移動式要塞
「要するに、カーチャルもヤンもどうしたいかわからないってことですか?」
「カーチャルはヤンに隠し事がある。ヤンはカーチャルに隠し事がない。それぐらいならわかるさ」
薔薇の騎士の隊長は自慢気にいうがアッテンボローには気にくわなかった。
二人の話題はカーチャルとヤンの関係。イゼルローンが危ない今だからやっておきたい議論らしい。死後の世界で語るには味のない話らしい。
むしろ残しておき、死後の世界で酒を片手に語ればよいものを。
「まぁいい。ユリアンの策に動くとするか」
そんな話題にされている本人たちはイゼルローンの心配をしていた。
女帝は個人的にイゼルローンの兵を気に入っていた。同盟からしては不愉快かもしれないが。
ヤンにはフレデリカやユリアンのイゼルローンを敵に渡す気はなかった。もし、ヤンがイゼルローンにいたら放棄する手もあったが。
「もし、要塞をぶつけるなんてしたらどうする?」
「策がないわけではないが、それをやるならすでにやられているね。ラインハルト・フォン・ローエングラムがそんな人選をしないだろうしね。」
「自信家だったのか、ヤンは」
カーチャルの冗談はさておき、ヤンはかなり真剣だった。
そして女帝も真剣だった。ガイエスブルクが突っ込んできた際のシナリオができていた。
エンジンを壊せば狂う品でありと。そこらの劣化品より劣化しやすいだ。
女帝は念のために一人で数式だらけの地図と向かい合っていた。