移動式要塞
子どもの頃から優秀だった事実は認めよう。女帝はそう感じた。
叩き出した数式を目の前に目眩がしたが、それを軽く振り払う。彼女は倒れる訳にはいかないのだから。
数式を叩き出すまでにヤンは我々をイゼルローンに入れることに成功。周りが魔術師というのも頷ける。
例え、戦術レベルの話でも市民は知らない。しかも、美化してしまえば尚更だ。
「はあ、ユリアンに会えそうだな」
ユリアンは彼女には話しやすい相手になりつつある。紅茶の入れ方を教わりたいとは思わないが。
女帝は数式を見ながら、ガイエスブルグの動きを眺めた。ワープエンジンのうち、どれを壊せばイゼルローンに向かう軌道から外せるか、数式に出されている。
「体が柔らかいだけでなく、頭も柔らかいのですね」
フレデリカはカーチャルを誉めたが、カーチャルは首を振った。
「成功して初めて正しいといえる。第一、成功してほしくないがな」
ガイエスブルグを巻き込み、イゼルローンと自滅なんぞ考えたら怖い。それをされていたら、すでにイゼルローンはなかったのだから。
「確かに成功してほしくはありませんが、その数式は正しいですわ。」
「女の勘か?」
「勘は根拠に基づいているとご存じですか」
カーチャルは肩をすくめた。
フレデリカにヤンや女帝が勝てる日など来るはずがないのだから。