反対を向く二人
参謀長であるオーベルシュタインに、背の低い子どものような部下が出来たと話題になった。
破天荒な娘を連れる冷静すぎる父親と噂されたが、まず二人が一緒にいることがなかった。
マーティルダに託されたのは、時として奇想天外な意見であり、事務的仕事や戦略ではない。
彼女はまず学問から始めるべきでもあった。
マーティルダのおかげか、同様にオーベルシュタインの部下なりたてのフェルナーが白眼視されることはなかった。
マーティルダは本を読みながら歩いているところをよく目撃された。
その度に「小さな女の子が絵本を読んでいる」風に言われた。
そんなある日であった。
 
マーティルダは食堂に来ていた。
そこで見たのはある人物が咳をしているところだった。
その人物は“疾風”と言う異名を持つものであると、彼女は後に知る。
彼女はその人物が辛いものを食べて咳をしていると気付き、飲み物を親切に渡してあげた。
“疾風”の異名を持つものは、飲み物が炭酸飲料であることに驚いた。
普通なら水を渡すものである。

「辛いもの食べて、炭酸飲料を飲んだらよくなったことがあるから。大丈夫ですか」
「あ、あぁ。すまない。だいぶよくなったよ。君は確かオーベルシュタインの部下の・・・」
「はい、マーティルダです。お名前、聞いても宜しいですか」
「ミッターマイヤーと呼んでくれ」
「“疾風ウォルフ”ですか。」

彼女はここは歴史が綴られていく現場であることを改めて知った。
そして、自分もその小さな歯車の一つなのだと。
ミッターマイヤーの後ろに現れたのは、“金銀妖瞳”をもつ人物であった。
彼女は左右の目の色から、ミッターマイヤーの時より早くその人物の認識が出来た。
ロイエンタールは現在の噂にたつ人物を見て、改めて「子どもだな」と思っていた。
マーティルダの方は今を生きる武人の左右の目を見て、改めて「美しい」と思っていた。

「オーベルシュタインの部下として居心地は如何かな」
「あまり話さないからなんとも言えません。事務的仕事は私にはできません。秘書としてコーヒーをお出しすることすら自信がありません。」
「たった今、ミッターマイヤーに飲み物を出したが」
「困ってたからやりました。」

ロイエンタールはマーティルダの素直さに感心しつつ、同情をした。
彼女の発想は女性に強い傾向のある水平思考だからだ。
理論と正論のオーベルシュタインとは真逆な立ち位置にいる。
だからこそ、敢えて参謀長の部下になったのかも知れない。

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