絶対の忠誠をここへ
ラインハルトから見ると、彼女を出来れば部下として加えたかった。
感覚、経験から捉える価値観、発想力を軍事、政治に使用してほしいと考えたからだ。
彼女が公文書まで頭がまわるとはラインハルトは考えていない。そのため、こちらから公文書を出して約束をすることにした。
マーティルダは公文書の存在を言われて初めて思い出した。

「あ、ラインハルト様が出さなかったら危ないところだった。」

彼女は口約束が拘束力の弱いものであると理解していた。
子どもの頃、友人と交わした口約束を破られて以来、彼女はきちんと口約束の危険性をわかっているはずだった。
緊張には勝てないらしいと彼女は割り切ることにした。

「伯爵令嬢マーティルダ、もしよろしければ、その発想力を私の下で振る舞う気はないかな」
「え、何をですか」

マーティルダには予想外の展開に頭が追い付かなかった。
いや、部下にならないか、と聞かれていることに気づいていなかった。
また天井を見上げ、しばらく考え込んだ。ラインハルトの言葉の意味に気づくと、軽く座りながら跳ねた。

「私、頭、悪いんですが。それに見て分かるように敬語できませんから。」
「これから身に付ければ良い。諦めるにはまだ早い。」

マーティルダにとってその言葉は支えになった。
マーティルダ家の変わり者、落ちこぼれと言われた彼女には、ラインハルトのような言葉を言う人物が一人しかいなかった。
それは今は亡き父である。
亡き母は落ちこぼれを産み落とした自らを呪い、命を絶つ選択をした。
父はすでに病気で動けず、その死を聞かされたが何も出来なかった。父は娘を落ちこぼれとして見てはいなかった。
そう言われたからそうなってしまったと、その環境を憎んでいた。
召使いは皆、娘を落ちこぼれとして見ていた。それは今でも変わらない。
父は死ぬまでずっと彼女を励まし続けていた。

「・・・私は絶対の忠誠を約束しましたから。こんな私で良ければ。」

マーティルダは複雑な心境にいた。
ラインハルトに忠誠を誓う覚悟はしていた。しかし、軍という場所で自らの居場所を確立出来る自信がなかったのだ。
彼女は不安を振り払うため、今は良い上司と巡り会うこと、荷物まとめだけを考えるとした。

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