元七武海同士

チョッパー君に私とキャプテンは肩に担がれて、あの場を離れるために走り続けている。
揺れる帽子が吹き飛ばされない様に、私もキャプテンも帽子を押さえながらロビンさんの話しに耳を傾けた。

「バスターコール?!」
「中将5名以上の大艦隊による無差別殲滅攻撃か。地図にあったはずの島が、なかったことにされちまう」
「んなこと分かってんだよ!」

お父さんに聞いたことがある。バスターコール。
お父さん自身も中将である立場上、収集があれば行かなくてはならないと。
島は粉々に…それこそ島にある生物。動物も建物も、人も、ネズミ一匹すらも残らない攻撃だという。

ロビンさんの顔色は悪くなってるし、サンジ君は忌々しげに舌打ちをしている。
麦わら一味はバスターコールで過去に何かあったのだろうか。

「…とにかく、バスターコールのことをみんなに伝えないと…!」

出口が近くなり、少し開けたところに出た瞬間。
私たちは思わぬ人物と鉢合わせた。

「てめェら!何でここに!」

こんな時にスモーカー!
彼の武器でもある海楼石の含まれた十手がこちらに向けられて、金属のぶつかり合う音を響かせながらブルックさんが攻撃を弾いた。

「いきなり失礼じゃないですか」
「白猟屋!」
「スモーカー!海軍がなんでここに?!」

サンジ君とキャプテンが同時に驚いたように声を上げ、身構えた。

「あいつの武器は海楼石が仕込まれている!ここはおれが引き受けるからお前ら逃げろ!」

この中で能力者ではないのはサンジ君だけ。
覇気も使えて能力者でないサンジ君が確かに一番相手するには良い状況だが…。

「逃がすか」

煙が全員の体を包み込み、サンジ君が覇気で応戦した。

「ナマエ、動けるか」
「はい」
「走るぞ!」

チョッパー君の肩から同時に飛び降りて、私が走り出すとキャプテンがロビンさんを抱きかかえてすぐに走り出す。
しばらく走り、スモーカーとサンジ君の声が遠くなったところでロビンさんが「私も走るから降ろして」と、キャプテンの腕から降りた。

「海軍まで潜入してるとは…どうなってやがる…」

走りながらキャプテンが呟いた。
チョッパー君が抱えていてくれたおかげで結構体力が回復できたみたいだ。
私も走りながら先ほどのスモーカーのことを思い出す。

海軍には内緒の海賊万博。
確かに、七武海もここに来ていたのでもしかして海軍にも情報はいっているのではないかと思っていたが…あのスモーカーの存在が確信に変わってきた。

「出ない…。何が起きているの…ウソップ」

先ほどから宝探し組のウソップへ電話しているが全くでないらしい。
もう、何がなんだか分からない。色んなことが渦巻いていて、キャプテンの言った通り…予想以上にヤバい事態になっている。

「っ?!」

3人で息を飲んで立ち止まった。
何かの気配に私も身構えて、何もない所から砂嵐が吹き荒れる。

「クハハハハ。久しぶりだな、ミスオールサンデー」
「クロコダイル!」

大きな傷を顔につけた、男。
クロコダイルって…確か元七武海の?
ロビンさんと顔見知りのような雰囲気だが、どういう関係なのだろうか。
雰囲気的に仲良しな雰囲気ではないが…。

「驚いた。あなたが動いているということは、海賊王のお宝というのは、本当に世界を揺るがす何かということかしら…」
「クハハハ。察しがいいな」

愉快そうに笑う男は少し、目が合った気がする。
その途端にゾクッと背筋に何かが通った。
走ってる時に頭の上から落ちた帽子が首の後ろで揺れて、その帽子を掴んだキャプテンが男と視線を塞ぐかのように私の頭の上に帽子をかぶせた。

「…この祭りの裏にはダグラス・バレットが絡んでいる」
「ガルツバーグの惨劇!あの大虐殺をおこした男が…」

ロビンさんの説明でも分からないし…何が大変かイマイチ分からない。
だけど…ダグラス・バレット…お父さんが過去に話していたような…

「鬼の跡目…ロジャーの後継者と目されるほど、その強さは際立っていたそうね」
「やつの能力は、少々やっかいでな…」

この口ぶりでは何かを協力するということなのだろうか。

「それで、わたしにどうしろと…」
「お前じゃない。用があるのはお前だ…トラファルガー・ロー。その傷はバレットにやられたか」

サラサラと砂になって消えたと思えば、私とキャプテンの背後にいきなり現れた。
どうやら砂になれるロギア系の能力者だろうか。

「策がある。おれに付き合え」
「…」

キャプテンは少し考えた後に頷いた。
サラサラと私の目の前に現れた砂男は、鉤爪を使って私の顎を掬い上げて強引に自分の方に向ける。

「ミョウジ中将の娘、ケアケアの実の能力者」
「…」
「触るな。コイツは関係ねェだろ、さっさと話せ」

鉤爪を鬼哭の柄で押しのけると、キャプテンが私と砂男の間に立つ。
さすがキャプテン。こんなデカい砂男に臆することなくいつも通り威圧感のある喋り方。

「クハハハ!ただのクルーじゃねェようだな!」
「時間もあまりねェんだ。雑談するために指名したんじゃねェんだろ」
「おいおい。先輩に対する態度じゃねェなァ」
「ああ…そりゃ悪ィな。おれが居た時には居なかったもんで、先輩とは知らなかった」

