甲板に出るとシャチを含めた何人かの仲間が組手をしていた。
私が出てきて数分もしないうちにキャプテンが私の刀と恐らくキャプテンの刀らしき武器を持って出てきた。
「まずはおれの能力をお前の体を持って見せてやる」
「わ、私の体を使うんですか?!」
「気を楽にしろ、すぐ終わる」
楽にできるか!そう心の中でツッコミを入れながら首を左右にぶんぶんと振った。
その様子にキャプテンは鼻で笑い、長い刀を鞘から抜き、きらりと光る刀身を見せた。
「“ROOM”」
「ひい!」
薄いドーム型の膜が出現すると私の体とシャチ達の体を包み込んだ。
「やべえ!俺達も入ってる!キャプテン!俺達もROOM内ですよ!!」
「そこにいるテメエらがわりぃ…ん?」
「???」
恐らくキャプテンが出したであろうドーム内に居る私の体の周りが俄かに薄く緑色に光っている気がする。
この光は自分が能力を発動させたときの色に似ている。
首を傾げながらキャプテンを見ると、キャプテンも気が付いているのか首を傾げている。
「お前、能力使ってんのか?」
「いえ。何もしてません」
「?なんで光ってんだ」
「私が教えてほしいですよ」
するとキャプテンは普通に私の方へ何度も刀を振り下ろした。
私はひいっ!と叫びながら身構えた。
しかし、痛みも何もなく恐る恐る目を開けると驚いた顔したキャプテンと、ドームの外にいるペンギンが同じく驚いた顔で私を見ていた。
そして私の後ろに居たシャチ達が叫んでいる。
「キャプテンひでえ!俺達までバラバラにすること…ってナマエはバラバラになってねぇ!」
「どうなってやがる…」
「へ?ぎゃあ!シャチ達がバラバラ事件に!出血してない!うわ!気持ちわる!」
手足がバラバラになったシャチ達を見て、オペオペの実の能力を少しだけ理解する。
このドーム内で生きたまま刻むことが出来るのか。
しかも、慣れた様子でシャチ達が体をくっつけ合っているのを見ると日頃からやられているのが目に浮かぶ。
「無敵なわけじゃねェよな」
「も、もしかしてですけど…このドーム内だとオペオペの実は私に無効なんじゃないですかね?」
「…お前の体が光ってるのもおれの能力に関係してんのか」
「そうだと思います。こんな現象初めてですし…」
「…それに…なんだか体が軽い気がするんだが…?」
「?それは良かったですね?」
「……」
刀を持っていない方の手をグーパーしながら自分の拳を見つめるキャプテン。
するとペンギンさんが「もしかして…」と片手を顎に持っていきながら近寄ってきた。
「ナマエがROOM内に居ることでキャプテンにいい効果が出てるんじゃないですか?」
「確かに、ずっとROOMを広げてても全く体力を削られてる気がしねェ」
「資料にあった相乗効果ってやつかもしれません」
「それってキャプテン無敵になれんじゃん!すげえなナマエ!」
体が戻ったシャチが嬉しそうに近寄って、私の肩に触れた瞬間にシャチの体を光が包んだ。
「わわ!大丈夫シャチ?!」
「???なんかすげえ体が軽くなった!」
「ええ?私能力発動させてないよ?!」
「…ナマエの方もROOM内だと能力が強化されてるみたいですね」
キャプテンが薄い膜のドームを消すと私の体の光は消えた。
んんん?何が何だか分かんない。
「ROOM内にナマエが居ることでお互いの能力を上げることができるってことですかね」
長刀を鞘に納めて私を見たまま何かを考えているキャプテンの横でペンギンがそう解釈を述べていた。
「3時の方向に海軍だー!!」
見張りをしていた仲間の声にペンギンさんとキャプテンがニヤッと笑った。
まさか昨日の今日で戦闘に参加させるとかないよね。
「いいタイミングだ。おれとナマエで乗り込んで片付ける」
「ふ、二人ですか?!海軍ですよ?!」
「ROOM内でお前の能力での攻撃がどうなるのか確認する必要があんだろ」
口角を上げて言う姿はまるで狩りの標的を見つけた猛獣だ。
まさか海賊として初めての戦闘が海軍だとは。
覚悟は決めた。父や妹と敵対してしまうけど、私は私の道を行く!
「よろしくお願いします、キャプテン」
「行くぞ」
近寄ってくる海軍の船に飛び乗るのかと思い、手すりの方へ行こうとするとキャプテンに腕を掴まれた。
「?キャプテン行かないんですか?」
「“ROOM”ー“シャンブルズ”」
またキャプテンのサークルが先ほどより広範囲に広がった。
その瞬間から目の前の風景が一瞬にして海兵たちの姿になり、床に座り込んだ。
「え?なに?あれ?」
「おれの能力だ。ROOM内の物質を入れ替えることが出来る」
「なんて裏ワザ…」
「こいつハートの海賊団!」
「トラファルガー・ローだ!」
海軍たちが武器を構えて向かってくる。
キャプテンと背中合わせに立つと、お互いに刀を抜いた。
「“インジェクション”―ショット」
背中から聞こえた攻撃に、ドキリとした。
インジェクション…注射…
先程も思ったがここがキャプテンの作り出した処置室か手術室だと仮定したら、もしかしたら自分も出来るかもしれない。
「“ドリップ”―ショット!」
「ぎゃあああ!」
「気をつけろ!こいつら二人とも能力者だ!」
とりあえず自分の能力をまず試してみる。
いつも通り血管を破裂させ、出血させることができた…が、いつもより体力が消費しない?
