第6話 食糧不足を脱出せよ 1/5
あの日から寂しいと思ったことは多かった。自分の世界で、光の戦士と呼ばれて、混沌から世界を救う。何かやっていれば忘れられる。過去に背を向けていられた。自分が今、ここにいて指揮をすることも恐らくはそのためだ。彼は呪文のように言う。言い聞かせているに違いない。
そう言えば、大丈夫だと。過去を思い出せないことが、皆と離れたことでこんな不安になるなど思わなかった。だから、周りに言っていたことを次は自分に言う。
「私の光は揺るがない」

ここは機械都市のようだが、正直自分が生きていた町に比べたら暗いと思う。誰かが下らない話で騒いだり、スポーツの試合があるわけでもない。ただ静かに、何かに恐れているように、ゆっくり暮らしているだけ。
はじめて町に来たときは、その理由が分からなかったが、今ではよく理解している。『審判者』とかいう組織が占拠しているらしく、自分たちにとって厄介な奴らを苛めているとか。
自分にとって訳の分からない所に飛ばされることには慣れている。だから、旅人を装い、知らないことを聞いてまわった。スフィアも召喚士もいない世界に迷い込んだと気づいた時には、怖いと思ったけど仲間がいたから大丈夫だった。人間と幻獣のハーフであるティナ。小さいけど何やら凄い称号を持っているらしいオニオンナイト。
むしろ、問題は金がないこと。出会った時に念のため互いの金を見せあったのだが、合わせて10235ギルしかなかった。金さえあればなんとかなるかも知れないが、肝心な物がなければどうしようもない。情報収集が終わったところで、アルバイト探しになった。
意外にも呆気なく見つかってくれた。パン屋の子供にボールの投げ方を教えたら、不思議となつかれて、気がついたら三人でそのパン屋のバイトをすることに。しかも、町を離れるまで泊まらせてくれる得点つき。オニオンナイトが二つ目は遠慮したが、おばさんに強引に泊められた。『審判者』の連中が宿屋を出入りしているため、子供三人を宿屋になんて連れていけないとのこと。こうして、しばらくの間パン屋にお世話になることにした。

「ティーダお兄ちゃん、これなーに?
綺麗なボールだね」
「これはスフィアっていう……なんなんスかね。
えーと、ボールっスね」

幻光虫を含んだ水で出来た物体スフィアを少年は握っていた。確か、このスフィアは録画及び再生用のものだったのではないか。ティーダ自身があまり記憶していなかったようだ。割れたの欠片をくっつけて何事もなかったように使ったり、そもそも水で出来ているのに割れたりと謎めいた代物だ。

「あげるっス」
「ほんと?」
「これはたぶん、撮影用のスフィア……だと思う。
再生もできるっスよ。たぶん、未使用っス」

かなり曖昧なことばかりいうティーダだが、少年は喜んでスフィアを受け取った。マスタースフィアをくれと言われなかったことは、ティーダには有り難かったようだ。
もう少し少年と遊んでいると、なんとオニオンナイトから、おたまを投げつけられた。さっさと帰宅しろ、と怒っているらしい。これがティナだったら、メルトンなんてされたりして、などと思うとマシだろう。
ティーダは少年を肩車して、颯爽とパン屋に戻っていった。
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