9th:子どもみたいに

ガヤガヤとしているファミレス。
やはり目立つだろうと思い、途中で春物のニット帽とサングラスをカヲルに買って付けさせた。
昨日みたいな喫茶店ならあまり人もこないレトロな雰囲気なので問題はなかったのだが。

「シンジは期間限定のパフェでしょ?」
「じゃあ私もそれにしようかな」
「私はどうしようかな…」

迷っている音羽の横でカヲルが笑いながらじっと見ている。

「何、私何か変なこと言った?」
「ふふ」
「え?」

カヲルに問いかけてる筈なのになぜか希美から笑みが溢れて音羽は不思議そうにする。

「音羽、僕らの前で話し方が変わったんだよ」
「っ、あ」

シンジの言葉に音羽は思わず自分の口元を抑える。

「いつも気を張っているというか、お嬢様言葉だろう?それが消えてるのが嬉しくてね」
「まあ人前だといつものお嬢様言葉だけどね」
「僕たちの前でだけかあ…うん、なんだかいいねそれ」

各々の意見がだんだん音羽の顔を赤くさせる。

「べ、別に意識してそんな言葉にしてるわけじゃっ」
「意識してたらある意味凄いわよ、きっと昔からの教育の賜物ね」
「うう…」

お父様に少しでも近付きたい。
だから頑張らないと。

でも

大人になるのは窮屈で




「音羽?」
「え」

カヲルに名前を呼ばれてハッと我に帰る。

「ぼーっとしてどうしたんだい?」
「な、なんでもない!」

音羽はブンブンと手を振る。
カヲルはそんな音羽を見てまた笑った。

「うん、そっちの方が僕は好きだな」
「私も」
「僕も」
「もうっ!私でからかうの禁止!」

さっさと頼むわよ。と音羽は店員を呼ぶためにボタンを一つ押した。








「で、これがマインでしょ。ダンロードして…」
「これ一つにここまで…本当に人間の技術は発展していくんだね」

カヲルの言葉にもう慣れてしまったものの、他の人からすれば人間人間連呼してたら違和感半端ないだろうなと音羽は思いつつ子どもみたいにはしゃぐカヲルを見て微笑ましく笑みを浮かべる。

「で、QRコードっていうのでこうやってかざして読み取る」
「そしたらどうなるんだい?」
「こうやってカヲルがさっき作ったマインが出てきます」
「つまりこれで音羽と繋がれたのかい?」
「うんそう、で、こうやって」

音羽はマインを開いてスタンプを押す。
するとカヲルのEphoneから通知音が鳴る。

「今の音は?」
「私からメッセージが来たよーって音」
「へえ」

カヲルはワクワクしながら自分のマインを開く。
そして見た瞬間にきょとんとした顔をする。

「メッセージじゃないけど、これは壊れてるのかい?」
「あはっ違うよカヲル、これはスタンプって言って、色んな種類があるの」

音羽はそう言って先程送ったスタンプの欄をカヲルに見せる。

「へえ、横に文字があるやつもあって感情表現がしやすくなってるんだね」
「そう。この猫スタンプカヲルみたいだなーって思わず買っちゃったんだよね」

音羽はそう言うとへへ。と子どもみたいな照れ顔で笑う。
カヲルはそんな音羽を見てきょとんとした。

「僕みたい…?」

僕みたいだから買ったのか。
わざわざ。

「…っ」

なんだこれ。とカヲルはきょとんとした顔のまま顔を赤くした。

「…へ」

音羽もつられて赤くなる。

「はーいバカップルさーん。公衆の面前で、というか私たちの前でイチャこくなー」
「ばっ、のぞ、してないわよ!」

カヲルは自分の口元を隠すと自分の中にある不思議な感情がなんなのかとひたすら考える。
シンジの方をちらりと見ては、違う。と再び机の上へと視線を戻す。

「シンジくんに感じるものとは別。という事は好意ではないのか…?いや、シンジくんに対しては他のリリンとは違う心の繊細さに惹かれたという好意であり、リリンの好意がそれぞれあるとすればこれはある意味一つの好意だろうか?それを僕は感じている…?」

ブツブツと声の低いトーンで周りからすれば何を言っているかわからない上にあまりにも剣幕な顔だったので皆静まり返っていしまった。

「か、カヲル…?」
「感じているとすればこれはなんだ?こうやって熱くなるというか、苦しいというか、それすら現しようのない…」
「やばい、この思考モードのカヲルは何を言っても聞こえてない感じだわ」
「どこでそんなスイッチが入ったのさ」
「希美のせいじゃない」
「えー?」

結局。
カヲルの思考はまとまらないまま。
とりあえず家に帰る事になったのだった。






これがなんなのか知ってしまった時。

僕はどうするのか。



それを知るのは楽しみかもしれない。





to be continue.
2016.08.28.

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