祭りの秘密



2日かけて会場に到着した私たちは結局、バラけることなく船で待機する5人以外は全員が一緒に行動することになった。
それは2日前の海賊同士の喧嘩に割り込んだ時に得た情報から、こうした編成になった。
その情報というのは、祭りの地下では主催者であるブエナ・フェスタが何やら企んでいると。
確証はないが、海賊王のお宝というのもどういうものなのか知りたいし、少し潜入してみることにしたのだ。

世界一の祭り屋、ブエナ・フェスタ。
海賊からの情報でその男の情報も入手することができた。
武器商人や情報屋とも強い繋がりがあり、裏と繋がっていたと。ただ、海難事故で死亡したのだという情報も。
死亡したという情報が正しければ、本人に成りすましているのか…本人が死んだと思わせたのか。どちらかだ。
どちらにしても、その男の情報も、この祭りの裏を暴かない限りは祭りに参加して盛大に騒ぐなど出来るはずがない。

地下までは全員で行くが、中は入るのは私とキャプテン、それとシャチとペンギンだけだ。ベポは目立つから入り口で他の仲間と一緒に待機。

何があるのか分からないが、こればかりは潜入してみなければ分からない。

キャプテンは潜入するくせに、目立つ色…私たちの船の色でもある黄色のパーカーにフードにはモコモコのファーがついているものを着て、相変わらず下には何も着ていないから刺青が目立つ。
ズボンも目立つオレンジ色でいつものブチが入っているが、とにかく目立つ。
その証拠に降り立った直後からずっと周りがざわついている。“死の外科医”が到着したと。

鬼哭を肩に掛け、堂々と歩くキャプテンのすぐ斜め後ろで歩いているのが仲間と一緒のつなぎを着た私。
背中にはキャプテン同様ハートの海賊団である証のジョリーロジャーが笑みを浮かべている。

「見ろ…死の外科医だ…」
「最悪の世代で一番乗りだな…」

ざわざわと騒ぐ中、そんな声が聞こえてきた。
最悪の世代では一番乗りらしい。
ルフィ君たちもまだ到着してないんだ。
どんな海賊たちが居るのか周りを見渡してもすぐに目を逸らすような海賊ばかり。
仕方ないか…キャプテンの首の額が5億にもなり、威圧感もすごい。
これだけ目立ってしまっていれば、祭り屋さんにも気付かれているのではないかと思う。

何人かのクルーと別れてメインゲート近くの地下入口から4人で潜入する。

「それにしてもすごい祭りっすね…」
「海賊をこんだけ集めて…何を企んでいやがるのか…」

ペンギンとキャプテンが前を見ながら話している。
その間、私とシャチで背後に注意していく。
どんな奴が出てくるのかも分からないが、こんだけの規模の祭りを開くぐらいの海賊。
どんな強敵が潜んでいるのかも分からない。何しろ相手の情報も少なすぎるのだから。

私たちはどんどん地下奥深くまで潜っていく。
だが、雰囲気的に確かに何かを隠すようなそんな雰囲気だ。

「っ?!」

キャプテンが鬼哭を抜いて、突然の攻撃を防いだ。

「侵入者か…」

巨大な体にその拳には覇気を纏っているが…私もキャプテンも、シャチもペンギンも絶句した。
圧倒的な力をひしひしと感じて、私の血の気がさーっと引いた気がする。

「シャチ、ペンギン!全員を連れてすぐに島を離れろ!」
「アイアイ!ナマエは?!」
「おれが連れて行く!」

キャプテンの叫び声にシャチとペンギンが背中を向けた。
その瞬間に大きな男が2人に向けて拳を振り上げ、私とキャプテンは刀に覇気を纏ってその拳を受け止めた。
ずっしりとしたその拳は容易く私とキャプテンの体をふっとばし、シャチとペンギンを逃がすためにキャプテンが能力を発動させる。

「てめェの相手はこっちだ。“シャンブルズ”」

大男を私たちの目の前に移動させると、ゆっくりと私たちを見据えた。
目が合った瞬間に息が止まりそうになる。
何者なのか分からないが、私の中の本能が逃げろと警笛を鳴らしている。

だいたい、今の一撃で立っているのもやっとだ。
刀を構えて大男に刃先を向けてはいるが、どうにも勝てる気がしない。

呼吸を整えてキャプテンが立ち向かった後に続いて、私も能力を駆使して立ち向かうが、圧倒的な覇気は私の覇気では敵うわけがなく、吹っ飛ばされては自分で回復をして。

「…女、回復できる能力者か」
「っ!」

矛先が私に集中してしまったのか、キャプテンをぶん投げた後に私の方へ突進してきた。
私が体勢を整える前に片手で首を掴まれて、浮遊感の後に首に掛かる圧迫感。
この男が少しでも力を入れれば、私の首の骨は折られてしまう。

