7th:どうしてこうなった
「いっそこれから行くのはどうだい?」
「へ」
カヲルの言葉にその場にいた全員が目を見開く。
「何言ってるのよカヲル、授業を抜け出すなんてそんなのできるわけないでしょ」
「でも僕らはもう図書室には戻れなさそうだし、そのスマホとやらがない限り連絡を取るのも不可。となるとさっきみたいな騒ぎになるのは…」
「ストップ、ストップカヲル。わかってる。わかってるけど」
音羽は手をカヲルの目の前に出しそれ以上言うなとでも言うような顔をした。
「でも私はこの学校を無遅刻無欠席で卒業するって決めてるのよ」
「そうなのかい?…そうだな…じゃあこういうのはどうだろう?」
「?」
カヲルの言葉に全員が疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「……」
クラス全員からの視線が痛い。
痛すぎる。
「音羽、顔色が悪いようだけどどうしたんだい?」
「カヲルのせいだよ」
「しょうがないよ、音羽がサボりたくないって言ったから最善の策を取ったまでだ」
「だからってっ」
音羽のいる教室。
音羽の隣の席に座るカヲル。
そんな二人をじっと見ているクラスメイト達。
「なんっで中学生の貴方が私たちと同じ高校の授業を見学する必要があるのよっ」
「おい楠木。静かにしなさい」
「は、はいっ」
名指しされ音羽は返事をすると恥ずかしそうに縮こまった。
「いいね、音羽の恥ずかしがる顔」
「カヲル。とりあえず黙って」
恥ずかしさのあまりにもうそれしか言えなかった。
ちなみにシンジは希美のクラスである。
「理事長もよく快くOKしたなあ…」
クラスメイトから注目されるのなんて目に見えてただろうに。
それとも二人が転入した時点でそうなる事がわかっていたからなのか。
あの人は穏やかに見えてそういうところは地味に鋭かったりする。
「…ん?」
思考に溺れてると隣からカリカリとペンの音が聞こえる。
隣にいるのはもちろんカヲルだ。
「カヲル?何書いてるの?」
「さっき理事長からプリントを貰ってね。多分転入の際の学力テストだと思うけど」
「ああ、そっか。明日転入とはいえ一応学力は見ておかなきゃってことか…」
という事はシンジも今頃希美の隣でやっているのかもしれない。
なら別に休憩時間以外は特に気にする事もないのかな。と、クラスメイトの視線は痛い中自分も授業に集中する事にした。
「にしてもこの問題…」
「ん?どうかした?」
「いや…こっちの世界の中学生学業のレベルは高いね」
「そんなに違う?」
「まあ向こうはパソコンを使っているからね、こうやって手書きで前の先生を見ていた訳でもないし」
「そっか、やり方自体違うからそれなりの違いはやっぱりあるのかも」
こっちからすればパソコンで授業なんざやってる向こうの方がハイスペックな気もするが。
まあそもそも結構昔からやっていた作品だ、2016年なんて作品の年すら超えている。
それを考えたらある意味難易度は上がっているのかもしれない。
「…変な感じ」
今日だけとはいえ、隣にはカヲルがいる。
視線が痛いなんて言ったけれど会話をしていれば気にしない。
この教室でこんなに穏やかな空気が流れるとは思わなかった。
「音羽ー」
屋上で座って空を眺めていると希美が声を掛けてきた。
「カヲルは?」
「理事長に渡されたプリント届けてくるって」
「あれ、カヲルはもうできたんだ?」
「てことはシンジはまだなの?」
「んー、一応できてはいたみたいだけど、すごく不安そうだった」
「カヲル曰く難しかったらしいしね」
「エヴァの授業内容どんな感じだったんだろうねー」
確かに気になる。なんて笑えば希美も笑った。
正直、明日からこうやってカヲルと授業を受けたい。なんて思ってしまう。
それぐらい心地よかった。
「敷地が一緒でも、遠く感じるんだろうなあ…」
「まあ年が違うんじゃ仕方ないよね」
ガチャリ。屋上の扉が開く。
「音羽」
「おかえりカヲル」
音羽が笑いながらカヲルを迎えるとカヲルは手招きをした。
「どうしたの?」
「理事長が呼んでいるんだ。まだスマホも持っていないから連絡の取りようもなくてね」
「あ、そっか。一緒に行けばよかったね」
そう言って立ち上がると3人は理事長室へと向かう。
そして、理事長から出た言葉に固まった。
「カヲル達を、中学ではなく高校に転入…!?」
「そうだ」
「ちょ、ちょっとまってください、彼等はまだ中学生ですよ!?」
「海外から来たのだろう?ならそれなりの学力を持っているのかもしれないと学力テストをしたんだよ」
その言葉に先ほどカヲルが解いてたプリント用紙を思い出す。
「ま、まさか…」
「二人とも合格点だよ。高校入学でも惜しみない」
理事長の言葉に音羽は一気に力が抜けた。
「大丈夫かい音羽?」
カヲルはそんな音羽に手を差し伸べる。
「え、う、うん…」
音羽はその手を取りゆっくりと立ち上がった。
「僕たちは音羽と同じ高校に行けるということなのかい?」
「そういう事だ」
理事長はそういうとにこやかに笑う。
「特に、渚くんは楠木くんと居たいようだからね」
理事長の言葉にカヲルは目を見開いた。
「僕が?」
「おや、気のせいだったかな?だとしたら余計な事をしたようだ」
「いえ」
大丈夫です。というカヲルの顔は理事長に向けられているため、音羽達からは見えない。
だが、理事長はとても嬉しそうな顔をしていた。
「ならよかったよ。さすがに制服は明日になる、明日は私服で来てくれて構わんよ」
「え、ちょ、理事長私たちを置いてけぼりにしないでください」
「おや、嫌なのかね?」
「うっ、い…嫌というわけでは…」
「ならば問題ないだろう。明日帰る前にまたここに寄ってくれ」
理事長の笑顔に顔が引きつった。
本当この人はなんでもお見通しみたいな感じがして
正直ちょっと苦手だ。
to be continue.
2016.08.26.
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