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「それにしても本当に存在していたんですねケアケアの実」

ペンギンとベポと次の島への航路を確認後、話しが一段落ついたところで古びた書類を差し出しながらペンギンが言ってきた。
ナマエを見つけるだいぶ前に海軍の船で見つけたオペオペの実についての研究書類。
そこに書いてあった二つの悪魔の実による影響。
他の悪魔の実にはない、能力同士の相乗作用。そして、ケアケアの実の能力である驚異的な治癒能力だ。

おれの前にオペオペの実を食べた奴が研究した資料らしいが、研究途中でケアケアの実の能力者が死んでしまったらしい。
そのため、情報としては少なく存在すらも不明であったが。
たまたまナマエの島で情報収集をしていたおれ達が、他の海賊と争っている子を助けて欲しいと懇願されて物資の交換を条件に仕方なく向かった先にナマエが居た。

切りつけられた若い女の傷はすぐに処置を行わないと、出血多量で15分ももたないだろう。
そう思って足をその女の方に向けて進めようとしたらナマエが、その女を抱きかかえて能力を発動した。
あんな外傷を瞬時に塞ぎ、聞こえてきた攻撃の能力は医療用語でおれの能力と酷似していた。
すぐにケアケアの実を思い浮かべ、何が何でもナマエをクルーにする気になった。

おれが対峙している二人の間に立つとすぐにナマエは意識を失い、おれが相手の海賊を戦闘不能にしてやったら、あいつの妹がやってきた。
ここの島に外科医は存在していないし、医療者は居てもこの島でも一番の医療者はナマエだと。
ケアケアの実を食べた人間が看護師として医療に携わっていたことはおれとしても幸運であった。

おれが医者だと伝えれば助けてほしいと懇願してくる妹に条件を突きつけた。
それでもなんの躊躇もなく、まっすぐ見つめ助けを乞う姿におれの二つ名を知らない馬鹿かと思えば

「死の外科医、助けられなかったら私が海軍になった時にどこであろうとあなたを捕まえに行く」
「おれが誰か分かってて頼むのか」
「姉の命には代えられない。ここで頼れる医療者は貴方しか居ないから」

そう言って渡されたナマエの体はすぐにおれの船へ運び処置を行った。
処置が終わり、外ではあいつの妹が大きな荷物を抱えて待っていた。

「ログはたまってるはずよ。お姉ちゃんが目を覚ます前に出航して。この島で目を覚ましたら絶対に貴方のクルーにならないと思うから」
「へェ。姉を連れ去ってくれってことか」
「お姉ちゃんはもともと世界を見たがってた。一人で船出するよりあんたみたいな海賊に連れ出してもらった方がいい」
「海賊になるということは命狙われることになるぞ」
「どんな形であれ生きていてくれればいい。貴方はクルーを見捨てる人ではないみたいだから」
「はっ。分からねェな、自分の目的のためだったら殺すかもしれねェぞ」
「わたしは人の命を救う医者なら信じてるから。船に処置室や手術室があるなんてまさに医者の船じゃない」
「…」
「でも、お姉ちゃんの笑顔を奪ったりしたらお姉ちゃんが貴方を庇ったとしても、私が貴方をインペルダウンへ連れて行く」

おれを怖がることもなく真っ直ぐおれの目を見る女に、おれは口角をあげて荷物を受け取った。

妹…か。
頭の中を一瞬、幼い頃に亡くした妹の姿が過った。






「まさかケアケアの実を食ったのが看護師だったのは運良かったですね」
「確かにな。まあ、医療者じゃなくとも攫っておれが叩き込んでたけどな。その手間が省けた」
「しかも勉強にも積極的で、採血の手技も良かったですし、何より可愛い…」
「関係ねぇだろ」

ペンギンが頬を赤くしながら言うが確かに可愛いと言われる女の部類には入るだろう。
しかし、あいつにはここで娼婦の仕事をさせるつもりは皆無だ。

「そういう女なら島で発散しろ。他のクルーにも言っておけ」
「ま、まあそうですよね。仲間ですからね」
「仲間と娼婦はちげぇ。そこんとこしっかり線引いとけ」

そう言うと呆れて溜息をついた。

ナマエ自身にもしっかり男について叩き込んでおく必要だある。
目を覚ました時に男性経験がなかったとか、娼婦にはなれないとか喚いていたのを思い出す。









ペンギンにコーヒーを持って行かせ、その数時間後にベポに航路を任せ船長室へ戻った。

「あ、キャプテン。おかえりなさい」
「…」

夕食も終え、風呂も入った後であろうナマエの姿はすでに寝る準備万端でショートパンツにTシャツというラフな格好であった。
頬はうっすら赤くなり、つなぎで見えなかった白く瑞々しい生足がすらりと外気にさらされている。

航海が長く、溜まっていればおれでもムラッときていただろう姿に眩暈がした。

「お前、ここが男しかいねェ船だって自覚はねェのか」
「えっ!いえ、その、一応自覚してます。薄着でうろついたり、なるべく二人きりにならないように…はっ!キャプテンは別ですよ!別っていうのはその、上司と部下みたいなもんなので関係ないといいますか…」
「…」
「それに、一応…襲われても大丈夫なように着床しないように自分で調合した薬を持ってます」

その言葉には驚いた。
女一人で航海をする予定だったのだからあった方が確かに安全ではあるが。
まさか自分で調合し、持ち歩いているほど用意周到であったとは。
一通り医療のことを勉強しているのなら、人間の仕組みについては理解しているだろう。

「あと…その…男の経験はないといいましたが…嘘です。一応、島でそれなりに経験をしてます…嘘ついてすいませんでした」

どうしよもない男性でしたが…と影を落としながら呟くナマエ。

…戸惑いしかねェ。
自分が思っていたよりもしっかり考えていたらしい。

「だったらその恰好は煽るってことは考えなかったのかよ」
「え!これダメでした?!」
「…お前、男の前でその恰好しててなんか言われたことねェのか」
「うーん…あ、でもこの恰好はアウトなんですね!次の島で長ズボンと長袖の服を買っておきます」

そう言うと頭を下げ、本と本棚へ戻すナマエ。
鬼哭を立て掛け、ベッドに腰を下ろすと読みかけていた本を手にした。

「おれのクルーには仲間を襲うような馬鹿はいねェだろうが、女として気を使われたくねェならそれなりに自衛しろよ」
「了解です!キャプテン!では、そろそろ失礼します…。あ、明日も医学書読みに来てもいいですか?」
「好きにしろ」
「アイアイ!キャプテン!」

へらっと笑い、他の仲間が言うような返事をするとナマエは部屋を去っていった。
その後ろ姿を見送り、ドアが閉まると盛大に溜息をついておれは手にした本を読むことにした。




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