「よせ。その女の治癒能力はもしもの時の保険に使える。殺すな」

大男にそう言って止める男は、見覚えがある。
情報をくれた海賊たちが持っていた手配書で見た。
ああ…コイツがブエナ・フェスタだ。

「最悪の世代、元七武海トラファルガー・ロー。手も足も出ないな」
「…何を…企んでやがる…」
「それだけダメージを負ったお前は、警備の奴で充分だ」

男が電伝虫で誰かを呼んでいる。
力は込められていないが、この状態では呼吸が上手く出来ずに意識が朦朧としてきた。
私が意識を失えば、キャプテンの能力がガクッと下がってしまうし…ただのお荷物となってしまう。このままでは2人して…殺される…。

必死に意識を繋ぎ止め、逃走の機会を狙う。
頭を押さえながら立ち上がりボロボロの血まみれになったキャプテンが、ギリッと奥歯を噛みしめて私を見て、大男を睨みつけた。

「そいつを離せ」
「…」

「ど派手に登場だー!!」

何かが爆発するような音で大男の手の力が緩んだ。
その隙に私は男へ目を眩ませるために大男の顔面に向けて両手を差し出し、最大限に能力を発動させる。
緑の光が男の顔を覆って、反射的に男が私から手を離して目元を覆った。

地面に降り立った私をキャプテンが能力で石と入れ替え、そのまま能力を何度も酷使し、やっとことで地下から外へ飛び出す。

地下から出るとすぐに裏路地へ逃げ込み、2人揃って呼吸を乱しながら壁に背中を預けて、口元を流れる血を腕で拭い取った。

「どこだー?!」
「っ!キャプテン!」
「ちっ。逃げるぞ」

もう互いに戦えるほどの体力もなければ、治療できるほどの余裕もない。
死なないであの場を立ち去れることが出来ただけでも奇跡としか言いようがない。
2人とも体にかなりのダメージを負っているし、お互いに能力を使いすぎた。

乱れる呼吸のまま裏路地を走り、何度も倒れ込んだがそのたびにキャプテンが腕を掴んで掬い上げてくれる。

「はぁ、はぁ…大丈夫か」
「すいま、せん…。キャプテン…私、置いてってください…」
「馬鹿言ってんじゃねェ…はぁ…」

ピエロの…確かバギーというやつだ。
七武海の彼がなぜ警備に当たっているのだろうか。
肩で呼吸をしながら、座り込む私の隣で同じように痛む腕を押さえながらキャプテンが肩で荒々しい呼吸をしながら顔を顰めた。

「想像以上に…ヤバい事態になりそうだ…」

忌々しげに発したキャプテンの言葉に激しく同意した。
シャチとペンギンはきっと仲間を連れて島を脱出してくれたはず。

「麦わら屋…!」

キャプテンの言葉に私も勢いよく顔を上げた。
その視線の先には確かにルフィ君の船が。

「見つけた!トラファルガー・ロー!!」

舌打ちをしたキャプテンに腕を掴まれて、すぐにROOMが展開された。

「“シャンブルズ”」

パッと私の視界は変わって見覚えのある部屋へやってきた。
私を下ろした瞬間にキャプテンも座り込み、2人してしばらくの間黙って呼吸を整える。
ここはルフィ君の船の中だ。
アクアリウムバーとなっている大きな水槽のある部屋。
そこのソファにキャプテンと座って体をとりあえず休めた。

「っ…」
「だ、いじょうぶ、ですか…今、能力で…」
「やめろ。お前もだいぶやられてんだ。そんな状態で能力使えば意識持ってかれんぞ」
「う…はい…」

確かにこの状況で使えばきっと意識を失うだろう。
そうなれば私というお荷物を運ぶのはキャプテンになってしまう。
しかも、私が意識のない間はもし戦闘になったらキャプテンの能力も半減だ。

お祭りに参加しているからか、先ほどから船は激しく揺れている。

「七武海が警備ってことは…政府や海軍もここの祭りのことは」
「知ってんだろうな。それにあの大男…見覚えがある…」

考え込んだキャプテンの額からはダラダラと血が流れているし、汗かと思ってた私の頬を伝う液体は血液だった。どうやら私の頭部にも傷があるらしい。
そんなに深い傷ではなさそうだが、あちこち出血しているし、治療したいけどもその時間もない。

「とにかく…脱出ですね脱出」
「……」

黙り込んで賛同してこないキャプテンに私は嫌な予感しかしてこなかった。

「…脱出ですよね?」
「いや…脱出するのは…おれの目の前で、お前を痛めつけた礼をしてからだな」
「もうっ!キャプテン!」
「そろそろ出るぞ」

大きな衝撃の後に静かになりだした。
そろそろお祭りも落ち着いてきたのだろうか。

私はキャプテンと一緒に全身が痛む自分の体を押さえながら、船室から出ていった。







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