08




海賊になって1週間が経った。
朝早く起きてランニングと筋トレをして、朝食を食べたら洗濯を手伝って。
午後はキャプテンの部屋で勉強をしたり、シャチと組手をしたりして、夜は死んだように医務室で寝ていた。
その中でも怪我をした人が私に声をかけてきて、私は能力を使ったりもしてて他の仲間とも仲良くなれたと思う。

ただ、やっぱりキャプテンの前は緊張する。
億越え賞金首だし…隈すごいし…すぐ睨みを利かせるし…。
私が何かへまをするとすごい力で手刀やらキャプテンの長い足で腰を蹴り飛ばされたりと、完全に女として扱っていない。
まあ、女扱いされても戸惑うが…。
でも、勉強している時に覗き込んできて色々と教えてくれるところは、かなり優しいと思う。

今も寝る前にキャプテンの部屋に来て、薬学の本を開きながらキャプテンのデスクで読んでいるが何も言わずキャプテンはキャプテンでベッドに横になりながら医学書を読んでいた。
部屋にはページをめくる音だけが聞こえ、私は集中できなくなった思考に諦めて本を閉じた。

「今日は終わりか?」
「あ、はい」
「明日には島に上陸する。さっさと寝とけ」
「了解です」

持っていた本を元に戻すと、キャプテンが本に視線を落としたまま話しかけてきた。

「この船には慣れたか」

まるで気遣うような言葉に私はつい顔が綻んだ。
厳しく怖いキャプテンのこういうギャップにこの一週間で何度やられたか。

「はい。怪我すると真っ先に来てくれるようになりましたし、楽しませてもらっちゃってます」
「そうか」
「次の島への上陸が楽しみです。シャチとベポが一緒に回ろうって誘ってくれたんです」
「良かったな」
「すぐに上陸するんですか?」
「いや、まずは情報収集とログを確認してから全員の上陸を考える」
「そうだったんですか…」

すぐにでも上陸できるのかと思っていたから少し残念だ。
くくっと笑われて、ナマエは顔を上げた。

「何ですか」
「お前すぐに顔に出るな」

片手で口元を抑えながら楽しそうに笑うキャプテンの姿を見た瞬間に心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
いつも見ていた笑みは意地悪そうに口角を上げるだけだったり、ニヤリと笑うだけだったのに。
顔は自然と熱くなり、誤魔化すようにキャプテンを睨んだ。

「では寝ますので、おやすみなさい」
「ああ」

ドアを閉めて早歩きで隣の医務室に戻ると、その場でズルズルと床に座り込んだ。
かっこよすぎるその姿にドキドキするこの心臓。

キャプテン…反則ですよ、その笑い方。その態度。
モテる意味が分かる。本当に。

たったの一週間で落とされるとは思わなかったが、どちらにしろ私はここのクルー。
キャプテンはハートの海賊団の船長だ。私の船長だ。
気持ちに蓋をして、自分の両頬を叩いた。
そして、高鳴る胸を無視するようにベッドに入った。








はい、眠れませんでした。
私が思っていたよりもアドレナリンが出てしまっていたらしい。
仕方なくベッドから降りてつなぎに着替えるとストレッチを始める。

今日は島への上陸の日だ。

眠れなかったのはそのせいだと自戒して、医務室を出て食堂に向かった。

「あれ、おはよう。早いねナマエ」
「クジラさん、おはようございます」

コックであるクジラさんに挨拶をして、つなぎを腕まくりするとキッチンへ入った。

「何か手伝ってもいいですか?」
「じゃあ、その芋の皮むきをお願いしてもいいかい」
「はい!もちろんです!」

ナイフを片手に皮むきに夢中になっているとゾロゾロと仲間が起きてきた。

「あれ?ナマエはえーな」
「シャチおはよ。今日は初上陸の日だから楽しみで眠れなくて」
「お前子どもかよ」
「でも、ちゃんと朝食の仕込みを手伝ってくれるから俺は助かったよ」

がはははと笑うクジラさんにお礼を言って、シャチの隣に座った。

「島で一緒に買いもの行ってくれるんでしょ?」
「夜は居酒屋で宴会だしな」
「お酒飲みたい」
「お前の歓迎の宴会、結局できなかったしな」

ペンギンさんが欠伸をしながらシャチの前に座って、「おはようナマエ、シャチ」と挨拶してくれて笑顔で返した。
この一週間でわかったが、キャプテンは朝起きるのが遅い。
昼までに起きてこなければ起こしに行かないといけないぐらいだ。

「あー、でも、宴会の後は自由時間だからな」
「ん?みんな船に戻らないの?」

二次会は船だな!とか勝手に思っていたがシャチはちっちっと指を左右に振ってニヤリと笑った。

「おれ達男は発散するもんがあんだろ」
「あー…なーるほど」

女か。
まあ、確かに溜めるのは体に悪いし、そういうことで航海中に不調を来されても私は困る。
いや、医者であるキャプテンも困るだろう。あ、でもキャプテンなら自分で抜けとか言いそう。

ってことはキャプテンも夜は行っちゃうのか…。
この気持ちに蓋をしたとしても複雑っちゃ複雑だ。

「じゃあ、夜はこの船に一人かぁ」
「お前も発散すりゃいいじゃん」
「やだよ。女は男と違ってホイホイとヤりません」
「つか、お前って経験あんの?」
「お前ら朝っぱらからなんつー会話してんだよ…」

私とシャチの会話に終止符を打ってくれたのはペンギンさんだ。
ちょうど目の前に美味しい朝食が並んだことだし、私は食事に集中することにした。





先発隊の報告がキャプテンにされ、漸く私は地面に足をつけた。
一週間昏睡状態で、目覚めてから一週間…つまり二週間ぶりの陸だ。
ゆらゆらと揺れている感覚がない地面に、私は感動を覚えた。
先発隊の話しによるとお金を落としてくれる海賊は大歓迎らしく、堂々と上陸が出来た。
なかなか発展した街並みは服屋も揃っていて、約束通りシャチとベポと仲良く街を回ることにしたのだ。

買い物も一段落して、食事をするためにシャチとベポとレストランへ入っることにした。

「お前、色気のない服ばっか買ってたな」
「うん。色気なんて必要ないし、あ、この後は別行動でいいよ」
「なんでー?一緒に回ろうよ」
「ありがとうベポ。でも、私髪を切りに行くから」
「は?充分短いだろ」
「結べないぐらい短くするの」

もぐもぐと三人で口を動かしながら19時に大きな酒場でと予定を確認し、私は先にレストランを後にした。





バッサリと切った髪の毛で街を歩いていると、ふと男性に声を掛けられた。

「ハートの海賊団の方ですか?」
「…」
「こっち向いて。ハイ、チーズ」

なぜか言われた通りにニーッと笑いピースまでしてしまったが、ばっちりと写真を撮られた。
男性はなぜかすぐに立ち去り、私は首を傾げるだけだ。

「何だったんだ?」

この写真がまさか自分の手配書になるなんて思いもしなかった。



ハートの海賊団
ミョウジ・ナマエ 懸賞金3000万



「キャプテン!ナマエが賞金首に!」
「だろうな」
「だろうなって!!」
「だからこの間、海軍を泳がせただろ」
「あれはそういうことだったのかー!!」

ペンギンの大きな声が酒場に響いた。




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