恋愛感情

面倒くさい。

ただこの一言につきる。












ー恋愛感情ー










「音羽、いい加減起きなよ」
「…まだ寝る」
「いい大人がこんな時間までダラダラ寝ないでほしいんだけど…」
「カヲルこそ子どものくせしてそんな規則正しいのわけわかんない…」

ペラリと布団を捲られればそれを奪い返して蹲る。
布団の中はどうしてこんなにも気持ちいいのか。

「音羽…」
「というかなんであんた私の部屋にいるの?」

同じマンションで部屋が隣っていうだけ。
それだけの関係だ。

「合鍵を作っておいたんだ」
「ねえそれ犯罪」

平気でちらっと鍵を見せてくるカヲルに音羽は深くため息をついた。

「あんたなんでそこまで私に関わるわけ?」
「音羽が気になるから」
「はい?」
「男に振られて傷心中の君の変化が見たい?」
「…っ!」

パン。と乾いた音が部屋に響いた。

「…からかいなら、今すぐ出て行ってよ…!」

カヲルをキツく睨み上げながら涙を流す音羽。
カヲルは叩かれた所に触れては目を微かに伏せた。

「ほんと…リリンの感情ってわかんない」
「は?何、喧嘩売ってんの?」

カヲルの言葉に神経を逆なでされたのか音羽の顔はより一層険しくなる。

「なんでたった一人なんかのためにそこまで感情が揺れるのかがわかんない…」
「それはあんたが何もわかってないお子ちゃまだからよ…!」

音羽はカヲルにバシッと枕を投げつける。

「私を笑いにきたの!?ほっといてよ!!」
「なんで?」
「は?」
「笑う意味もないよ。そんな感情わからないのに」
「…っ!出てけ!!」

今度は時計を投げつける。が、カヲルは難なく受け止めた。

「…わかったよ」

カヲルはそれからこなくなった。




「…」

部屋の中でノートパソコンのキーボードを鳴らす音が聞こえる。
カタカタ。
カタ…。

ちらりとドアの方へと視線を送っては戻してまたキーボードへと手を置いた。

「1週間、ね…」

どれだけ長くても4日もすれば顔を出していた彼は、もう1週間も顔を出していなかった。

「さすがに言い過ぎたかなあ…」

自分も大人気なかったと思う。
気持ちの整理がついていなかったにしても、子どもにあんな八つ当たりをするなんて。

「そういえば、避難警告出てきた時もいなかったな…」

つい2日程前。
使徒がくるとかで避難警告が出された。
思わず彼の部屋のドアを叩いたが反応はなし。
どうやら外出しているようだととりあえず自分は避難したが…。

「無事、よね…」

集中出来ず、ノートパソコンを閉じ、足は自然と彼の部屋へと動いていった。
そして呼び鈴を鳴らす。
とりあえずいた時の為に手土産は持って。

「はい…ああ、音羽」
「生きてた」

だるそうに扉を開けて出てきたカヲル。
よかったと思う反面、何か疲れているようにも見える。

「どうかしたの?」
「別に…今人が泊まりに来てるだけだよ」
「あれ、そうだったんだ」

そもそもこの子に友達なんかいたのか。なんて失礼な事も考えたけれど。

「…ねえ音羽」
「ん?」
「生暖かくて、気持ち悪いものが渦巻いて…胸を締め付けていく感じ…あれが好きって感情?」
「はい?」

この子はいきなり何を言い出すんだと思わず変な声が漏れた。

「あれがそうなら、君はあの時こんな気持ちだったのかな」
「…」

1週間も経ってまだその話を引きずられるなんて思ってもみなかった。
が、もうそれなりに心の整理はついた。

「…そうね、その人の事を考えるだけで気持ちが暖かくなる。その人が他の人といると思えば嫌な気持ちがが渦巻く。でも、きゅうって…胸が締め付けられて切ないの」

あの時感じていた感情は悲しみだけれど。
好きという感情を表すなら。

「そうね、それが好きって感情よ」

もう終わってしまったけれど。
彼の事を考えてまだ少し胸がきゅっと締め付けられるのはきっとまだ好きなんだろう。

「…そう…」

カヲルは返事をすると音羽の頬に触れる。
音羽は不思議そうに首を傾げた。

「じゃあ、きっと。君に向けられるこの気持ちもそうなんだろうね」

その気持ちが僕に向いたらどうなるんだろう。なんて聞かれたものだから思わず笑った。

「カヲルが私の事好き?それで私がカヲルを好きになったら?そりゃ、嬉しいんじゃないかしら」

なんとも簡単な答え。
けれで彼にはまだ難しいようだ、首を傾げている。

「まだまだお子様ね」





この会話は。
彼との最後の会話だった。





「…あれえ?」

また暫く来ないなと足を彼の家へと動かした。
けれどそこには人が住んで居ないという時に貼られるテープ等があった。

「引っ越した…?何よ、挨拶ぐらいしてくれてもいいじゃない…」

最後の会話は悪いものではなかったけれど。
何かしただろうかと思いながらも足を翻した。

「最後の最後まで自分勝手な奴」

そんな彼女は
彼がもう居ないなんて
わかるはずが無かった。





2016.09.17.








まさか最後の最後で君を好きだと気づくなんて

思いもしなかった。

僕をたとえ好きじゃなかったとしても
きっと君は悲しむから。


だから何も言わずさよならだ。




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