こ、こわい…。
元七武海同士で仲良くする気にはなってくれないらしい。
2人の言葉のやり取りはなんだかハラハラするというか、嫌味が込められすぎていて心臓に悪い。
というかこの人、本当に策などあるのだろうか。
実は元七武海同士、ちょっとお話でも…とかじゃないよね。

「ニコ屋、コイツを頼む」
「え、キャプテン!私も戦いますって!」
「馬鹿言ってんじゃねェ。船長命令聞けねェのか」
「聞けません!」
「てめェ…」「トラ男君、任せて」
「わっ、ちょっとロビンさん!」

キャプテンがキレる前に私の体をひょいっと抱き上げたロビンさんは、すぐにキャプテンと砂男に背中を向けて走り出した。

「ダメダメ!ロビンさん!」
「トラ男君の気持ちも分かってあげて」
「うっ…」

確かに近くに居ても役に立てないかもしれないが、キャプテンの傍に居れば能力が…。
いやでも…邪魔なのかもしれない。
貧血気味なのは変わらないし、意識なくなっちゃえばただのお荷物。

「あ、すいません!私走るので降ろして…っ!」
「あら?ふふ、別にいいのに」

地面に降ろされるとさっそく一緒になって走り出す。
それにしても、ロビンさんはいつでも冷静だな。
やっぱり経験値の差なのだろうか。

「ロビンとナマエの匂いだっ!」
「チョッパー?!」

トナカイになったチョッパー君の背中にブルックさんが乗っていて、私たちの姿を見つけた三人は私たちの元へすぐに近寄ってきた。

「無事で良かった…」
「スモーカーは?!」

私が問いかけるとサンジ君がため息交じりに答える。

「それが…いきなり血相を変えてどっかに…」
「なんだったんでしょうかね?」

本当に何だったのだろうか…もう何がなんだか分からない。
海軍も困惑している状況なのだろうか。

「あれ?ナマエちゃん、ローは?」
「…キャプテンはクロコダイルに連れられて戦いに向かいました」
「クロコダイルに…?」

大体の説明をロビンさんがサンジ君に話し、サンジ君は煙草に火をつける。
一服しながら考えるサンジ君をボーっと眺めていると、サンジ君は意を決したように立ち上がった。

「二手に分かれよう。チョッパーとブルックはバスターコールのことをルフィに伝えてくれ。おれとロビンちゃんとナマエちゃんで海図探しだ」

私とロビンさんで頷いて、再びあの地下奥深くまで向かうことにした。








書類を漁りながら私はキャプテンのことが気になった。
体力は温存出来ているが、怪我の治療はほぼ出来ていない。
なのに前線で戦っているのだろうか。
キャプテンは怪我しようが自分を少し顧みない戦い方をするから、心配だ。

私の不安そうな顔が伝わってしまったのか、サンジ君が私の頭をポンポンと撫でてくれた。

「ルフィだっているし、ローのやつは大丈夫だと思う。アイツはナマエちゃんが心配するようなことにならないよ。それにナマエちゃん大好きで独占欲が半端ない男が、ナマエちゃんを置いていくわけないって」
「…そうですかね…」
「まあ、もしも置いていくようなことがあれば、ルフィがナマエちゃんを仲間にって狙ってたから、奪われておれらの仲間になっちまえばいい」
「…キャプテン居なくても、私のお家はあの潜水艦ですから」

仲間か…。
そういえば、シャチたちは無事かな…。
島からは逃げられたのだろうけど、きっと近くで潜水して待機しているのだろう。

「なら尚更だろ。仲間と一緒に、自分の船長を信じるんだ」
「サンジ君…ありがとう…」

そうだ。あの時、最初にバレットに襲われた時にシャチとペンギンはキャプテンの言う通りすぐに出ていった。
キャプテンを信じてたからだ。ああ…もう、何やってるんだ、私は。

「みんなで脱出しよう!」
「元気でたみたいだね」
「うん!サンジ君、本当にありがとう!」
「その笑顔があればお礼なんて」

「あったわ!」

ロビンさんの声で私もサンジ君も手を止めた。
脱出するための海図。それさえあれば、あとはここから脱出するだけだ。

「危ない!」

戦いの影響か、天井の岩が崩れ落ちてきてロビンさんに降りかかろうとしている。
私が咄嗟に飛び出そうとすると誰かに抱きとめられた。
背中が暖かくなって、真横から火柱が巻き上がり、あっという間にロビンさんの上に降りかかる前に全てを一掃した。

「大丈夫かい?」
「サボさん?!」

ドレスローザで一緒に共闘した仲間。
ルフィ君のお兄ちゃんでもあって、革命軍のナンバー2で、ロビンさんもお世話になったのだとか。
慌てて体を退かすと、サボさんの白いネクタイとコートに少し血液が付着してしまっている。
こ、これはもしかして…

「す、すいません!私の血が!げっ!後頭部が再出血してる!」

後頭部に触れてみればぬるっと手に血液がついて、サンジ君にハンカチを渡された。
そのハンカチを頭に当てて止血するが、これはもしかして傷が深いのだろうか…。
どちらにしろ、脱出したらすぐに能力を使って傷を塞がなくては。

「もうここを出よう」
「あ!サボさん」
「ん?どうした?ナマエ」
「あの、もしもキャプテンに会ったら…ルフィ君の船で待ってるって伝えてもらってもいいですか?会ったらでいいんですけど…」
「あぁ、伝えておくよ」

サボさんが私を安心させるように頭をポンポンしてくれた後に、みんなで崩れかけている地下から脱出をした。









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