同盟で再潜入

ドアを開けば、驚いて目を丸くするルフィ君とその仲間たちが私たちを見た。
良かった。みんなはまだ無事なみたいだし、ただお祭りを楽しんでいるだけのようだ。

「え?!トラ男とナマエ?!」
「麦わら屋…」
「ルフィ君…」

ふらつく私とキャプテンにチョッパー君が慌てて船内に戻って行った。
どうやら治療してくれるみたいだが、そんな時間などない。
せっかく整った呼吸も、歩けばまた乱れて、結局は2人して体力の回復などしきれていない。

私の体を近くに居たナミが支えて、ロビンさんが私の切れた額の血をぬぐった。

「トラ男君が一緒に居て、ナマエがこんな傷だらけになるなんて…トラ男君。いったいなにがあったの」
「あーもう!女子がこんな血まみれで!」

ナミが私の血で固まった髪を見ながら悪態ついた。
そんなこと言うが、みんな海賊なのだから戦いが始まれば女子だろうと血まみれになるのは日常茶飯事だろう。
救急箱を持ってきたチョッパー君がキャプテンの元にやってきた。

「治療は必要ねェ。すぐに行く。乗せてもらった礼に教えてやるが、お前ら…すぐにこの島を離れろ。フェスタは…」
「フェスタ…?海賊万博の元締めの?」
「ブエナ・フェスタだけじゃねェ。やつら、なんかとんでもねェことを…。うちの連中はなんとか逃したが、ここは戦場に…ッ」

痛みに言葉を詰まらせるキャプテン。
私も慌てて近寄ろうとしたがナミとロビンさんに抱きしめられて身動きが取れない。

「トラ男!ダメだよ安静にしてなきゃ!」
「邪魔したなトナカイ屋…これはおれが探ってた問題…」

ふらつく体で立ち上がろうとするキャプテンにチョッパー君が体を支えた。

「どこ行くんだよ!そんな体で!」
「…やつらに…礼をしに行く…仲間をあんなボロ雑巾みてェにボロボロにされて黙ってられる程、人間できちゃいないんでな…」
「仲間っていうかナマエを、でしょ…」

ナミが盛大な溜息をついて、ロビンさんが隣でふふっと笑い出した。
私をボロボロにした仕返しって本気だったのか…。

後ろから砲撃がやってきて船が大きく揺れると私の体をロビンさんが抱きとめた。

「うわあ…後ろのやつら、もう追い付いてきた」

ウソップ君の叫び声と共に再び船は大きく揺れる。
ずっと静かに聞いてくれていたルフィ君が、顔を上げて「このまま進む」と決断したように言った。

「けど、トラ男とナマエもほっとけねェ。チョッパー、頼む」
「分かった!おれはトラ男たちについてる!」
「おい!おれは行くぞ!」
「なら私も行くわ」

私の体を支えているロビンさんもキャプテンに強く訴えた。

「七武海のバギーが動いているということは、海軍だってこの海賊万博のことを把握していても不思議じゃないわ。そしてやつら…フェスタだけじゃないっていうことは、つまり組織的な取引や抗争が裏で動いているということ」

すごいロビンさん。
キャプテンの少ない情報でそこまで掘り下げて分析し、言葉にしてまとめるなんて。
頭もいいのだろうけど、頭の回転もとても速いのだろう。
キャプテンと話しをしているときにキャプテンの難しい話しにも臆さずに、むしろ意見まで言えるような話し合いが出来ているところを何度か見たことがある。

考古学者とは言ってるけど、考古学の他にも本をたくさん読んでいるのだからそれこそ全てに関してすごい博識なのだろう。
悔しいけど…博識な上に綺麗でスタイルがいい。
キャプテンと並ぶと絵になるし、2人が難しい話しをしている時、私は蚊帳の外だ。

「もし、この海賊万博になんらかの罠があるのだとしたら。それは確かにトラ男君だけの問題じゃない。私が調べに行く」
「じゃあ、おれはロビンちゃんとナマエちゃんのボディーガードに」

今度はサンジ君が煙草を吸いながら話しに入ってきた。
それに続き、奥から骨だけの存在…ブルックさんも出てきた。

「調査…隠密行動でしたら私もお供します」

あれよあれよと麦わらの一味で一緒に再潜入することが決まってしまった。
私もキャプテンも口をはさむ暇もない。
呼吸は整ってきたけども、勝手に進む話と勢いに何も言えずに口を閉ざすばかりだ。

