人とも、今日は時間ある?」
「おれ大丈夫だよ!また昨日のとこ行くの?」
「そうだよ、ベポ」
「あー、お前がへばってキャプテンが速攻で迎えに行ったやつか。おれ達もすぐ追いかけたのにキャプテンってば自分だけ能力連続で使ってさっさと行っちゃうんだもんなぁ」

そうだったのか…知らなかった。
そして、そんな必死に助けに来てくれたことを嬉しくて、思わず笑みが零れる。

「んで、薬草取りに行きたいんだろ?」
「そうなんだよ。シャチも来てくれない?」
「あー、しょうがねーなー」
「ありがと!今度は明かり持っていくから大丈夫!ベポ、一緒にキャプテンに許可取りに行こう!」
「うん!」

ベポと隣を歩いて、シャチは明かり準備しとくと言って甲板で待ち合わせることにした。







ノックをしてベポと一緒に部屋に入ると、キャプテンはソファに横になりながら本を読んでいた。

「おはようございます、キャプテン」
「おはよーキャプテン」

本から視線を外さずに「ああ」とだけ返ってきて、私はさっそく本題に入る事にした。

「今日はシャチもメンバーに入れて昨日の遺跡に行こうと思います」
「…」
「ベポとシャチと私で、今度はちゃんと明かりを持っていきます」
「おれ、今度は戦うよ!」

ベポの言葉に胸がきゅーっとなり、思わず「ありがとう、ベポ。昨日はごめんね」と言いながらモフモフの手に頬を寄せた。

「あれ?ナマエ」
「ん?」
「キャプテンの匂いがナマエからすごくするよ」
「え!!」

思わず大きな声で驚いた。
こ、これは驚いた。そういえば白熊だし、人間より嗅覚がいいに決まってる。
どうしようか困って、ちらりとキャプテンを見るとキャプテンは溜息をついて立ち上がった。

「おれも行く」
「ええ?!」

いや、今、違う話をしてたけど…。

「やった!キャプテンと出かけるの久しぶりだな」
「ベポ、鬼哭」
「アイアイキャプテン!」
「…」

どうしよう、何も言わなくていいのかな。
先にドアを開けて出ようとするキャプテンの後ろに私とベポが続いて、キャプテンはドアの方を向きながらそのまま口を開いた。

「…ベポ。誰にも言うなよ」
「ナマエとのことだね!アイアイ!」

そう言うとドアを開けて外に出て行った。





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