それとなんか頭に流れ込んでくる。
「“アネスシージャ”?」
頭に流れ込んできた言葉を口にすると手に黄色の粉が現れ、「うわっ!」と声を漏らしながら目の前の海兵たちに向けて投げてみた。
すると黄色の粉がかかった海兵たちは次々と倒れていく。
「貴様何をした?!」
「分かりませんよ!」
「寝てます!中佐!黄色の粉がかかった者は眠ってしまってます!」
「麻酔だな」
私の後ろですでに海兵たちをバラバラにしたキャプテンが口角を上げて言った。
なるほど。アネスシージャ…麻酔のことか。
キャプテンがROOMを閉じて、私は再び使おうとして手をかざしてみても何も起こらない。
「キャプテンのROOM内じゃないと出来ないみたいですね…やっぱり不便な能力です」
「くく、医者の傍でなら使える処置ってことだな」
「兎に角、全員寝かせちゃうので」
「いや、もういい。帰るぞ」
「え、あ、はい」
まだ海兵たちは居たが、向かってくる様子もなくキャプテンに恐れているようだった。
来た時と同じ様に腕を掴まれて、一瞬のうちに甲板の上に転げ落ちた。
「いた!きゃ、キャプテン、自分だけ着地してないで支えるとかないんですか…」
「甘えたこと言ってんじゃねェ。ペンギン、潜るぞ」
「あれ?海兵まだ全然いますよ?」
「敢えて残したんだよ。いいから潜水しろ」
「了解!全員船内に入れ!潜水すんぞー!」
ペンギンさんの声につられてみんなが中へ入っていき、私も中へ入っていく。
「お前はおれの部屋に来い」と去り際に言われたので、慌ててキャプテンについていった。
でも、コンパスが明らか違うので追いつくために私は小走りになった。
「ちょ、きゃ、キャプテン速いです…」
「…お前体力ないな」
「一般女性よりはありますよ!」
「俺達の能力は体力が勝負なんだ。少しは鍛えろ」
「は、はい…」
明日から持久力をつけるために走り込みをするしかない。
歩いているキャプテンの後ろを小走りでついていき、やっとキャプテンの部屋に着いた頃には息が上がっていた。
深呼吸をし、呼吸を整えてから部屋に入ると本棚から何冊か本を取り出し、その本を渡された。
「お前の紙に書いてあった項目の本だ。持ち出さずにここで読んで行け」
「ここでですか?」
「読んだら本棚に戻せよ。俺はペンギンと航路について話してくる」
「了解です」
ん?てか船長室に私だけで居てもいいのか。
そんな疑問を投げかけようにも、ここの部屋の主はすでに立ち去った後だった。
…ま、いっか。
本をテーブルに置き、隣の医務室から紙とペンを持ってくると本を開きながらまとめていくことにした。
コトっと音がして顔を上げると、ペンギンさんが苦笑してマグカップをテーブルに置いた。
「お前もキャプテンと一緒で本に集中するタイプだったのか」
「…すいません」
「まあ、キャプテンは本を読んでても気配には敏感だけどな」
「私は全く気が付けないタイプです。あれ?キャプテンとお話ししてたんじゃないんですか?」
「もう終わってキャプテンはベポと操舵室に居る。飲み物でも持って行ってやれってキャプテンに言われてきた」
「そうだったんですね!すいません!ありがとうございます!」
すぐに立ち上がって頭を下げた。
こんな新人の下っ端相手に…申し訳なく思っていたがペンギンさんは意外にも笑って私の肩を叩いた。
「もう仲間なんだから片っ苦しいのはなしだ」
「う、優しいですね、ペンギンさん」
「だろ?あ、そういえばお前の風呂の時間なんだけど…女はお前しか居ないから悪いんだけど19時から30分だけがお前の時間にしたぞ」
「30分もありがとうございます!」
「個室シャワーは船長室にしかないから、最悪その時間に入れなければキャプテンに頼んでここのを使えばいい」
「絶対にその時間に入れるようにします」
「ははは。頑張れ」
キャプテンにお風呂だけ貸して下さいなんてさすがに言いずらい。
本を閉じて時間を見ればもう18時だ。
夕飯を食べて、お風呂入って、また本を読ませてもらおう。
そう考えながら自分の書いていた紙を本に挟み、他の本は本だなに戻しておいた。
「まだ勉強するのか?」
「はい。夕飯とお風呂の後に再開するんです」
「すげぇなー…ま、ほどほどにな」
「はぁーい」