3rd:家族

「まさか音羽が原因とはねえ…」
「いやいや確定しないで希美」
「そうだね、君にそんな力があるとはとても思えないし…」
「れっきとした一般人です。神でもなんでもありません」

それぞれが様々な解釈をしている中で、シンジだけ不思議そうに周りを眺めていた。

「まあ何が原因にせよ、ここに留まらなければいけないならここで生きる術を身につけなければいけないね…」
「ああ、それなら…」

音羽が切り出そうとした時、携帯の着信音が鳴る。
その画面を見た瞬間音羽がやってしまったというような顔をして耳とスマホの距離を離した状態で通話ボタンをタップ。

『お嬢様ー!!こんなお時間まで家に帰宅なさらず何をしておられるかー!!』

充分な距離をとっているというのに周りが驚くような響き声。
希美は苦笑いをしている。

「じぃ、悪かったわよ…迎えを寄越さないでと言ったけれど今日は甘んじていいかしら」
『明日からもしますぞ!』
「それは勘弁。今日は色々あったの。明日からはちゃんと帰るわ、約束」
『……とにかく迎えを寄越します、お戻りください』
「ええ、わかったわ。あと…お父様にお時間とってもらって。お話があるの」
『かしこまりました』

ツーツー。と無機質な音が響く。
音羽は小さくため息をついた。

「じぃさん?」

希美は可笑しそうに笑った。

「うん。でも今回は完全に私の否ね。連絡しなかったし」

希美と音羽の反応にカヲルとしんじは不思議そうに首を傾げた。

「今の電話はなんだい?」
「あー。過保護なじぃさんからの電話?」
「まあ、あながち間違ってはいないわ」

音羽がため息をつくと希美は苦笑いを零した。

「話がズレたけど、貴方達2人にはこれから私の家に住んでもらおうと思うの」
「え」
「確かに、それが得策だろうね〜」
「いいのかい?」
「ええ。ここでさよならした所で行く宛もないだろうし、ホームレス生活になるわよ」

音羽はオーダーシートを手に取るとカタリと立ち上がった。

「大丈夫、何も心配しなくていいから」





「旦那様、音羽様がお帰りになられました」
「おおそうか、通しなさい」
「かしこまりました」

メイドと思わしき人物はお辞儀をするとキィ。と扉を開いた。

「ただいま戻りましたお父様」
「お帰り音羽……ん?その者達は?」

音羽の後ろでキョロキョロと辺りを見回していたしんじはその声に向き直る。

「あ、えと」
「あら、お父様もよくご存知のエヴァンゲリオンの渚カヲルと碇シンジですが」
「ちょ、音羽!?」

音羽の発言に希美は驚き思わず肩を掴む。

「いいから」
「ほう、所謂コスプレイヤーというやつか、プラグスーツの質感まで想像したもの以上にリアルで凝っているな」
「そうなんですお父様。この2人、実は外国から来た者達です」
「ほう?」
「海外のこの2人の産みの親がエヴァンゲリオンが好きすぎて、渚カヲルと、碇シンジという名を子ども達にそのまま付けてしまったのです!」
「なんだと!?」

音羽の発言に希美は苦笑いしか出てこなかった。

「音羽のお父さん乗るんだ…」
「更にはそのまま日本に留学という話だったのですがまさかの手違いで母国に帰れなくなり、途方にくれてしまっていたところを保護した次第です」

力説をかます音羽を見てシンジは希美にこそりと近づいた。

「あの、なんか無理ありませんか?」
「うん、私もそう思う…」

音羽の父親はカヲルの方へ視線を向ける。

「だがコスプレにしては本人と言ってもいいぐらいの精密さだ」
「だってお父様。これ、地毛ですよ。目も元々赤です」
「な、なんだと…!?」
「だからこそこの2人の両親はこの名前をつけたのではないかと私は推測するのですが」
「な、なるほど…」

音羽の父親は顎に手を当てながらじっくりとカヲルを観察する。

『初めましてお父様。渚カヲルです』
『む、すまない、英語が母国語か?』
「あ、すみません日本語で大丈夫ですよ。一応海外から来たという証明にと思っただけなので」
「おお、そうか。気を遣わせてしまったな」
「いえ、僕らは親にされるがままこの格好できたもので、どうしたものかと途方に暮れていた所を彼女に助けられました」

カヲルは音羽に目を向けるとほくそ笑んだ。
音羽も笑みを返す。

「え、なんか行けそうな感じ?」
「で、でしょうか…?」

希美とシンジに至ってはあいかわらずおいてけぼりである。

「そうか、ならば親の元にもどれるようになるまでうちに住めばいい。部屋は有り余っているしな」
「!ありがとうお父様!」

音羽は勢い良く父親に飛びついた。
父親は難なくそれを受け止める。

「お前が人助けをしている姿に感動しない訳がないだろう。私も喜んで手伝うさ」

そんな2人を見て他3人は呆然としている。

「えと、上手くいったみたいね?」
「カヲル君凄いね、合わせれるなんて」
「お世話になるならそれなりの手助けはしておこうと思ってね。タイミングを見るのに少し苦労はしたかな」
「ありがとう渚カヲル」

音羽は3人の元に駆け寄りカヲルに礼を述べた。

「いや、お礼を言うのは僕らのほうかな…あと、カヲルでいいよ」
「あ、ぼ、僕も…シンジでいいです」

二人の言葉に音羽は満面の笑みを浮かべた。

「カヲル、シンジ。これからは家族同然よ、よろしくね」

音羽のその笑顔に希美は小さく息をつきながらも穏やかな笑みを浮かべた。

「希美、今日は泊まっていくでしょ?」
「もちろん。私も音羽の家族同然だし?」

希美の言葉に音羽はまた笑みを浮かべ手を取った。

「ありがとう」
「何かしこまってんのよバーカ」

希美は音羽の額に軽くデコピンをした。

「あー、ここにいる皆抱きしめたいくらい」
「そんな器用なことができるのかい?」
「たんなる言葉遊びよ」






家族が増えるって嬉しいじゃない。






to be continue.
2016.08.21.

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