第5話 満腹だニャ 2/2
落ちた先は神秘的な場所だった。セシルとカインは、すぐにクリスタルルームであると気づく。予想通り、招き猫がクリスタルルームへの扉だったようだ。クリスタルの存在に気づいた彼らは、二人よりも後ではあるが、ちゃんとクリスタルルームだと認識する。

「落とし穴でクリスタルの場所につくとか、この世界おかしくないか!?」

それを言い出したら、宇宙で危ない事態に陥ってもカード優先なスコールの方がおかしいと思う。
全員は黒く闇に染まったクリスタルを眺めた。正直、なんでクリスタルルームに来たのか、色々ありすぎて思い出せそうにない。確か、七賢者を探していたはずだ。だが、七賢者がクリスタルルームへの道を、あんな鍵にしていたら、セシルの言い出した意見はあまり意味がなかったようだ。

「成る程、これがクリスタルか」

彼らはこの声でやっと自分たち以外の人物がいることに気づいた。スーツを着て、微笑みを浮かべながらクリスタルを見ている。
今までの勘のようなものが、この男を信用してはいけないと囁いてきた。それに気づいたのか。男はクリスタルから目を離し、彼らに目を向けた。少し、エセ紳士に見えた。

「君たちの敵じゃないさ。むしろ、光を開放しようとする一人さ」
「……次は宗教団体か何かか?」
「闇によって閉じ込められているクリスタルの光を開放するため、破壊しようというわけさ」
「破壊!?」

レイナが騒いだと、コイツが同時にやっぱりエセ紳士な気がした。クリスタルが壊されたらどうなるのか、実は知らない。確かに、彼のいう通り光を開放できる可能性はある。ただし、破壊の影響で何が起きるか分からない、一種の賭けだ。下手をしたら事態は悪化するかもしれない。何もしないよりかマシかもしれないが、何もしない方がいい場合もある。
考えている間に、男が強い魔法を放ってきた。当たりそうになるレイナを、フリオニールが手を引いて回避させる。しかし、クリスタルには当たってしまった。

「ふむ。では失礼するよ。
テレポ!!」

クリスタルルームでテレポが出来たことも、相当驚きだが、クリスタルが割れた今なら出来なくもないのだろう。割れたクリスタルを見ながら、なんとも言いがたい気持ちになる。誰もが沈黙を守るなか、ラグナが口を開いた。

「悩んでても仕方がない。割れちゃったもんは割れたんだ。
今やるべきはどうするか、だろ」
「……目的はあんたらが無事に元の世界に帰ることだ」

暗い顔から真面目な顔で言うレイナに対し、ラグナは戯けてみせる。

「本当にそれでいいのかー?
自分の世界が危ないのを見過ごして、オレたちを無事に帰して、君はこの世界と一緒に消滅。
そりゃーちょっと後味が悪いな」
「何を言ってるんだ!!
自分たちの世界じゃないのに、首を突っ込んで自滅でもしたらどうする。
帰りを待ってる人がいるんだろ!?」

セシルやカイン、フリオニールにしてみたら、今更な話だった。この世界に来て、彼女から事情を聞いた時点で首を突っ込むつもりでいる。修羅場なら嫌というほど潜ってきたし、これより酷い世界も知っている。神々の闘争よりいくらかマシにすら思える。

「フッ……今さら、だな」
「きっと他にも仲間が来ているだろうし。リーダーなら見過ごさないよ」
「まぶしい奴か。確かにいるかもな」
「レディの頼みとあれば世界を救って、帰る方法も探すさ。
宝探しは得意だからな」
「これでも自分の世界でクリスタルに選ばれたことがあるから、大丈夫だろうな!!
風が導いてくれるさ」
「おじちゃんに任せて、泥船に乗った気でいなさい!!」
「ラグナ、泥船だと沈むんじゃないか?
この世界が闇に飲まれる影響でここに来たんなら、俺達はこの世界を見過ごしてはいけない」

浮かない顔をしていたレイナだったが、説得できないと悟ったのだろう。苦笑いを浮かべて大きくうなずいてみせた。
この旅の先で得るものと失うもの。そして、一番大切なものを知る旅のスタート地点にやっと立ったのだ。
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