もしトリップ物語を書くのなら





「生まれたのが男ならよかったのに」

どうして
そんな悲しい事を言うの。

「なんで男を生まなかったんだ!」
「そんなのどうしようもないじゃない!」

やめて

「こんな事になるなら産まなきゃよかった!」




やめて













ー僕と君の非日常ー









望まれていなかったから
事故に遭ったのだろうか。

「大変です、血が止まりません!!」
「急いで!輸血!」
「こっちにも手助けを!」
「こっちも一杯よ!学生何人いると思ってるの!?」

バス交通事故。
修学旅行に向かっているバスでの出来事だった。
反対道路からトラックが突っ込んできた。

「…っ」

ピクリと動く指先。
流れる涙。

「頑張って、お願い、頑張って!」

ボヤける視界で目の前にいた女の人が何かを言っている。

「…た、い」

声に出そうとして開いた口から出るはずの声が出ない。
私ははいらない子だったの?
男の子だったらよかったの?
ねえ、パパ、ママ。
だからこんな事が起こったの?

『生きたい』

口パクでもいい。
誰でもいい。
伝えたい。
伝わって欲しい。

私は生きたい。

生きさせて。


『君が生きる世界はここではなかったようだ』

ボヤけた女の人の後ろにいた人。
とても綺麗な白の服を纏っていた。

『君の願いは聞き届けた。君の意思の強さに免じてだ』
『あなたは…』
『…君たちは産まれる時に記憶を無くしているからね…私の事なんてわからないだろう』
『…神様…?』
『ふふ、そうだね、人はそう呼ぶね。さあ、今度こそ君が決めた生を生きるんだ』

もう意識を保っていられない。
最後に嘘でも、そう言って貰えた事が嬉しくて。
思わず笑ったんだ。

そして私はそのまま目を閉じて身体の冷えていく感覚を味わいながら意識を手放した。








パパ
ママ

私は生きたかった。
生きる事を楽しみたかった。

例え望まれていなくても________



「目を覚ましたわ」
「そう、無事だったのね」

目を開いて聞こえてきた声に私は焦点を合わせる事に必死だった。

「にしてもあんなところで捨てられるなんて…この子も可哀想ね」
「しかもこの歳でね。珍しい事じゃない?」
「逃げるのに足手まといだと思ったのか…なんとも言えないわね」
「あ、の…?」
「あら、声ももう出せるみたいね」
「よかったわ」
「ここは…?」

女の人二人に挟まれて目が覚めたのはベッドの上。
左腕にある違和感は点滴だった。

「初めまして楠木音羽ちゃん。あなたシェルター前で倒れてたのよ」
「シェルター…?」
「倒れてたというよりは、見捨てられてたという方が…」
「ちょっとリツコ、やめてよ」

シェルター?何を言っているのだこの人たちは。

「運がいいのか悪いのか、渚くんが見つけてくれなかったらどうなってたかわからないわね」
「結構激しい戦闘だったしねー…」
「あの…私はバスの交通事故で、それでここに運ばれたんじゃ…他の皆は…」

私の言葉に二人とも目を見開くとすぐに悲しそうな顔をした。
それにしてもどこかで見た事のある二人だ。

「記憶が錯乱しているのかしら…」

可哀想に。と頭を撫でられる。
私は混乱する他なかった。
死んだと思っていたのに、生きている。

「パパと、ママは…?」

生きているという事は連絡がいっているはずだ。来る来ないは別にして。

「…あなたの着ていた服のポケットからこれが出てきたわ」

そういってミサトは音羽に一枚の紙を渡す。

ー名前を楠木音羽と言います。どうぞよろしくお願いします。ー

その紙を読んで音羽はきょとんとした。

「これは…?」
「おそらくあなたの両親が書いたものじゃないかと思うわ」
「…」

いや、お世辞にもパパとママはこんなに字が綺麗とは言えない。
丁寧で、見ているだけで慈愛に満ちているような。

「…まさか…」

意識を手放す前のやり取りを思い出す。
もしあれが、自分が死ぬ間際に作り出した幻想じゃなくて
本当にあった事だとすれば。

「すみません、ここは、ここはどこですか?!」
「ネルフ本部内にある病室よ」
「ネル、フ…?」

どこかで聞いたことがある、どこでだ。
そう思考を巡らせ没頭していると扉の開く音がした。

「あら渚くん、どうしたの?」
「一応僕が保護したので、どうなったのか気になって」
「あらそうなの。意識が戻ったの。今から詳細を話すところよ」

その声の方に顔を向ければ目を見開く他なかった。

『音羽!今オススメの漫画!見て見て!』
『えー、これ電気街のテレビでたまに見てたけど、なんか難しくてよくわかんない』
『何言ってるの!カヲルくん見てよ!カッコいいから!』

もう既に遠い昔のように感じる記憶。
漫画が大好きだった友達から借りて読んでいた漫画。
リツコ。渚。シェルター。ネルフ。
今までの会話を思い出せば繋がっていく。

「渚…カヲル…」

生きたいと願った。
確かに願った。

「やあ、気分はどうだい?」

でもまさかこんな展開になるなんて






誰が思っただろうか。










2016.09.10.

作者は思ってました。
もしもトリップを書くとしたら。という設定でした。
続きません。

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