09




初めての上陸で色んな店を見ていた私は気づいた頃には約束の時間を大幅に過ぎていたことに気が付いた。
20時過ぎに酒場に到着するとすでに仲間たちは酔っている人がほとんどだった。

「主役の登場だー!」
「よっ!主役!」
「くっそー!新人に先越されるとは!」
「お前もキャプテンと一緒だな!」
「しっかし、二つ名まで似させるとか海軍狙ってるとしか思えねー!」

先程から仲間の言葉が一切理解できない。
奥のソファにニヤニヤしながら足を組んで座っているキャプテンの傍にペンギンさんとシャチとベポが座っていて、ペンギンさんが手招きしている。
キャプテンとペンギンさんの間に座る様、ペンギンさんに促されて素直に座った。
そして、目の前のテーブルに一枚の丸まった紙を置かれた。

「お前のだ。ずいぶんと能天気な写真撮られたな」

キャプテンの声に私は顔を顰め、目の前の紙を開いてみた。
そこにはピースをして能天気に笑っている私の手配書。手配書?手配書?!!!

「あ、あ、わ、わた、わたし…」
「すげーよな!いきなり3000万ベリー!」

シャチの嬉しそうな声に思わず頭を抱えた。

「わ、私が賞金首…入って一週間しか経ってないのに…」
「良かったじゃねェか。スピード出世できて」
「能力者だし、すぐに手配されたんだな」

最早キャプテンとペンギンさんの声が遠く聞こえる。

「こんな能天気な手配書なら、お前の妹も安心してんだろ」
「…キャプテン…」

キャプテンの言葉に涙が滲んできた。
誤魔化すようにシャチが持ってきたお酒を一気に飲み干した。

「それではナマエの仲間入りと、ハートの海賊団の新たな賞金首にかんぱーい!」

ペンギンの挨拶により宴会が再び開始された。






綺麗なお姉さんたちの登場により宴会は大盛り上がりし、私は酔った体に鞭打って一人で船へと戻って来た。
甲板で船番をしていた仲間に声をかけ、交代すると嬉しそうに船を下りて行った。
冷たい甲板の上に横になり、記念にと渡された自分の手配書を広げた。

お父さんとお母さんは驚くかな。
いや、でも、なんだかんだ部屋に飾っていたりして。
それとも海軍で叩かれてたりするのかな…それだったら悪いけど。

手すりに手を置いて海を眺めながら、ふふっと笑う。
少し前かがみになって下にある海を眺めようとしたら、いきなり首元が苦しくなり「ぐえっ」と鈍い声が出た。

「学習能力ねェのか。お前能力者だろ」
「キャプテン?!あれ?!お姉さんとよろしくしてたんじゃ…いだ!」
「女がんなこと言うんじゃねェ」

相変わらず容赦ないぐらい痛い力で頭を叩かれた。
涙目になりながらキャプテンを見上げると、キャプテンはやっぱりかっこよくてすぐに視線を逸らせた。

「あの、キャプテン。私を船に乗せてくれてありがとうございました」
「あ?」
「海賊なんてって思ってましたが、みんないい人ですし、街を略奪するために上陸するわけでもないですし、ちゃんとお金を払ってましたし」
「…」
「私はハートの海賊団で、キャプテンのクルーになれて幸せです!これからもよろしくお願いします!」

最後はへらっと笑ってキャプテンの顔を見上げた。
何も言わずに聞いてくれたキャプテンは私の横に腰を下ろした。
私はすぐ隣にあるキャプテンの体温に、自分の手のすぐ横に置かれた刺青の入った大きな手にドキドキしてしまい、すぐに口を開いた。

「あ、あのキャプテン!発散してこなくていいんですか?」
「…お前な…」
「私に気を遣わなくていいんですからね?」
「…はぁ…」
「そ、そんな溜息を…あ!だったら私が相手してあげましょーか?」

ふざけてそんな事を言って、きっと手刀が来ると目を瞑りながら衝撃に備えたら中々衝撃は来なくて気が付いたらキャプテンが近い距離に居た。

「きゃ、キャプテン?」
「相手、してくれんだろ?」
「は?!」

キャプテン酔ってる!絶対酔ってるよ!
ずりずりと近寄るキャプテンに私も座りながら後ずさる。
近い整った顔に顔を真っ赤にしながら、必死に訴えかけた。

「酔ってますよね?!キャプテン!酔ってますよ!」
「さあな」
「わわっ」

手を掴まれて引き寄せられて、座ったまま密着し、顎を掴まれた。

「冗談よしてください!」
「お前からの提案だろ?」
「いえ、確かにそうですが!」

もう覚悟してギュッと目を閉じるといつまでたっても唇に感触は来ない。
恐る恐る目を開けるとキャプテンは驚いたように凝視していた。

「キャプテン?」
「お前…受け入れるつもりかよ」

その言葉で一瞬のうちに理解した。
やっぱりからかわれたんだと悲しみ半分、残念な気持ちが半分。
総合してなんとも言えない気分。

「…飲み過ぎだ。さっさと寝ろ」
「はい…」

私から離れて行くと、キャプテンは船内に入っていった。

何なんだ。

冷たい海風が私の頬を撫でて熱くなった頬を冷ましていってくれる。
ついでに酔いも醒めてきて、何なら眠気も醒めている。
たかがキスくらい自分からしてやって逆にキャプテンを驚かせてしまえばよかった。

なんて出来るわけない。
私だけが夢中になっていて、本当に馬鹿だ。

大きく息を吸って、気持ちまで出て行ってほしいと思いを込めて息を吐き出した。




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