「海賊王のお宝に関係するかもしれないし、しっかりね」
「了解ナミさん!」
「それと、これ以上ナマエをボロボロにさせないようにね!」
「もちろんだ!ナミさん!」

サンジ君とナミさんのやり取りをぼんやりと眺めていると、ルフィ君が私の頭をポンと叩いた。

「よろしくな、トラ男とナマエ!」
「…勝手にしろ」

うん。もう何も言うまい。
でも、ルフィ君のこういう勢いは私は嫌いじゃない。








麦わら一味の船、サニー号には不思議な仕掛けがたくさんある。
仕掛けの他に何台かの小舟がついているのも。
この不思議な小さな潜水艦も、その一つ。

船に乗せられてさっそくチョッパー君が私とキャプテンの手当を始めた。

「トラ男の怪我も酷いけど…ナマエも酷いぞ…。何とか止血は出来たけど血が足りてないんじゃないか?」
「…はは、そうかな?血の気多いから」
「…とにかく、これ以上出血したらまずいからな。本当は船の上で休んでてもらいたいぐらいなんだ。トラ男もナマエを見張れよ!」
「分かった」

チョッパー君がキャプテンの足を処置している時に私の後頭部を掴んで顔を近寄らせてきた。

「わわっ」
「本当…顔色悪ィな…」

目の下も親指で下げられて確認したキャプテンが顔を顰めた。
貧血なことは貧血らしい。
だが、チョッパー君のおかげで止血は出来たのだから、後は休んだり食事をすれば復活してきてくれるはず。

前髪を掻き上げてくれたキャプテンが私の額の傷を撫で、頬の小さな傷や擦り傷を撫でつけながら盛大な溜息をついた。

「…おれたちの船に戻ったらすぐに能力で塞げよ」
「分かってます…」
「傷は残したくねェ…こんな首に痣までつくられやがって…」

首筋をなぞるキャプテンに私は思わずキャプテンの手ごと、自分の首を押さえた。
あんなにも首を絞められたのだから、痣にはなっているなと思ったが…そんなしっかり痣になっているのだろうか。

「応急処置終わったぞ、トラ男」

チョッパー君が包帯を巻き終わって、キャプテンの捲り上げていたズボンの裾を下げた。
その後すぐに立ち上がったキャプテンが、前を向いた。

「急ぐぞ。行先はこの島の地下…ブエナ・フェスタのアジトだ」






出来るなら戻りたくはなかった。
あの圧倒的な力の差を感じさせた男からやっと逃げたというのに。

死んだはずのブエナ・フェスタがここに居たし、あの巨大男の存在も気になるところ。
何かを企んでいるのは間違いないが…。

「この奥がやつのアジトだ。気をつけろ…さっきはここで、いきなりけしかけられた」

先ほどのことを思い出したのか、キャプテンが忌々しく言った。
私だって悔しいし、思い出したくもない。
危うく殺されるところだったのだから。

手も足も出なかったあの強さ。凄腕の覇気使いだった。

破壊された後の洞窟内と、恐らく私やキャプテンの血液と思われる赤黒い液体があちこちにひっついていて、戦いのすさまじさを物語っている。

「ここで何が暴れたんだ…?トラ男」

私が答えようと口を開こうとしたら刺青の入った大きな手に口を覆われて、先に進もうとしていたサンジ君の腕を掴んで止めた。
キャプテンが指を指して、その先を全員で見上げれば…映像電伝虫の姿。どうやら監視カメラのようだ。
その監視カメラに映らないよう、壁に沿って進んでいく。

ぶぅ…

「あ」
「くせえぞ!ブルック!」
「し、信じられない…」

鼻を押さえたチョッパー君に続いて私も顔を顰めて鼻を摘まんだ。
ありえない。この状況でまさかのオナラ。
この人、骨のくせに本当に色々と常軌を脱している。
飲み物は飲むわ、ご飯は食べるわ、オナラはするわ、人のパンツは見たがるわ…。
紳士的に見えて意外とオナラもゲップも普通にするのだから本当に信じられない。

「ヨホホホ。これは失礼」
「ほんとですよ!」
「「静かにしろ」」

キャプテンとサンジ君が同時に注意をした。
しかも、私の口を再び覆って口を塞ぐと、ロビンさんとブルックさんが頷いた。

「この先は任せて」
「では、私も…」

敵ながら本当に便利な能力だ。
ハナハナの実とヨミヨミの実。
こうしてみると、悪魔の実は本当に不思議な能力ばかり。
私のケアケアの実やキャプテンのオペオペの実も含め…あれ、このメンバーで能力者じゃないのはサンジ君だけだ。
海に沈んでしまったら絶望的だな…。

そんな悠長なことを考えていたら、私の後ろから抱え込むようにして口を塞いでいたキャプテンが屈んで、私の耳元に唇を寄せた。

「お前はこの先、戦闘があったら不参加だ」
「…」

もちろん、否定するために首を横に振ったが、再びキャプテンが囁いた。

「船長命令」
「…」

そんなの卑怯だ。
そう言われれば従うほかなくなってしまう。
私が後ろを振り向きざま、キャプテンを睨むがキャプテンは涼しい顔をして離れていった。
たぶん、この貧血状態がドクターストップをかけているのだろう。

「っ!!」
「ロビンちゃん?!どうした?!」
「一度退避を」

ロビンさんの顔色が変わって、ただならぬ雰囲気の中、私たちはその場を後にした。






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