4/8
――結局、日曜日。
あたしはパパと2人っきり、車に乗って出かけている。
「みなさんによろしくね」って包みを渡していたところを見ると、ママは行き先を知っているようだったけど、あたしには教えてくれなかった。
出発する時に助手席でむくれているあたしに、ママはウィンクを投げてよこしたけど、どうしろっていうんだろう、この車の中の空気。
「ミヤちゃん、ガム食べる?」
「いらない」
機嫌をうかがうように聞いてきたパパに、そう答えてから、あたしとパパに会話はない。
車の中に広がっているのは、ラジオの音だけだ。
――まもなく、大きな被害をもたらした東日本大震災から4年が経とうとしています。今日は、みなさんの震災に関するメッセージとリクエスト曲を紹介しています。続いてのおたよりは……。
ラジオから流れてくるのは、「花は咲く」や「アンパンマンマーチ」、元気を分けてくれるような曲ばかりだった。
4年前はあたしはまだ8歳で、覚えてないことの方がたくさんだけど、懐中電灯だけの灯りの中、ラジオから聞こえてきたアンパンマンの曲に、怖かった気持ちがほんの少し小さくなったのを覚えている。
あの日は、確かパパは仕事で、家にはいなくて。電話が全然つながらなくて、ママがパパにメールをして、夜になってから大丈夫だという返事が届いたんだっけ。
次の日の午前中にやっと帰ってきたパパに、うれしくて飛びついた。
パパもあたしも、お風呂になんて入ってなくて、だけどその時はそんなこと全然気にならなかった。
パパが帰ってきたって、それだけがただうれしかった。
それなのに、今は。
はあってため息が体の奥から出てくる。
ぼんやり窓の外をながめていると、
「着いたよ」
パパの声と同時に、車が止まった。
着いたのは、まだ建てられたばかりの、新しい一軒家だった。
パパはママから渡されていた荷物を手にして、ピンポンを鳴らす。
出てきたのは、おばあちゃんの年齢に近いような……おばさん。
「あらーナオハルさん今年も来てくれたの!」
おばさんは、パパに気づくと、ニッコニコと笑う。声も、とても明るい。
それから後ろにいるあたしに気がつくと、口を大きく開けてびっくりした顔をする。
「あら、もしかして」
「娘です。ほら、ミヤ挨拶して」
「こんにちは」
わけがわからないまま、ぺこりと頭をさげると、おばさんはまた明るく元気な声で、
「入って入って! お茶淹れるから! おばあちゃーん、ナオハルさん来てくれたよー!!」
あしたちには手招きをし、奥の部屋の誰かには大きな声であたしたちがやって来たことを伝えた。